狼少年ヘイトとアルビナ
「クソ暑っちぃな」
今日も浜辺で死体処理の仕事だ。肉の焼ける臭いと、照りつける日差しで気を失いそうになる。
こうならなかっただけマシか……死体を台車に積みながらヘイトは思う。
「ったく、何が自由だよ。奴隷の時となんも変わんねぇじゃねぇか!」
「おい!そこのお前!!!今、聖人様の悪口をいったな!聖人様が許しても私が許さんぞ!」
クソ面倒な奴に絡まれた。
アルビナだったか?聖人崇拝者の一人だ。
「言ってませんって、聖人様に感謝してますよ」
「それなら良いが、では働け!」
「はいはい」
「返事は1度でよい!」
「は~い」
そういうとアルビナは監視に戻る。
監視付き労働の何処が自由なんだ?ヘストはフンっと鼻で笑うと、浜辺に戻り。死体を荷車に積み込む。
そりゃ、水や食料に綺麗な寝床には感謝するし、暇つぶしと言って殴って来ないのも助かるが、森を走り回っていた時の自由とは、ほど遠いぜ。
魔国へ帰っても走り回っていた森はもう無いんだけどな。
家族は全員奴隷として連れて行かれた。
それから会ってない、家族は結束しないようバラバラに別の戦場に連れて行かれるのだ。
前魔王がもっと強ければ良かったんだ……そこまで考えてヘイトは考えるのをやめる。奴隷の根性か……言ってくれるぜ……。
浜辺で死体を積むと台車でキャンプに戻り衛生兵に渡す。そして衛生兵が火葬をする。
奴隷の時とは違い、日暮れにはちゃんと仕事が終わるので、日暮れが待ち遠しい。
ヘイトは鼻が乾き始めたので、日陰で休憩を取る。狼型の獣人は特に鼻が乾きやすいのだ。
疲れたら自由に休んで良いと言われている。自由って縛られている中での自由かよ?
自由なんて良く言ったもんだぜ……。ヘイトはそう思うが、他にどうしようも無いので働くしかなかった。
死体を処理し始めて数日……時々奴隷の死体が、浜辺についている事がある。魔国の奴らにやられたのでも無く、人間にやられたのでも無い、服装も身体も綺麗な奴だ。
ドイツもコイツも幸せそうに、笑ってやがる。
今日も、身綺麗な死体を見つけて積み込んだ。それを見ながら、馬鹿が!死んだら意味ないだろうが!と心の中で悪態をつくヘイト。それと同時にバラバラになって離れた家族を思う。
どんな姿でも良いから生きていてくれ……。
胸の奥に凍る物を感じたヘイトは、頭を振ると立ち上がり、伸びをする。
大丈夫!大丈夫だ!俺がいつか、みんなを見つけりゃ良いんだ!とヘイトが思った時だった。
「ーーウガッ!!!」
背中に鋭い痛みが走り。前のめりにヘイトは倒れ込む……。倒れながら背後を確認すると、ゴブリンが片手剣を持ち嬉しそうにケケケッと笑っていた。
くそっ魔物の残党か!
「た、助けてく……くれ……!」
ヘイトは、すかさず声を上げようとするが痛みで腹力が入らない……。ゴブリンから離れようと浜辺を這いずるが、背後からゴブリンが近づいてくるのが解る。
前方を見ると、荷車に乗った死体が幸せそうに微笑んでいた。
こんな猿にあっさり殺されるのかよ……父さん母さん!……姉さん!死にたくない!
「た、助けて……」
必死に声を振り絞ったその時だった。
「ぎぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ゴブリンの悲鳴が上がった。
「お前!大丈夫か!?気をしっかり持つのだ!!」
助けてくれたのは、アルビナだった。
アルビナが、魔力を使って傷を癒す。
「す、すまない助かった」
「やはり残党が残っていたか……貴様はテントで休んでいろ、そこの荷車は私が運んでおく」
「何で……俺を助けたんだ?」
魔国でも魔力は貴重だ。人の為に使う事など殆ど無い……。ましてや奴隷の為になど絶対にあり得ない使い方だ。
「何を言っているのだ。同胞が死にかけていたら、助けるに決まっているだろう?」
「同胞?お前らは俺達奴隷の監視役だろう?」
「何を言っているのだ貴様は?我々はお前達兵士が安全に作業出来るよう。魔物の残党が出ないか、見張っているのだ」
「そうなのか?」
「あぁ、そうだ。聖人様の言っていたことが最近解ってきてな。お前ら兵士がいるから我々騎士団が自由に動けるのだ。
今回もお前らがいなければ死体の回収もここまではかどっていない。今までは平民など使い捨てれば良い。と思っていたが、今は恥じているのだ」
そういうとアルビナは荷車の上の死んだ奴隷の頰に、優しく触れる。
「こやつにも家族があったろうに……。其方も早く休め。其方が死んだら、皆が困るのだ」
そういうとアルビナは荷車を引いてキャンプに戻っていった。
「はぁ、やられたな。奴隷根性か……その通りだぜ……」
血が抜け過ぎたのか、少しフラフラする足でテントに戻ると、他にも数人サボってる奴がいた。
「お!お前もサボりか?やってられるかよなぁ?騎士様は見張りで、俺らばっかり働かされて。何が自由だってんだよ?」
「あぁ、まったくだよ、自由に休んでて良いってんだから、休んどくのが一番だ!」
そういって笑う男達を見て、ヘイトは皆同じ事を考えるんだな。と可笑しくなる。そして、無性に腹が立った。
「お前らと一緒にするな。ゴミ奴隷ども、俺は怪我をしたから少し休むだけだ」
「ゴミ奴隷だと?生意気なガキだな。おい、コラ。もういっぺんいってみろ」
「何度でもいってやるさ、助けて貰ってグチグチ言うくらいなら、死んでしまえゴミクソ奴隷共。死んだらそこで一緒に焼いてやるよ」
「くそガキが!!」
「舐めんなよ!!!」
ヘイトは大の大人2人に押さえられ、ボコボコに殴られた。そして、抵抗出来ないまま気を失った。
どれ位気を失ったのだろうか?ヘイトが意識を取り戻した時には、既に日暮れが近づいていた。
誰かに負ぶわれ、町に戻る途中の様だった。
「姉……さん?」
ふわりと懐かしい香りと感覚がしてヘイトがそう呟く。森でも良く姉さんにおんぶして貰った。
「起きたか、姉さんじゃないくてすまないな……まったくお前は何をやっているのだ?刺された後に喧嘩など、馬鹿が過ぎるぞ?」
「仕方ねぇだろ……許せなかったんだから」
「何に怒ったかは知らんが、人に心配をかけるのはもうやめておけ」
「俺の心配何て誰もしねぇよ」
「何を言っているのだ?家族が……ふむ……まぁ。私は心配をしたぞ、私の弟も戦場に行っているからな。お前の生意気な姿を見ているとアイツを思い出す」
「寂しく無いのか?」
「寂しいが、私が力をもっと付けて弟の加勢に行くのだ。アイツは弱虫だから何処かで泣いているかもしれん、寂しがってる暇など無い!」
「そうか。なぁ……俺も家族が戦場にいるんだ。俺も強くなれるかな?」
「そうだな、お前はもう自由なのだ。何にでもなれるし、何でも出来る。お前次第だ」
「俺次第か……」
「まぁ、しかし。命あっての自由だ。無駄な喧嘩などしないことだな」
「気をつけるよ」
「よろしい」
その後も、ヘイトはアルビナの背中に乗ったまま。町へ帰ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます