酒の肴~フェルミナ・グレイ・ミノス~
戦いが終わった後の熱帯夜……身体を動かすのが好きなフェルミナ、グレイ、ミノスは、意気投合し。現在、町の門の詰め所奥の小部屋で三人、酒を飲んでいた。
「ふむ。ではミノスよ、姫君がまだ城に幽閉されておるのか?」
グレイが酒をミノスのグラスに注ぐ。
「そうだ、我はアイリス様を救い出した後、奥方の救出に戻ったのだが、失敗してしまってな……姫君を処刑しないのを条件に、あの船に乗る事を命令され、軍の指揮を執っておったのだ」
ミノスが、グレイのグラスにカチンと自分のグラスを当てると、酒をチビッと煽る。
「現魔王はそんなに強いのか?オリガミだっけ?」
フェルミナが酒を酒瓶から直接ゴクゴクっとラッパ飲みする。鎧姿の二人とは違い、紫色のジンベイを着てサンダルという、ラフな格好だ。
「オ、オルガンです。フェルミナ様……」
グレイは、フェルミナのはだけた色んな所が気になる様子だが、ミノスは気にならい、嫁ラブなのだ。
「力自体は、前魔王のヴェルゴレ様の方が強かったが。平和など生温いと、オルガンの率いる、血気盛んな魔族共が、奴隷狩りを始めた。それを辞めさせる条件として、王位をオルガンに譲ったのだ。だが、それが間違いだった。その後すぐにヴェルゴレ様は、アイリス様と奥方をオルガンに人質にされ……。処刑されてしまったのだ」
「魔族は、王様が一番偉いんじゃないのか?ゴクゴク……」
「本来はそうだが、平和を望むヴェルゴレ様と、戦いを欲するオルガンとの間で、派閥が出来ていてな……」
「オルガンを殺せば良かったではないか?ゴクゴク……」
「フェルミナ様、それではオルガンについていた者どもが暴走すると、前魔王は危惧したのではないのでしょうか?」
「そうなのか?ゴクゴク……」
「うむ、グレイの言うとおりだ。ヴェルゴレ様は王で無くとも民のために、出来る事をすれば良いのだと言っておった」
「で、殺されたのか?馬鹿だな。ゴクゴク……」
「フェルミナ様言い過ぎですぞ、民を守るとは難しいのです」
「ふ~ん。そうか。ゴクゴク……。ふい~。グレイおかわり!」
解ったのか、解ってないのか。フェルミナは納得した風に頷く。そして、酒を催促されたグレイが、新しい酒瓶をフェルミナに渡す。
「それで、ミノスよこれからどうするのだ?このままこの島で暮らすのか?」
「いや、我は魔国へ戻り。オルガンを打とうと考えている」
「なら、元気に言えば何とかしてくれるんじゃ無いのか?ゴクゴク……」
「それは駄目だフェルミナ殿、元気は優しすぎるのだ。ヴェルゴレ様と同じにな。魔族であっても殺す殺さぬは嫌いだろう。それにまだ子供だ、国政に引っ張り出すのは可哀想だ」
「ふ~ん。じゃぁ、私達で助けに行くかぁ!」
フェルミナは酒をゴボゴボゴボゴボ!っと一気に飲み干し。詰め所から駆けだして行った。
「フェルミナ殿は、何処へ言ったのだ?」
開いたままの扉を見つめる二人。
「さ、さぁ、フェルミナ様は気分屋だ。いつも風の様に現れ、風の様に消えるんだ」
「フフフ、しかし驚いたぞ、フェルミナ殿はエルフ族であろう?エルフとは本来、平和主義で穏和な性格。魔石の乱獲によって魔国で真っ先に滅んだ種族だ」
ミノスが酒をチビリと飲む。
「私もエルフを最近初めて見たが、フェルミナ様の伝承では、黒竜を討伐したと伝え聞いている、エルフは強いと思っていたぞ?」
グレイも酒を飲む。そして、グレイの話を聞いたミノスが腕を組む。
「ふむ、国によって違うのか、面白いな」
「しかし他のエルフ達は、静かだ……。もしかしたら、フェルミナ様が特別なだけで、本来は温厚な種族なのかもしれんな」
グレイがおもむろに髭を触る。
「本来は、か……」
