再会

 朝食の片付けを終えて、洗濯機を回しながら読書をたしなんでいると。アイリスが起きてきた。


そしてそれを視認した元気は、急いで読んでいた本を隠した。


「……目が覚めたんだねアイリス。体調は大丈夫?」


「はい、すいませんでした。凄く怖い物を見た気がしたのですが、あんまり覚えていなくて……」


 ほっぺたに指を当てながら、コテリと首を傾げるアイリス。


「そうなのかい?覚えていないなら、重要な事じゃないんだよ。忘れるといい」


 元気が笑顔を見せると、アイリスもニコリと仕返す。


「そうですね。そうします」


「それで何でわたしは、寝ていたのですか?旦那様?」


「ん?ん~、何でアイリスは起きていたと思っているのだろうか?」


「なんで?」


 アイリスがまた、コテリと首を傾げる。


「アイリスは本当は、ずっと寝ていていたんではなかろうか?」


「え!?そうなのですか?」


「もしかしたら夢を見ていたのでは、なかろうか?」


「そう……なのでしょうか?」


「でも、お洋服がメイド服……もしかして!旦那様が、お仕着せを……?」


 口の前で手を広げて、びっくりするアイリス。


「いや。お外で遊んでたら、疲れてたみたいで、急に寝ちゃったんだ。だからベッドまで運んだんだよ。……顔を洗っといで、おやつにしよう!」


 笑顔で説明をする元気。


「そうなのですか?ありがとうございます!」


 笑顔でアイリスが顔を洗いに行く。それを見送ると、元気はおやつの準備を始める。そして、おやつの準備が終わり。本を読みながらアイリスを待っていると、ミルオレが家の中に入ってきた。


