作成会議②

 元気は騎士団のにやって欲しい事の説明を始める。


「アルビナ達、騎士団の皆さんには衛生兵達の手伝いをしていただきます」


「衛生兵達の手伝い……ですか?」


「そうです怪我の治療やけが人の運搬とかですね」


「で、ですが、騎士が衛生兵達の真似事など……」


「えっと、何か問題が?」

 元気がヴァイドに質問をする。アルビナを見ていると違和感を感じたのだ。


「衛生兵達の殆どが魔力を持っていない孤児や貧民といった平民だ。死にかけている兵士達もだ。騎士達は殆どが魔力を持った貴族で構成されている。反感があるのかもしれんな。平民の傷の治療の為に魔力を使う位なら平民など、捨て置いて敵を討つ為に魔力を使うのが普通だ」


 異世界の常識に驚いたが、はい、そうですか。で死にかけの人を捨て置く訳にはいかない。


「戦場では衛生兵達や兵士の活躍が重要です。それを蔑ろにしているからこんな事になっているのがわかりませんか?」


「そう……なのですか?」


「短期決戦であれば全力でぶつかればいいけど、長期決戦はそうはいかない。サイクルを作らなければどんどん疲弊して負けます」


「なるほど、使い捨てるのではなく、治してまた何度も使う訳ですね……死んでしまうまで何度も何度も」


「何か違うけど……基本はそんな感じかな?

 あと俺には貴族とか平民とか関係ないからさ救える命は救いたいんだ」


「関係ないですか……確かに神にしてみれば、平民も貴族も同じ虫けらみたいな物かも知れませんね……そんな虫けら同然な我々に味方してくれるなど聖人様は素晴らしいお方です」


「何か違う……皆同じ命を持ってるのだから大切にしましょうって事なんだけど……」


「はっ!虫同士、協力し合いたいと存じます!」


 何か不安になってきてヴァイドを見ると笑いを堪えている。やっぱりこの娘が変なのだ。大丈夫だろうか?と思ってグレイを見るとウンウンと満足そうに頷いている。


「と、とりあえずだ!この私が関わる以上、貴族であっても平民であっても死人を出すことは許さん!わかったな!!!」


「あぁ、なんと寛大なお言葉!!!命を賭けても死人は出しません!!!」


 だから!命を大切にって言ったばっかりだろ!賭けるな!とツッコみそうになるのを我慢する。


「そろそろ、説明をしないとエルフ達が到着するのではないか?」


「そうですね。では説明をします」

 ヴァイドが楽しそうにしているのがしゃくだが、アルビナに説明を始める。


 傷の消毒をして皮膚を再生する事や、内臓がやられている人は内臓から修復する事、四肢断裂している人は止血を行いエルフが来るまで待機する事、回復が終わり次第水分補給と食事を行い動ける者は速やかに撤退する様に告げる。