「うむ」
二人は浜辺の光景を思い出し沈黙した。
「……まぁ、エルフは怒らせない方が良いな」
「……うむ、この島で暴れられたら、こんな小さな領地。一瞬で消えてしまうだろう」
そんな話していると、外からフェルミナの大きな声が響いて来た。
「おーい、お前らぁ!早く出て来い!行くぞ!早く!早~く!お~い!」
その後もフェルミナの声が止まらない……。
「フェルミナ殿は、大声を出してどうしたのだろうか?」
「うむ。夜中に目立つのは、好ましく無いな。行ってみようミノス。詰め所で酒を飲んでいるのがバレたら、大目玉だ……」
「うむ。確かに、よろしくは無いな……」
急いで兵舎から飛び出したミノスとグレイは、フェルミナの声がする星空を見上げ、目を見開き声を失った。
月明かりに照らされ、黒光りする巨大な鳥の羽根に、フェルミナが立っていたのだ。
「な、何だあの、怪鳥は……」
「エルフ達の……使役する魔物か何かか?」
グレイとミノスが驚きながら見上げる鳥の正体は、ジェット機。フェルミナは元気が隠しておいたジェット機を、盗んできたのだった。
「ハハハ~!驚いただろ?ちょいと待ってろ!」
驚く二人に満足したフェルミナが、町の門前へジェット機を着陸させた。
「こ、これは、一体……?」
グレイが恐る恐るジェット機を触り。ミノスがコンコンと叩いて見る。
「生きているのでは……。無いのか?」
「これは、ジェッテキだ!元気に……借りてきた。早く乗り込め!」
ぶるるんと胸を張り。嘘をつくフェルミナだった。
「ふむ。そうか、三人だったな。グレイはどっちがいい?」
「どっちとは?」
「ミノスの膝の上か、私の膝の上か」
フェルミナが座席から、グレイを見上げる。
「ひ、膝の上ですか!?」
フェルミナの言葉に驚いたグレイが、フェルミナを見下げると、汗ばんだ胸が月光に照らされているのが目に入る。グレイはフェルミナの上に座りたい……ゴクリと息を呑むとグレイは選択した。
「失礼する……」
「……。フッ。難儀な男だなグレイ……」
「うるさい……」
「よし。乗ったな~!」
ミノスの膝の上を……。
体格の良いミノタウロスの膝に、中年の髭面のオジサンが乗る。と言うシュールな絵図らだったが、ミノスはグレイの慎ましさに男気を感じたのだった。
フェルミナがハンドルに魔力を流し込むと、ジェット機が浮かび上がる。動力は魔力なので、音は静かだ。
「道案内を頼むぞ!ミノス!」
「フェ、フェルミナ様!何処へ行くのですか?」
目的地が解らずグレイが訪ねる。
「何を言っているのだ?魔王の城に姫を助けに行くのだろう?」
「ほ、本気か!フェルミナ殿!?」
「さっき言われた事は、本気だったのですか!?フェルミナ様!?」
「もちろんだ!魔王の城から姫を救うなど、そんなワクワクする事があるかってんでい!」
何処で覚えたのか、江戸っ子っぽく手首で鼻をクイッとするフェルミナ。
「魔国はここから、南の方角だが……」
「南ってどっちだよ?指さしてくれ」
江戸っ子は細かい事は覚えていない。
「あっちですが、ほ、本当に行くんですか?」
「てやんでい!あたぼうでい!途中で他の奴らも待ってるからな!」
そういってフェルミナはジェット機を南へ飛ばした。
「何だ!この早さは!?」
「す、凄まじい早さだ!?」
グレイとミノスがジェット機に驚いていると、大きな飛行船がジェット機の両脇に姿を現した。飛行船の下には、江波がぶら下がっている。
「あ、あれは……巨人!?」
「フフフ、初号機と二号機だ。三号機は詰めなかったので残念だが置いて来た。昼間暴れたりなかった皆も、行くと言い出したのでな。行きたい奴ら皆で行く事になった。30人はいるぞ!!!」
