長い一日の終わり


 アイリスを家に連れて戻ると、お風呂を沸かしてお風呂の準備をする。


「一人で大丈夫かい?」


「だ、大丈夫です」


「でも、お湯とか水とか難しくないかい?」


「お、教えて貰ったので、大丈夫です」


「そ、そうかい?」

 どうやらアイリスはしっかり者の様だ。元気はそう思いながら、少し顔を赤らめて答えるアイリスをお風呂場に残して、ご飯の準備を始める。


 着替えには、白系のふわっとしたワンピースとクマちゃんパンツを準備しておいた。

アイリスの黒髪ロングヘアーによく似合うと思う。


「あ、あの、お風呂ありがとうございました」


「はーい」


 そう答えてアイリスをテーブルに案内しようと振り返った。そしてアイリスの姿に、元気は萌尽きて卒倒しそうになってしまった。


 頭にクマさんパンツを被っていた。


 本来足を出す部分からは、ちょこんと控えめな角が可愛く顔を出している。

 すかさずスマホのシャッターを切る。


「あ、あの?お洋服ありがとう御座います、このお帽子も……」


 あぁ~、これだから異世界はもう!異世界はもう!とりあえず、カメラをムービーにして元気はアイリスに真実を伝える。


「それね、帽子じゃなくて、パンツなんだよ?」


「パンツ?ですか?」


「うん、女性用の下着」


「え?え!?えぇ!?」


 アイリスは顔が見る見るうちに赤くなり、お風呂場へ駆け込んでしまった。

 やれやれ、まったくそう思いながらスマホに動画を保存してお気に入り登録する。


 アイリスがパンツをはいている間にミルクを準備していると屋根裏小僧が現れる。


「お、早かったね。どうだったの?」


「何とか終わったよ」


「そう、何事も無くて良かったね」

 元気とミールが話していると、アイリスが戻って来た。そして、ミールを見てアイリスが緊張する。


「あ、あの、わたし……」


「アイリス、怖がらなくて良いから、屋根裏小僧のミールだ」


「屋根裏小僧ってなんだよ!まったく、ミールだ。よろしく、えっと」


「あ、アイリスです元気様に命を救って貰いましてその、奴隷であの……」


「元気、流石にエルフの子供は許せるとしても、子供を奴隷にするのは姉さん怒ると思うぞ?」


「まてまて、アイリスは緊張しているだけだ、奴隷だったのを助けたんだよ。それで理由があって保護したんだ」


「理由って?」


「前魔王の娘でまぁ、アンチが多数いるから?かな、伝わった?」


「なるほどね」


「挨拶はそれ位にしてこっちに座りなアイリス、髪を乾かそう。風邪引いちゃうよ」


「は、はい」


「俺がやっといてやるよ。飯の準備しないとだろ?もうそろそろ姉さん帰って来るだろうし」


「お、珍しいな助かるよミール、可愛いからって変なことするなよ?」


「お前じゃ無いから心配すんな、ほらアイリスこっちおいで」


「は、はい!」

 ミールの膝の上に座ると、大人しく髪を乾かされるアイリス。


「アイリスは痩せすぎだな、元気のご飯は美味しいからいっぱい食べろよ?」


「は、はい!」


 ミールはミールなりに痩せたアイリスの姿を見て、何かを感じ取り。気をつかってくれた様だ。なのでミールにアイリスを任せることにして、元気は夕食の準備をする事にした。


 暫くすると、ミリャナとポタンが帰って来た。


「ただいま~元ちゃん」


「ただいま~」


「お帰り。姉さん」


「お帰り~」


「お、お帰りなさい!」

 ミリャナがアイリスを見て一瞬驚くが、その後、ただいまと言ってアイリスにニコリと笑顔を返す。ミリャナも何かを感じ取った様だ。


「あ、あのわたし、アイリスと申します!元気様に命を助けて頂いて、その奴隷です!」


 どうやらアイリスは説明が下手なようだ。


「とりあえず、二人が手を洗って来たらご飯にしよう、ちゃんと説明するからさ」


「そうね、アイリスちゃん。よろしくね、ミリャナよ」


「ポタンです。よろしくお願いします」

 二人が手を洗いに行くのを、アイリスが驚きながら見送る。どうやらポタンが喋ったのに衝撃を受けた様だ。


「おっし乾いたぞ!どうだ?」


「凄いです!ありがとう御座います!」


 ミールはちゃんと丁寧にやった様で、アイリスの髪の毛がさらさらになっている。そして、元気が出来上がった料理をテーブルに並べていると、ミリャナとポタンが戻って来た。


