再会~終結

「騎士団は待機して、エルフ達が捕虜として捕らえた奴隷達の対応をしてくれ」


「了解しました!拷問を行い、情報を聞き出した後は抹殺すれば良いでしょうか?」


「いや……とりあえず怪我の治療をしたあと食事をさせて待機させておいて、絶対殺しちゃ駄目だからね」


「魔族にも聖人様は施しを与えるのですか!私には考えもつきませんでした!!!」


 勝手に納得したアルビナが、浜辺を見ながら驚いている騎士団に情報を伝えに行く。


「しかし元気、魔族の奴隷など救ってどうするのだ?」


「前に魔族と話した事があるんだけどさ、何ていうか、姿形が違うってだけであんまり変わんなかったんだよね」


「変わらなかっただと?」


「うん、魔族にも家族がいてさ、生活があって、仕事だから戦場に出てお金を稼いでる。中にはしたくて戦争をしている奴もいるかもだけど、それは人間も一緒でしょ?奴隷達は強制されて戦闘にいるんだろうし、尚更戦いたくないだろうな。と思ってさ」


「驚いたな、魔族とは戦闘が好きなのだと思っていたが……違うのか?」


「戦闘は好きそうだったけど、殺したい訳ではないみたいだよ?俺もその魔族に助けて貰ったんだ」


「魔族に助けられただと?にわかに信じられんが、嘘をつく理由も無いな……もし、捕虜が暴れ出したらどうするのだ?」


「その時は……騎士団や叔父上達の安全を優先して下さい」


「わかった、その様にしておこう」


「じゃ、そろそろ行って来ますので、此方は頼みます叔父上」


「うむ、任せておけ……無駄な心配かも知れぬが、油断せぬように……死ぬなよ」


「ミリャナを残して死ぬ訳が無いじゃ無いですか……では行って参ります」


 ヴァイドと握手を交わすと元気は海岸へ飛び出す。


 内心ではドキドキしていた元気だったが、エルフ達の戦闘する様子を見て大丈夫だと確信した。


 時々、エルフ達50人対元気で道場破りごっこをしていたが、破られた事は無い。元気の言うことをエルフが素直に聞くのもその為だ。


 そのエルフ達が余裕を持って戦場で遊んでいるのだ。魔力以外に神の力を授かっている元気には脅威でも何でも無かった。


 浜辺を過ぎて、沖合に浮かぶ船の中で一番大きな船に近づく、すると魔法弾が元気に向かって船から飛んでくる。

 元気はそれらを全て弾き飛ばして船に着地した。


「落ち着いてくれ!戦う意思は無い!話しを聞いて欲しいんだ!」


 船上には10人ほどだろうか、角が生えた人間と風貌はそう変わらない魔族がいた。


「ふざけるな!話しを聞かなかったのはお前ら人間じゃないか、何を今更!」


 一人の魔族がそういって魔法弾を打ち出してくる。元気がそれを打ち消す。


「そうだそうだ!汚い人間が何をいうか!」


 もう一人もそう言いながら魔法弾を打ち込んで来るが、それも打ち消す。完全アウェー状態だ。


「子供を話し合いに送るなど、我々を馬鹿にし過ぎだ!」


「小さい子供を使わんといかんほどに向こうは疲弊しておるのだろう!ハハハ!」


「子供は家に帰ってママのおっぱいでも吸っているがよい!」


 テンプレな悪口にちょっとイラッとした元気は、海に向かって爆裂魔法をドカンと一発ぶっ放す。衝撃で船が激しく揺れ、魔族達の顔色が一瞬にして変わる。


「話し合いをする気が無いのならば、戦争だ覚悟しろ……」


 元気は魔族達にそういうと、防壁修繕の時に着けていた鎧を装着する。前回はホログラムだったが今回は魔力を固めた物だ。

 具現化しても置くところが無いので、魔力を解いたら消えるようにしてある。


「次、ちっちゃいとか、子供とか言ったらこの船毎消滅させるので、気をつける様に」

 魔族に忠告すると魔族達はコクコクと頷く、どうやら話しを聞く気になったようだ。


 さて、どう話そうかと元気が思った時だった。


