【5人の少女たち(6)】

 ジェットコースター乗り場はそれなりのにぎわいがあり、予想以上に長い行列ができていた。

 出入口付近では、身長制限に引っ掛かかる小さい背丈の5歳くらいの男の子が、駄々をこねて母親を困らせている。


「やだやだやだ! 乗るもん! 絶対に乗るもん!」

「もう……わたる、我慢しなさい。大きくなったら、いっぱい乗ろうね」

「やだやだやだ! いま乗りたいの!」


 とうとう男の子は、大声で泣きだした。母親は苦笑いを浮かべながら男の子を抱き上げて慰め、どこかへとそのまま立ち去っていった。

 そんな光景を横目に、莉子を先頭にした少女たち5人が列の最後尾に並ぶ。


「えーっと、今の待ち時間は……げっ! 60分だって! |ウソでしょ!?」


 そんな言葉に、麻琴が腕時計を見る。時刻はちょうど、正午になろうとしていた。

 このまま待ち続ければ午後になってしまい、お昼御飯はそれ以降となるだろう。今朝のパンはどこへ消えたのか、麻琴のお腹がクゥーっと、情けなく鳴いた。


「ねえ、ジェットコースターはやっぱり後にしない? 急にお腹が空いてきちゃったから、先にお昼ご飯にしようよ。マコがお食事券を大量にゲットしたしさ」


 彩夏のワガママな提案に、すかさず反応した凛が「ゴチになります!」と、礼儀正しく麻琴に深々とお辞儀をしてみせる。


「あ……じゃあ、みんなお昼にしようよ!」


 ショートデニムパンツの後ろポケットにしまっていた食事券の束を取り出した麻琴は、高くかざしてヒラヒラと振ってみせた。

 莉子は不機嫌そうに軽く舌打ちをし、遠くの最前列を一瞥いちべつする。


「こんだけ並んでるなら、食事は並ばなくてすむかもね。ご飯が食べれるお店って、確かこの近くだったよね?」

「え? えーっと……ちょっと待ってて……」


 急に訊かれた小夜子は、慌てて背負っていたミニリュックからパンフレットを取り出して広げる。


「あっ……うん! そこを曲がれば、ケツバット・カフェが──」


 顔を上げると、みんなはとっくに先へと進んでしまっていた。


「……ある……よ……」


 遠退くみんなの背中を見つめたまま、短く鼻をすすり、広げたパンフレットを静かに閉じる。

 慣れているとはいえ、いつもこんな扱いでは、やがて自分は疲れ果てるだろう。いや、もう疲れきっていた。

 真新しいスニーカーの爪先を見つめながら、小夜子はこんな自分から変わりたいと強く願った。


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