【彩夏、小夜子(1)】

「たっ、助け……うぎゃああぁぁああああッ!」


 窓越しのすぐそこの道では、走って逃げていた見知らぬ来園客の男性が、黒いカラーリングの金属バットで尻を勢いよく叩かれ、前のめりになって顔面から倒れる。

 ガスマスクを被る黒い戦闘服の暴漢たちは、うつ伏せになったその男性の髪や腕を掴んで強引に立たせると、さらにまた彼の尻をバットで打ち抜く。同じような仕打ちが、視界に入るあちこちで行われていた。


「うっ……うう……ひっく……ううう……」

「うるさい、黙れ!」


 窓の下に隠れて屋外の様子を探っていた彩夏は、陳列棚に向かって三角ずわりの姿勢で泣きじゃくる小夜子の背中を睨みつけながら命ずる。

 黒装束の集団が現れてすぐ、正面ゲートをめざして逃げたのだが、途中で莉子とはぐれてしまい、しかたなく彩夏と小夜子は、その場しのぎでケツバット・カフェに隣接している土産物店の中に隠れていたのだ。


「ひっ、ぐっ……ん……ううっ、お母さぁん……」

「だから、黙れってば!」


 いらつく彩夏は、これからどうすべきか、思考をフル回転にして考えていた。


 莉子はひょっとしたら、もう捕まっているかもしれない。

 だとすると、このままでは自分たちも危ない。

 早くここから逃げなければ……いや、足手まとい・・・・・がいるから、自分も捕まってしまうだろう。


 そうなれば、選択肢はひとつ──


「──ねえリナ、走れそう? ここも危ないから、ほかの場所へ逃げようよ。ね?」


 外から見つからないよう、彩夏は姿勢を低くして小夜子に近づく。


「大丈夫だって。あたし、助かる自信があるんだ……」


 声を殺して泣き続ける級友の片腕をやさしくさすりながら、いびつな笑顔の彩夏は、怯えて震える背中に語りかけた。


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