元気が料理を並べ終わると、皆でいただきますをして、夕食を始める。アイリスも皆のマネをしていただきますをする。


「今日さ、こんな事があって……」


 そういって元気がミリャナとポタンとミールに今日の顛末を言って聞かせる。


「エルフの次は奴隷?、パパは本当に何を考えてるの?」


「しょうが無いだろ?目の前で海に捨てられてたんじゃ、ほっとけないよ」


「まぁ、でも、無償で人員補給が出来たのは、将来的には良いことかもね」


「だろ?」

 ポタンは子供らしくない事を言う様になったが、頭脳は現在アルカンハイトでナンバーワンなのだ、良いことと言われて元気は嬉しい。


「叔父様が助かったのも、奴隷の皆さん……もちろんアイリスちゃんも助かって良かったと思うけど、あんまり危険なことはして欲しくないわ。話しを聞く度心配になるもの……」


「だ、大丈夫だよミリャ、今回は殆どエルフの皆がやってくれたし」


「今回は?でしょ?じゃ次も上手くいくの?私は毎回心配よ?」


「ミリャ……」

 安心させようと全部話したらミリャナがシュンとしてしまった。


「はいはーい。子供がいるんですから、イチャつくのは程々にね~」


「はーい、ここに赤ちゃんもいますよ~」


「こ、子供?わ、私のことですか?私はもう子供じゃ無いのでイチャイチャされても大丈夫です!遠慮無くどうぞ!」


 どうしようかと思っていると三人からヤジが飛ぶ。今日はフェルミナがいないので、アイリスがフェルミナの代わりだ。


 グレンとミノスとフェルミナで打ち上げをしよう。と言っていたので、不在の原因はそれだろう。


「イチャイチャなんて!してないわよねぇ元ちゃん!」


「うん、俺はミリャが心配してくれてるのを真摯に受け止めてだなぁ!」


「ハイハイそうだね~アイリス、こんな家だから遠慮せず過ごすといいよ」


「は、はい、ミール様」


「その、アイリス、僕のことはお兄ちゃんって呼んでいいぞ?」


「はぁ!?なんだそれミール!抜け駆けか?」


「抜け駆けってなんだよ!お前にはメルディがいるだろう?お前ばっかズルいんだよ!」


「本性を現したな屋根裏小僧め!」


「だから屋根裏小僧ってなんだよ!何か腹立つからやめろよな!」


「もう!二人とも辞めなさい!アイリスちゃんが困ってるでしょ!」


「あの、えっと」

 元気とミールに挟まれてご飯を食べていたアイリスがオロオロしている。


「まったく、でもそうね、ミールがお兄ちゃんなら、私はお姉ちゃんになるのかしら?」


「お姉ちゃん?」


「嫌かしら?アイリスちゃんはお姉ちゃんいらない?」


「お姉ちゃん……嬉しいです、私、男兄弟ばっかりだったので……嬉しいです」


 そういうとアイリスは泣き出してしまった。


 それを見てミリャナの母性センサーが反応し、ミールと元気の間からあらあらと言ってアイリスを奪っていく。


「ポタン良いわよね?駄目かしら?良いわよね?ポタン?」


「ポタンの事は先輩と呼ぶといいわアイリス」


「ポタン……先輩?」


「ママ!良いわ!この子素直できっと良い子なの!」


 女子軍にアイリスを奪われ夕食を再開する元気とミールは、女子軍を見ながらフっと笑い合う。


「俺が先に言わせるからな」


「僕が先だ」


 賑やかな夕食が終わり。アイリスが寝る場所はミリャナの部屋に決まった。

 元気とミールがアイリスを取り合ったが、ミリャナに怒られて諦めた。


 ミリャナの部屋にベッドを用意して就寝だ。


 夜も更けた頃。元気はやり残した最後の仕事を終わらせに行く。今回どうしても許せない事があったのだった。


 次の日の朝、いつも通り元気はミリャナとポタンのお昼のお弁当用意をして、今日はアイリスもいるので4人分の朝食を準備する。

 いつも通りの平和な朝だ。元気は今日、エルフの所にアイリスを連れて行って遊ぼうと考えていた。


 その頃、王都では昨晩現れた発光して背中に翼が生えた小さな神様の事で噂が持ちきりだった。


 今後中央王国がアルカンハイトに関わる事を全面的に禁止にし、約束を破った場合は王都ごと消滅させる。と言って去っていったらしい。


 王都では神が住む島と噂になったアルカンハイトは、独立国と認定されることになり、後日ヴァイドの元に中央からの書簡が届き、ヴァイドが頭を抱える事になるのだが、これはまた別のお話しである。

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