作成会議①

「あれかな?うわぁ、すげぇ……」


 アルカンハイトの町から南へ飛ぶと海が見え、広範囲に渡って黒煙が登っている。メルディには安心して城で待ってなさい。といってメルヒオーネと帰宅させた。


 エルフ達は準備にもう少しかかる。ということで、元気が先に偵察をしに来たのだ。


 道中ヴァイドの率いる騎士団は見当たらなかったので、すでに戦場に着いているものと思われた。


 まずは戦場へ出てしまう前に見つけなければいけない、ステルスモードで(透明状態)で海岸沿いにあったテント集合地帯に元気は降りる。兵士達のいるキャンプで辺りを見渡して、ゴクリ。と息を呑む……テントの周辺には怪我をした兵士が無数に座っていた。


 物資が足りていないのだろう、包帯が巻かれていないもの、横たわり生きているかわからない者、精神的にやられてしまったのだろうか?空を見ながら笑っている者もいる。


 ハエにたかられている人もいるが振り払う気力も無く空を見つめている、見る人見る人痩せており、唇もカサカサ、水も食料も物資が全て足りていない様子だった。


 疲弊している。劣勢などの話しでは無く、ほぼ壊滅状態である。立ち並ぶテントの中では、四肢が千切れた兵士達を救護兵達が治療しているが、明らかに人出が足りていない。蒸し暑い中、汗だくで対応している。


 辺りには夏独特のむわっとした湿気に混じり、しょうえんの匂いと、生臭い血の臭い、すえた人間の汗の匂いに、腐敗臭が漂っていた。


 元気は一度森に入ると嘔吐してしまった。


 ネットなどでグロ画像を見たりして耐性はある方だと思っていたが、五感で感じる生々しい現実を体感して、元気は写真との違いを思い知る。元気はマスクを出して装着すると、急いでヴァイドを探すことにした。


