【莉子、彩夏、小夜子】

「地震、もう大丈夫?」


 サイレンが鳴り続けているというのに、莉子はジェットコースター乗り場付近の自販機で缶ジュースを買いながら、小夜子に素っ気なく訊いた。


「あれ……どうしたんだろ、圏外になって検索できない……」


 スマートフォンを使って状況を確認しようとしていた小夜子は、不安の眼差しでタッチパネルを連打する。が、インターネット接続がうまく機能せず、アニメキャラのホーム画面で固まったままだ。


「大丈夫なんじゃないの? だってほら、ジェットコースター動いてるし」


 彩夏が上空で稼働する車両を指差す。

 ぶら下がり式のジェットコースターが、最高到達点をめざして緩やかに昇っていた。


「ええっ!? だって、サイレンが鳴ってるよ!?」

「問題ないから動いてるんでしょ」


 プルトップを開け終えて昇りつめる車両を見届けながら、莉子は淡々と缶ジュースを口に含んだ。

 高さ地上45メートル……恐竜の骨を彷彿とさせる、細かな支柱が入り組んだ巨大な建造物。

 その最高到達点に達したジェットコースターは、一瞬だけ止まったかと思えば、逆走で一気に落ちるようにしてレーンを戻っていった。


「あれっ? ねえ莉子……後ろ向きで走るパターンのヤツだっけ、これ?」


 彩夏がパンフレットをくまなく確認しても、そんな記載はどこにも見当たらなかった。

 車両は、さらに加速する。

 乗客を支えていた座席が次々と落下していき、ジェットコースターは完全に宙吊り状態のままで走行する格好になった。


「ヤバイよ、あれ! ねえ、これって事故じゃないの?!」


 小夜子はパニック状態でふたりを見るが、莉子も彩夏も上空を見て固まったままだった。

 乗客たちは、この世の最後と言わんばかりの悲鳴を上げる。

 だが、園内各所のスピーカーから流れるけたたましいサイレンの音が、それらを無慈悲にかき消した。

 すると突然、今度は支柱の一部から異様に長い棒が突出する。黒い光沢を放つそれは、レーンの行手を遮断機のようにして塞ぎ、上空の風で左右に細かく揺れていた。


「──なにあれ?」


 小夜子の口もとを押さえる右手が、恐怖に震える。

 やがてすぐに、乗客たちを拘束したまま逆走する車両は、凄まじい勢いで棒を目掛けて突っ込んだ!


「ぎゃああああああああああ!」

「きゃあああああああああッ!」

「うわあああああああああッ!」


 まるでマシンガンの乱射のような破裂音を響かせて、その長い棒は乗客たちのでんをピンポイントで次々と打ち抜いていく。

 まさに、凄惨だった。

 棒が出現したのは数ヵ所で、それらを通過するたびに破裂音と悲鳴が入り交じるのだ。


 そして、ジェットコースターは2週目に突入する──


 そんな光景を目の当たりにした莉子は放心状態となり、手から缶ジュースが転がり落ちた。

 カラコロと音をたてて中身を吐き出しながら背後へ転がっていった缶は、やがて、黒いミリタリーブーツの爪先に当たって止まった。


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