我々は鳥が好きだ。

 翼を広げ気持ちよさそうに青空を滑空する姿に憧れを抱いている。

 遠い祖先もまた同じ気持ちを抱いていたのだろう。

 我々の住居には鳥を象った装飾が、あちらこちらで見られる。

 僕はとりわけ鷹に心を奪われている。

 大きな翼を広げ鋭い眼光で獲物を見つけ、決して狙いを外すことがない。彼らは空の王者だと言っても過言ではないだろう。


 穴を掘っていると、どうにも気持ちが沈んでしまう日がある。

 そんな時は穴の底から空を見上げるんだ。

 どれだけ掘り進んだのか、時間はあとどれぐらい残っているのだろうか…そんなことを頭の片隅に追いやり、ただ空の青さに思いを馳せる。

 そうして鳥に、鷹になった自分を想像するのだ。

 彼らは穴の底にいるちっぽけな我々の姿でさえも、逃すことはないだろう。

 こちらを見つけると狙いを定め、大きな翼を畳み、急降下してくる。そして、穴の底で怯えている我々を立派な鉤爪と嘴で捕らえる。

そのようにして我々は自分自身を、自分自身であったものを殺すのだ。


想像の時間が終われば、我々はまたせっせと穴を掘るのだ。

何のために?誰のために?いつまで続けるのか?

そんなことを考えたことはない。

これは我々に与えられた使命なのだ。

でなければこれ程永い時に渡って続けられているはずがない。

鳥が空を飛ぶように。

我々は穴を掘るのだ。


こんなことを考えているのはぼくだけかもしれない。

ぼくの考えを耳したところで、仲間たちはいつも通りだろう。

太助ならば「よく分からないけど凄いね」と答える。

久喜ならば「よく分からないけど手を動かせ」と怒る。

カルジなら「よく分からないがいい考えだ」と納得する。

幾年も幾年も繰り返されて来た問答だ。

ぼくもまた、繰り返し涙するのだ。

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あなほりの子 藤田テツ @tetsu-fujita

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