【ジュリア】
『隊長、お見事です』
遅れて合流した戦闘員のひとりが、凛を肩に担いだまま〝隊長〟と呼んだ女を賞賛する。その近くには、気絶している雪平を両肩から挟んで支える戦闘員たちの姿もあった。
『これで標的はすべて捕らえましたね。さっさと基地に戻って、乾杯しましょう。身体の水分が無くなるくらい、死ぬほど汗をかかされましたよ』
『乾杯もいいけどよ、こんなクソ蒸し暑い国、1秒でも早くおさらばしたいぜ!』
男たちが口々に不満を洩らせば、女の癖なのだろう、腰まで伸びる艶やかな黒髪の片側の束を、右手の甲でサッと流してそれらを制した。
『おまえたち、喜ぶのは早いぞ。妨害電波で通信を遮断するのは、標的を含む来場客すべてを捕獲するまでのあいだだけ。だが……いまだに通信は遮断されたままだ』
『どうせまたスコットの野郎が、マスでも掻いてサボってるんだろうよ!』
『フッ……それならそうで、
女の返しに、笑い声を一斉に上げる戦闘員の男たち。すると、女の腰の辺りから電子音が鳴り響く。
『おや、聞こえていたのかな?』
ゆったりとした動作でヒップホルスターから携帯電話を取り外し、女は通話を開始する。
『──ジュリア、任務はまだ終わってないブゥ』
『その声はブタか? 携帯電話を使えるだなんて、想像以上に賢いんだな、おまえは』
『ブッヒッヒ。アジア女の
『……用件はそれだけか?』
『
『なんだと!?』
『おまえたちのバックアップで待機していたから、すぐに合流できるはずブゥ』
『
声を凄ませる女の殺気だった姿……通話の様子を見守っていた戦闘員たちに緊張が走る。
『とにかく、早く〝穴〟に戻っておいでブゥ。ブッヒッヒッヒッヒ』
そこで通信は途切れた。
わざわざ日本に、東京ケツバット村にジュリアたちの部隊・
今回の作戦は、
それだけの活動内容であれば、実行はケツバット村の連中に任せて、自分たちは最悪の場合に備えバックアップにまわればいいように思われたのだが、〝村人には頼らず、情報も共有するな〟との命令により、現在に至っていた。
それなのに──だ。
自分たちのバックアップとして、別部隊の
この作戦が改良型ウィルスの使用実験だけではないと睨んだジュリアは、これから起きるであろう様々な出来事の予測をひとり頭の中で組み立てる。
だが、そのどれもが、今回の作戦は限りなく最悪に近いことを予感させるものであった。
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