 背後から殺気を感じ、元気はその場を飛び退く、次の瞬間元気の立っていた場所の床が粉々に砕け散った。砕け散った場所には、巨大な斧が刺さっている。


「やるでは無いか少年、久々に楽しめそうだ」


 大きな鎖を引き戻し、巨大な斧を自分の元に戻すと、巨大な牛形の魔族が楽しそうに笑いながら船上に立っていた。


「将軍様!」


「おい!小僧!終わりだぞきさ……」

 小僧と言った魔族に軽く火の玉をぶつけて黙らせると、元気は巨大なミノタウルスに斬りかかる。


 ミノタウルスが元気の剣撃を受け止めると辺りにギィィン!と甲高い金属音が響き渡る。


「ミノスじゃないか!久しぶり!会いたかったよ!」


「む、その声はあの時の少年か!生きておったか!」


 船に乗っていたミノタウロスは、ひょろおじさんと髭おじさんを殺し、元気に生きるチャンスをくれた命の恩人、ミノスだった。


 ミノスが元気の流れる様な剣撃を受け流した後、斧を振りかぶり、グワァッと元気にたたき込む。元気はその一撃を剣で受け止めると、ギャギャリンとはじき返す。


「ずっと、お礼を言いたかったんだよ!」


「フフフ、礼など要らぬ!我は嬉しいぞ友よ!我と全力で戦える相手はそうそうおらぬからな!」


 元気とミノスは長時間の戦いの中、武器と武器を重ねる事で会話できる様になったのだ。


 斧を弾き返されたミノスは口をガパッと開き光線を発射する。

 元気はその光線を、斧を弾き返した剣の流れを利用し身体を一回転。そのままドパァンっと光線を叩き弾く。


「しかし、お主は人間に裏切られたのに何故また戦場におるのだ?語り合った感じ、争いが好きな人間では無かっただろう?」


「それなんだけど……」


 元気はミノスと剣と斧を打ち合いながら、これまでの出来事を話して聞かせた。

 周りでは、二人の凄まじいやり取りに、魔族達がおののいている。


「そうか!お前にも守る者が出来たか!ガハハハ!我は嬉しいぞ!」


「ありがとう!本当にミノスのお陰だよ!」


 打ち合って1時間程になるが、元気もミノスも話しが尽きない。二人の打ち合いの衝撃で船がグラングラン揺れ、床や壁が所々壊れている。


「ば、化け物だ……」


「夢でも見ているのか、人間が将軍様と互角だなど……」


 魔族は行く末を見守る事しか出来ないようだ。ひょろおじさんの時とは違い、手を出す素振りはないので元気はほたっておく。


「お前の言い分はわかったが、どうするのだ?」


「他の所はどうなっても良いんだけどさ、家族の居るこの島は守りたいんだよね。撤退とか難しい?」


 元気の剣撃3連を斧でミノスが弾く。


「うむ、撤退だけであれば可能かも知れんが理由がいるな。我も少しワケありでな……」


「それなんだけどさ。ミノス、ちょっとこっちに遊びに来ないか?」


 ミノスと元気が剣と斧を合わせにらみ合う。様に他からは見える状態が続く。


「人間の島に、遊びにだと?」


「うん、表向きは人質になって貰ってさ。ここのボスはミノスだろ?ミノスが倒れれば、引き返すと思うんだよね」


「ほう、我にわざと敗北して魔族を裏切れと言うのか?」


「ち、違うよ。その魔族の奴隷とかも保護するつもりなんだ。だから、ミノスが傍にいるとその人達が安心するだろ?ミノスは奴隷とか差別してなさそうだし」


「うむ、奴隷など酷使しておる奴は好かんな。しかし奴隷保護などして何の意味があるのだ?奴隷など交渉に使えんぞ?」


「そんなんじゃないよ。何か嫌じゃん奴隷のまま戦場で死ぬとか、俺の自己満足の為だよ」


「フフフ、自己満足か……面白いな、良いだろう、剣を交えて気付いたが其方、ずっと手加減をしているであろう?」


「あ、いや……」


「謙遜せんで良い。浜辺の方もほぼ壊滅している。あれも其方の仕業だろう?」