「あと治療を終えるまで怪我人には水を与えない様にね死んでしまう事があるらしいから」


「そうなのですか?気をつけます。では!早速、ことに当たります!」


 そういってアルビナはグレイと一緒にテントをあとにする。


「異世界では、皆お前の様な知識を持ってるのか?」


「いや、これはゲームや漫画で……異世界の本などで覚えた知識です。皆が皆ではないですけど、結構知ってるとは思いますよ?」


「ふむ、そうか凄い世界なのであろうな」


「凄いですけど、何か冷たいですよ?」


「冷たいのか?寒い世界なのか?」


「あぁ~人間がです。それも人それぞれでしょうけど……」


「そうなのか、じゃ、お前が特別なのか」


「特別?」


「お前は優しいじゃないか。すぐに言い訳するのが面倒だが」


「俺のは優しさじゃないです。俺は俺の為にやってるんですから」


「ハハハッそうか、お前の為か」


 ヴァイドと話しているとテントの外から、ズゥン。ズゥン。と地鳴りがしてきた……巨大な足音だ。


「敵襲か!?」


「な、何だあれは!?」


「この世の終わりか!?」


「ひえぇぇぇぇ!?」

 テントの外が一気に騒がしくなる。

 元気はエルフがアレを持って来るのを忘れていた。そして説明をするのも忘れていた。


「何事だ!?」


「えっと、言うの忘れてました。叔父上は前に見たでしょう?巨人」


「あ、あぁ、アレか……まったく先に言っておけ!驚くぞアレは!」


「すいません、ちょっと説明してきます」


 テントを出ると、テントの前にエルフが勢揃いしていた。


 それぞれ好きな服装と武器を装備している。エルフの女子軍はローブを着たトンガリ帽子が多い。爆裂魔法が打ちたくて仕方なさそうにしていて、ちょっと不安になる。

 男子は、胴着やサムライ、麦わら帽子と色々いる。エルフ達は遠足気分でわくわくそわそわしていた。


「元気様~お待たせしました!もう行っても良いですか?浜辺の敵を殲滅すれば良いんですよね!」

 イケメンが軍服に両手にマシンガン、背中にロケットランチャーという出で立ちで話しかけて来る。顔には泥で線を引いていて、コスプレに相当こだわっている様だ。


「も、もう少し待って」


「そうですか、了解しました!」


「始まるまで、けが人の治療を手伝ってやって貰える?」


「了解!」


 了解というたびに敬礼してくるのがウザかったが、エルフ達のお陰でキャンプ内の治療が一気に進んだ。


「元気さま!浜辺の人間の回収終わりました」


「あぁ、ありがとう!助かったよ」


「フフフ、言うことを聞かない奴は張り倒して連れてきたぞ」


 ハナやフェルミナ達には、戦場へ行って兵士へ撤退をするように呼びかけて貰った。


「で、フェルミナどうだった?」


「前線にいるのは、ゴブリンやオークと言った魔物が殆どだったな、所々に獣人や悪魔がいたがアレは姿から見て奴隷だろう。殆どが首輪を付けていて、着衣がボロボロだった」


「そうか、他には?」


「後は海岸線の方に数隻の船が見えたな。大将はそこだと思う。私が行こうか?」


「もしもの時は頼むよ。フェルミナは最終兵器だからな!」


「そうか!最終兵器か!期待していろ!」


 最終兵器は最終兵器のまま保管しておきたい。フェルミナが動くと問題ごとが増えそうで怖いのだ。


 報告が終わると、フェルミナは機嫌良くテントから出ていった。


「それで、元気。これからどうするのだ?」


「とりあえず浜辺でエルフの皆に暴れて貰って、その間に敵船に俺が撤退警告をします。しないのであれば巨人を使って攻撃かな?」


「敵を逃がすのか?」


「争うから次の戦闘が起こるんですよ。ここにもう来なければ良いんだし、追いかけて行って恨みを買う必要も無いでしょ?」


「そんな甘い事がアイツら魔族に通じると思うのか?」


「駄目だったら実力行使ですけど、一応はチャンスをあげないと」


「持つ者だからこそ出来る事だな。まぁ良い、お前の領地だ。好きにしろ」


「いや、違うし。まだ叔父上死んでないじゃん」


「おぉ、そうだったな」


 ヴァイドが楽しそうに笑う。つられて元気も笑ってしまう。


「じゃあ、行きますか」


 話しが終わると元気達はテントから出る。テントから出ると治療も粗方終わり。暇そうにしているエルフ達に号令する。


「皆の者!待たせたな!これから魔物の討伐を開始する!」


 それっぽく元気がエルフ達をあおると、それを聞いたエルフ達が一斉に声を上げる。


「おぉぉぉぉぉぉ!!!」


「我々は正義の義勇軍である!!!首輪を付けた魔族は捕虜とするので殺さ無いように!!!」


「おぉぉぉぉぉぉ!!!」


「明日も来てくれるかな!?」


「おぉぉぉぉぉぉ!!!」


 文言は何でも良いようだ。


「ちょっと良いか?元気?」


 そう言うとヴァイドがエルフ達の前に立つ。


「森の民気高き種族エルフよ!この度は我が領地の為に感謝する!」


 おぉぉ……っと叫ぼうとしたが途中で空気をよんで静まるエルフ達……。


「領地を代表してここに誓おう!我々アルカンハイトの民は、其方らを良き隣人として受け入れ。未来永劫、森の安全、其方らの暮らしの安全などに、全力を尽くすとここに約束する!」


 エルフ達が何故かモジモジし始める。


「其方らのお陰で領地の未来が続いて行くのだ!気高き森の民エルフ達よ!もう一度言わせて欲しい!本当にありがとう!」


 エルフ達がモジモジして、居たたまれない感じになっている。


「エルフ達はどうしたのだ?」


「えっと、いま、あの子達、精神年齢がメルディと同じくらいだから、多分遠足気分でここに来てるんですよね」


「はぁ?戦争だぞ?」


「うん、まぁ、そうなんだけど、その規格が違うというか、何というか」


 ヴァイドが少し驚き、そして思案する。


「皆の衆、怪我にはよくよく気をつけて遊ぶように!」


「はーい!!!」


 ヴァイドがメルディにいう様に話しかけると、エルフ達がパァ~っと笑顔になり士気が戻る。


「首輪のついてる人には、あんまり攻撃しないようにね。じゃ、開戦だぁ~!!!」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 雄叫びを上げながらエルフ達が海岸へ向かって飛んでいく。


「お前のそれは天性なのか?煽るのが上手すぎるぞ?」


「孤児院で子供の面倒をよく見てたので、子供の面倒を見るのは得意なんです。こんな所で役に立つとは思いませんでしたけどね」


 元気とヴァイドがエルフ達の飛んでいく姿を見送っていると、アルビナがやって来た。


「兵士の殆どが帰路につきました!我々騎士団は如何致しましょうか?」


 「あれ?おっさんは?」


「おっさん?隊長ですか?フェルミナ様にお供すると行って、戦場へ出て行きました」


「まじか。まぁ、フェルミナが一緒だし大丈夫か、騎士団の皆は浜辺でも見ながら休憩してていいよ」


「きゅ、休憩ですか?しかし……」


 アルビナがそう言った瞬間だった。

 ドガパァーン、ドパァーン!!!と大きな火柱が上がり、周囲にビリビリビリッと強い衝撃が走り出した。


「あれ、めちゃくちゃ気持ちいいんだよな」


 爆発と同時に青空へと魔力がキラキラと舞って綺麗だ。


「本当に規格外だな、剣を振り合っている事が馬鹿みたいに思えるぞ」


「聖人様が、人間など虫けら。と言っていた意味が解りました。」


「あれをみたらわかるでしょ?領主なんてしてる暇なんて無いんです。アイツらすぐ問題起こそうとするから、解りました?叔父上?」


「うむ、理解した。領主よりもお前は森の管理をしておけ」

 エルフ達を使って領主なすり付け攻撃を回避した元気は、内心でガッツポーズをしたのだった。

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