星の死

 星がきらりと光っている。今日も明日も、どれだけ時が経っても、自分が生きている間にそれが消えてしまうことはないだろう。

 いつか誰かが言っていた。

 今見ている星の光は、彼らが死ぬ間際に放つ最期の命の輝きだと。もう死んでしまっているのだと。

 それはよく分からなかった。

 今まさに見えているなら、そこに存在しているのではないか?

 そう思わずにはいられなかった。

「遠くに離れすぎているから、そう感じるんだ。けれども、実際にはあそこで赤く光っている星はもう既に死んでしまっているんだよ。それは君がどれだけ『分からない』と言ったって、変わることのない事実さ」

 

 滝のように汗が流れる。

 もう十日は家に帰っていない。その間寝食も忘れてひたすらに穴を掘っている。

 星の死について教えてくれた友人。

 彼でも『あなほり』について、それがおかしな行為だと感じていないようだった。

「穴掘りかい?素晴らしい労働という認識だよ。先祖代々行われてきており、それは時代を跨ぎ大きな目標のために続けられてきているのだろう。私にはとても計り知れない大きな目的があるんだ。そしていつか終わりを迎えるだろう。歴史的なその時に、この偉大な事業に携わった者として名前が残ることは、この上ない名誉さ」

 彼のように、他の仲間たちのように、穴を掘りそしてそれを埋めるという行為に意義を見出すことができたら良かった。それをどれだけ願っただろうか。

 星に願ったこともある。

 だけど、その星もまた、死んでいるのだ。


 ある日、太助が穴から戻って来なかった。

 弥平に聞いても久喜に聞いてもカルジに聞いても、彼らは何も知らないというだけだった。

 太助のことが大好きだった。

 彼は自分には他の三人に比べて優れたとこなんて何もないと、いつも言っていた。

 そんなことはないと思う。

 少なくとも彼の優しさに自分は救われ、そして彼とずっと一緒にいたいと願っていた。

「彼にはもう二度と会えない。彼もまた、偉大な先人に並び、この事業の確固たる礎となったのだ。だから、君、もう泣くのはよしなよ」

 いつからこの作業に違和感を覚えたのか、もうよく覚えていない。

 なぜ自分以外の皆は誇りを持って穴掘りをしているのか。

 頭がおかしくなりそうだった。

 唯一の拠り所であった太助に、二度と会えないと知った時、家を捨てたのだ。


 遠くへ、遠くへ、

 それだけを思い、どんどん穴を掘る。

 穴を掘ることに、戸惑いを覚えていても、結局自分も穴を掘ることしか知らないのだ。

 遠くへ、遠くへ、

 星より、遠くへ。

 暑い、熱い。

 太助と再会できるまで、遠くへ。

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