「あれは、俺のってかエルフ達の」


「エルフとは森に住んでいる。なよなよした種族ではないのか?」


「普通はそうだったんだけどね」


「ふむ。まぁよい、後々解る事だ。それで我はどうすれば良い?」


「俺がそれらしい事を言って、ミノスを向こうに送るからさ。向こうで理由を話して待機しててよ。俺もすぐ戻るからさ」


「解った。其方の考えに乗ろう。では、魔王軍幹部である我の敗北なのだ……元気よ、派手に頼むぞ!」


「あぁ!派手に行こう!」


 元気とミノスはキィンと合わせていた武器を弾き返し距離を取る。元気は剣にミノスは口にエネルギーをため始める。


 元気は演出で辺り一面に、雨雲と雷雲をホログラムで出し、それっぽく風と水で嵐を再現する。船がグラグラと揺れる中。元気の剣が虹色の輝きを放ち、バチバチっと火花を散らす。ミノスの方も眩い輝きを放っている。


「我が宿敵ミノス!覚悟!」


 魔族が息を呑みながら見守る中で、元気が剣を横凪に降る。すると虹色の巨大な剣撃がミノスに飛んでいく。中身は色がついただけの、たたの強風だ。 ミノスがそれに合わせて光線を吐く、発射された光線は船の部屋や帆を吹き飛ばし、船を半壊にする。


「おのれぇ、勇者めぇぇぇぇぇ!!!」


 とミノスは迫真の演技をしながら、風に乗って浜辺のキャンプへと飛んで行った。


「ミノス……手強い男だった」


 そういうと元気は周りを見る。魔族達は座り込んでいたり、カタカタと震えていて戦意を喪失してくれている様だ。


「私は無駄な殺生はせぬ!引け!魔族よ!そして二度とここには戻らぬ事だ!次は容赦はせぬぞ!」


 元気はそういうと船から浮き上がる。


「あ、あの、勇者様……か、帰りたいのですが、ふ、船が……」


 魔族が震えながらミノスが壊した場所を指さす、確かに帰れそうもなかった。


「向こうの船に送れば帰れる?」


「はい!帰れます!」


 元気は残られても困るので魔族を船に送ることにした。


「二度とここには来ないようにな」


「は、はい!魔王様にもその様に伝えておきます!」


 帰ろうとしたときだった。

 船の裏手からドボンと何かが海に落ちる音が聞こえる。


「何の音だ?」


「あぁ、奴隷を処分しています。戦いも終わり、もう必要ないので」


 奴隷の処分……元気は嫌な予感がして急いで船の裏手へ回る。すると生きたまま海へ奴隷が放り出されていた。溺れている者も数人いる。


「何をやってるんだ!」


「え?帰りの食料もありませんし、使えない奴隷を連れて帰る意味がありませんので、処分しているのですよ?」


 魔族の男は当たり前の事を当たり前にしている。といった感じで話す。


 元気はまたか!と思ったが、異世界の価値観をここで解いた所で仕方が無いし、手遅れになってしまう。


「奴隷は戦利品として連れ帰るので、海に落とすな!一人残らず引き上げろ!」


「おい、誰だよ?あの小僧は?」


「生意気だな。やっちまうか?」


 元々小船にいた船員が次々に元気に対する文句を口にする。爆裂魔法を空に打ち上げてそれらを力で黙らせる。


「さっさとしろ!!!一人でも死んだらこの船ごと全てぶっ壊すぞ!!!」


 魔族達は爆発を見ると、元気の怒声に合わせ、急いで救助に動き出す。


 他の船でも同様の事が起きていたので、元気は奴隷達をミノスが壊した船に乗せて、連れかえることにした。


 総勢100名以上。女子供の獣人が殆どで、服を着ていない。男は戦場へ行かされ、女は船内で魔族の男達の遊び道具だったのだろう。


 元気が世界観の違いを思い知った戦闘は、ひとまず終結したのだった。

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