「かぁ~、寂れた部屋じゃなぁ。わびしいにも程があるぞ」


「そうか、じゃあ魔国に帰るが良い。さよなら」


「じょ、冗談じゃって、さっきの事はちゃんと謝ったじゃろ?」


「はぁ……今アイリスは顔を洗いに行ってるから。そこに座って待ってろ」


 元気がそう言うと、席に座るミルオレ。そして、クッキー見ながら口を開いた。


「のう、元気よ?わらわも、お腹空いた」


 元気が本の上から、チラリとミルオレに視線を向ける。ミルオレはクッキーに視線固定だ。


「それで?」


「何か食べたい」


「ミルオレ、お前は客人でも何でも無いのはわかってる?」


「わ、わかっておるわ。まったく……。わらわの体が欲しいのなら……」


 ミルオレが元気に向かって、おっぱいをぽよんぽよんする。


「帰れ」


 元気はおっぱいに目線をやったが、すぐに本へと戻した。


「帰れとはなんじゃ!わらわのからだじゃ気にくわんのか!?」


 ミルオレが身を乗り出して、ぽよんぽよん文句を言い出した。


「何かなぁ。違うんだよなぁ。エロいけど、エロくないっていうか。求めてないエロさってかさぁ……」


「失礼すぎるぞ!あ!はっはぁ~ん、さては、其方、童貞だなぁ~?そうじゃろ?ひゃっ!」


 どうやらミルオレは叩かれると可愛い声が出るらしい。


「図星をつかれたからって、殴ることはないじゃろが!」


「何か作ってやるから、黙って座ってろ!」


「初めからそう言えば良いのじゃ、まったく……」


 生まれて初めて女性に拳骨をしまった、が心は痛まなかった。


「お、お母様!?」


「アイリス!!!」


 アイリスが洗顔から戻ってくると、ミルオレを見て驚く。そして元気をみる。元気がニコリとアイリスに笑顔を向けると、アイリスはミルオレに飛びついた。


「おかぁさま~!あいたかった~!!!」


「あぁ!アイリス、無事で何よりじゃ!良かった!良かった!」


 お互いを抱きしめ合う二人をみて、元気は良かったな。と思う。それと同時に、二人が羨ましくなり。何だか無性に、ミリャナに甘えたくなった。


しばらく抱擁した後。ミルオレがクッキーに目をやる。


「これ。食ってもいいのか?すこぶる良い匂いじゃ」


「クッキーです、凄く美味しいんですよ!ね!旦那様!」


「旦那様?じゃと?なんじゃそれは?」


 ミルオレが元気を睨む。


「お、お母様!わたしがここに居るためにメイドをする。と言ったのです!」


「何故じゃ?アイリス?」


「何故って、行くところが無いからです」


「それは、そうじゃが、そんなことしなくても……」


「ご飯も、おやつも、寝るところも、他には無いのですよ?お母様?お母様はどうにか出来ますか?」


「うぬ、出来ぬ……」


「でしょ?なので旦那様に養って貰う為に、働くのです」


 ミルオレがアイリスを驚いた顔で見ている。

 元気も驚いたが、親がしっかりしていないと子供がしっかりする。らしいので、アイリスのしっかり具合には納得出来た。ポタンのしっかり具合が良い見本だ。


「まぁ、取り敢えず二人とも食べな、もうすぐお昼だから、ちょっとだけど」


「うむ、では早速……」


「お母様、いただきます。です」


「なんじゃそれは?」


「食事をする前の挨拶です」


「どうするのじゃ?」


「いただきます!」


 アイリスが両手を合わせ挨拶すると、美味しそうにクッキーを食べ始める。それを見てミルオレもいただきます!といってクッキーを食べ始めた。


「おわぁ!何これ!めっちゃめちゃ美味しいじゃんか!元気達はこんな美味しい物を毎日、食べてるのか!?」


「お母様、そんなガツガツ食べては、お行儀が悪いですよ」


「うむ、じゃが、とまらんのじゃもん!」


「すいません。旦那様」


 申し訳無さそうに、でも嬉しそうにアイリスが謝って来る。


「俺のことは良いから、アイリスもお食べ」


「はい!」


 二人が美味しそうにクッキーを頬張る姿を、元気が微笑ましいな。と思いながら見ていると。先に食べ終わったミルオレが、元気のクッキーをジーッと見つめる。


 元気がミルオレにクッキーを差し出すと「良い心がけじゃ!」と言って、元気の分のクッキーも食べ始めた。


 それを見て、アイリスがチラリと元気を見る。元気はアイリスに気を遣わせ無い様に、ニコリとする。するとアイリスもニコリと微笑み返してくれた。


「よし。元気。わらわは、決めたぞ!わらわもメイドになる!」


「断る!」


「何でじゃ!!!」


「もう、ミルオレからは、フェルミナ臭しかしないんだ」


「フェルミナ臭とはなんじゃ!?」


「問題児の香りしかしないんだよ。諦めてくれ」


「アイリスがやっておるんじゃから、わらわも良かろう!」


「何でそうなるんだよ?娘の職場に乗り込む親はいても、雇って貰おうとする親は、いないのだろ?」


「アレじゃ、雇ってくれたら、お前のふでおろしをしてやるぞ?どうじゃ?」


「娘の前でそんな話しをするな!教育に悪いだろ!」


「お!お母様駄目です!だ、旦那様とはわたしが大きくなったら……するん……ですから」


「き、貴様!アイリスに何を教えたのだ!」


「お、俺じゃ無いって!あ、アイリス何処で覚えたんだい、そんな言葉?」


「そ、その、お兄様達が話しているのを聞いて、何となくそういうことかな?って……」


 アイリスが頰を染めながらそんなことをいう。


「まったく、あやつらめ!」


「そういや、お兄さん達はどうしたの?」


 あわよくば、そこに引き取って貰おうと思い聞いてみる。


「死んじゃいました」


「あ、あぁ。そうなんだ……」


「馬鹿共が、せっかく育ててやったのに、オルガンについて戦争に行って死におったわ!せいせいする!」


「そんなこと言うなって、アイリスが可哀想だろ!」


「いえ、お兄様達は女はいらん!と言って蹴ったり、殴ったりして来るので、死んだと聞いて安心しました」


 アイリスが笑顔でそんなことを言う。本当に魔族の男は、ろくなのがいないのか?


「あ、あの、お母様の面倒はちゃんと見ますので、駄目でしょうか?」


「ア、アイリス……」


 ミルオレがウルウルしながら、アイリスの優しさに感動しているが、犬猫を拾って来たときに使う文言である。しかしミルオレは気付かない。


「アイリス?ミルオレの面倒を見るのは大変だぞ?ちゃんと出来るのかい?」


「はい!頑張ります!」


「わらわも頑張るぞ!な、アイリス!」


 二人がウルウルした目で訴えてくる。


「も~、わかったよ」


「よし!やったなアイリス!」


「はい!お母様!ありがとうございます!旦那様!」


「じゃが、元気よ、アイリスに手を出したら死に目に会うと覚悟せよ」


「お母様!わたしの恋路に口を出さないでください!それと旦那様でしょ?」


「だ、旦那様!……旦那様……ぐぬぬぬぬ!」


 ミルオレは暫くクッキーの皿を見つめると、何かを諦めた様に「よろしくなのじゃ、旦那様」と言った。


 その後は二人で遊んでもらい。地下に、二人の部屋を作った。部屋には、ベッド二つにライトなど生活用品を準備しておく。


 後は……ミリャナへの説明だ。


 前もってミルオレには、言っておくことにした。


「ここの家主で、俺の家族のミリャナを馬鹿にしたり、傷つけたりしたら、アイリスに怨まれたとしても、速攻でこの島から追放するからな!それだけは覚えておけよ!」


「なんじゃ、家主は其方じゃないのか?わかった覚えておいてやる」


「ミリャナ様はお優しい方なので、お母様もきっと気に入りますよ」


「ふん、人間の分際で、わらわの娘に様付けさせるなぞ……いっそ家ごと乗っ取って……」


ミルオレが悪い顔をする。


「追放されたいのか?」


「わ、わかっておるわ、そんなに睨むな」


 少し心配だが、これでミリャナに説明するだけだ……。屋根裏小僧には、おいおい説明すればいいだろう。と思い。嬉しそうなアイリスを見やった。

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