フェルミナがそう言いながら、飛行船に手を振る。すると、飛行船の窓からジェット機を見ていたエルフ達が、フェルミナに手を振り返す。皆ニコニコ笑顔だ。
「これは、何という奇跡か……。今日という日を、出会いを作ってくれた元気に、何と感謝をすればいいのか……もはや、言葉では足りぬ……」
「おい!ミノス!感謝は良いけど、絶対元気には言うなよ!怒られるから!!!言葉じゃ足りないなら。何も言わず。お前のパンツでもあげとけ」
「ぱ、パンツ?何故かは解らんが……解った……。我のパンツか……」
しばらく飛ぶと、ジェット機が雲の中に入り。ゴゴゴゴウっと風音が酷くなる。
「フェルミナ様!魔王の城に行ってからどうするんですか?」
ゴゴゴゴゴゴ……
「え!?何て!?」
ゴゴゴゴゴゴ……
「ん?あぁ。聞こえなかったのか……。魔王の城に行って!!それから!!どうするんですか!!」
ゴゴゴゴゴゴ……
「姫を助けるんだろ!!?」
ゴゴゴゴゴゴ……
「どうやってですか!!?」
ゴゴゴゴゴゴ……
「しらん!!!風がうるせぇな!これ!」
エルフの救出。あれからジェット機は使って無いので、まだ窓が無いのだった。
「ちょっと、上に行こう!!!」
フェルミナはそう言うと、ジェット機を雲の上に抜けさせた。それにエルフ達の飛行船も一緒について来る。
フェルミナ達の正面には、蒼白い大きな月が悠々と輝き、空面下の雲の海とフェルミナ達を薄く照らす。
「う、美しい……。これ程美しい景色は、生まれて初めて見た……。星に手が届きそうでは無いか、まるで星の海を泳いでいる様だ……。なぁ。ミノスよ」
「ガハハハ……。グレイは門番よりも詩人になるのが良いのではないか?」
「うるさい……」
「しかし、同感だ……。これ程までに美しい景色があるとは……」
グレイとミノスが星空をを見ながら感動する。飛行船のエルフ達も夜空を見て喜んでいる様子だ。
「アハハ。あめ玉みたいで美味そうだよな~!」
風景よりも食い気なフェルミナにグレイとミノスが吹き出す。笑い出した二人に楽しくなり、フェルミナも一緒に笑った。
一通り夜景を楽しむと、グレイが話を戻す。楽しんでばかりもいられない状況なのだ。
「ミノスよ、姫の囚われている場所は解るのか?」
「あぁ、城の東の塔の最上階だ」
「城壁は巨人でいけるとして、巨人で塔の天辺まで届くか?」
「あぁ、あの大きさなら届くと思う」
「なら、巨人にミノスが相乗りして、塔の天辺へ侵入し姫の救出で良いか?」
「あぁ、それで良い。奥方を助けられれば何でもいい」
作戦が決まると、それをグレイがフェルミナに伝えた。
内容はこうだ。
巨人1体でまず先行し城壁を突破。西の塔付近で暴れ回る。その隙にもう一体で東の塔へ近づき姫を救出だ。
姫を救出したら飛行船へと保護し、速やかに撤退。ミノスはそのまま魔国に残り、難民を救助するとの事だった。
念話で作戦を聞いていたエルフ達が、難民救助という言葉に惹かれ、残りたがった。
しかし。巨人が消えたら元気にバレて怒られる。とイケメンに言われ。仕方なく救出組を10名ほどジャンケンで決める事になった。
魔王城近くの海上で、飛行船内のエルフ達にミノスが念話ごしにお礼を言うと、エルフ達が照れくさそうにモジモジする。そんな中。目下に魔王城が姿を現した。
「いよいよだな……。ミノス……」
「あぁ。気を引き締めよう……グレイ……」
ミノスとグレイが、何が起こるか解らないと言う緊張に息を呑むと、フェルミナが片手を天に突き上げて、大声で言い放つ。
「行くぞ!おめぇら!作戦開始でぇい!」
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