 キャンプの入り口から暫く歩くと、遠くに大きなテントが見えてきた。


 入り口には馬が数十頭停まっている。テントにつく前に何度か吐きそうになったが、何とか我慢出来た。


 暑さと匂いと兵士の呻き声とで元気はもう帰りたい気持ちでいっぱいだった。


「酷すぎるな、前回もこんなに酷かったのかい兄上?」


「いや、これは酷すぎる」


 テントの中ではヴァイドとグレイが話している。まだ生きている事に元気は安心した。


「中央はこの領地と防衛戦を捨てるつもりの様です。ここしばらく、中央からの物資が届きません。そして中央の貴族達も騎士団も引き上げて行きました」


「そうか、報告ご苦労だった」


「はっ!」


 兵士が出て行くとヴァイドが溜息をつく。


「はぁ、ごめんなグレイ兄さんこんな所まで付き合わせて」


「言葉が崩れているぞ、ヴァイド」


「いいだろ?あと少しの命だ」


「なぜ元気に声をかけなかったのだ?防壁を再生出来るあの膨大な魔力があれば……」


「それ以上は駄目だよ兄さん、元気はまだ子供だ。それに町を護ってはくれると思う」


「だが!お前が死んでは意味ないではないか」


「フフフ、俺が死んだ後の事も元気に任せて来た……アイツは怒るだろうけどね」


「まったく。お前も、フェルミナ様も、ミリャナも、元気、元気と、一体何なのだあの子供は?」


「何って、子供だよ子供ちょっと力を持ってしまったね……だから俺はアイツを引っ張り出して汚い大人にする訳にはいかないんだ」


「訳がわからんな、使える物は使えばいいだろう?」


「何言ってるんだよ、5年前僕を置いて戦場に行ったのは兄さん達だろ?俺も格好つけたかったんだよ」


「むぅ、別に格好つけた訳ではないのだがな」


 死を覚悟してリラックスムードなヴァイドとグレイだったが、元気はヴァイドに腹が立っていた。


 格好つける為に死ぬなんて到底許せない、メルディがヴェルニカが泣くじゃないか、ミリャナもメルヒオーネも……他にもなく人がきっといる。


「叔父上、領地とか任されても困るんだけど?」


「な!何でここにいる元気!」


「何でって、メルヒオーネさんとメルディが来たからだよ。っていうか、手紙読んだけどさ、あれは相談ではなくて脅迫だろ!?」


「そ、そうか?まぁ良いじゃないか。大変だが、なかなか面白いぞ?領地経営」


「ちょっと興味は無いことも無いけど……ってそうじゃない!アンタが死んだら大勢が困るじゃないか、何で相談しないんだよ!家族じゃないからか!?」


「フフフ……怒ったところは初めて見るな。家族と思っていなければ、大切なメルディとヴェルニカを任せる訳がないだろ?」


「じゃ、なんで!」


「家族だからだ。お前は自分の身に起きた面倒ごとをミリャナに押しつけるか?」


「いや、それは」


「解決したとして、お前はその後ミリャナと対等な関係でいれるのか?」


 言い返したいが言い返せない事に元気はイラッとしてまう。

 そんな時、頼らなければお前に頼れないんだ。と屋根裏小僧様の言葉が頭をよぎった。


「そうですか、じゃ叔父上。お小遣いを下さい」


「はぁ?お前は何を言っているのだ?」


「ミリャと遊びに行くのでお小遣いを下さい」


「だから、お前は……」


「察しが悪いですね!俺はこういうのは苦手なんですよ……甘えるから、甘えてくれって事です!」


「がはは!いつもはオドオドして、大人しくしているが、甘えろとは言うじゃないか小僧!」


「あれ?おっさん!何でここにいるんだよ?仕事はどうしたんだ?」


「私の兄上だ、父の弟に当たりミリャナの叔父に当たる」


「え?はぁ?……あ、あの、ご機嫌麗しゅう」


 ミリャナはなんで、こんなあご髭おじさんの事をおじ様なんて呼ぶのかなぁ。と思っていたのだが、文字通り叔父様だった。

 テントの外から話しを盗み聞いていたので、もう一人の顔が元気にはわからなかったのだ。


「いつも通りで良い。それで、どうにか出来るのか?」


「ちょっと、兄上!」


「ヴァイド、子供にここまで言わせておいて今更愚図るな、子供だと言ってもコイツも男だ。アレだけ恥ずかしい事を言ったのだ、勝算はあるのだろう?」


「俺一人じゃこの海岸線の奪還は多分無理です。広すぎるってか、敵味方入り交じり過ぎてて、敵を一掃すると同時に味方も一掃しちゃうと思います。ドカーンって」


元気は両手でドカーンとジェスチャーする。


「お、恐ろしい事を言うな。元気」


「小僧が防壁を再生しているのを見ているから出来そうなのが恐ろしいな……」


 二人が少し引いていたが、いちいち気にしていたら話しが進まないので気にせず話しを続ける事にした。


「なので騎士団は戦場には出ずに、兵士の治療や物資の生成に魔力を使って下さい」


「な、なんだと!我々がなぜそのようなことを!」


「この後、エルフが50名程ある物を持ってやってきます。因みにフェルミナと戦ったとして、おっさんはフェルミナに勝てる?」


「ぐ、一度手合わせ願ったが、瞬殺であった」


「まぁ、フェルミナは無駄にすばしっこいからね、フェルミナ程では無いけど、そんなのが50人戦場に出る。そこでは騎士団は邪魔なんだ」


「げ、元気、お前、言い方があるだろう、兄上にプライドが……」


「いや、構わん!小僧の言う通りだ。フェルミナ様に稽古を付けて貰う身としては、邪魔をする事だけは絶対に避けたい。小僧!今度、フェルミナ様に頼んでおいてくれ」


「……たのんでおくよ」


「ふむ、そうか!では戦場には出ないで救護に回ろうと思う。死んでしまっては、稽古がうけれんからな!」


「まてまて、それは俺も受けてみたいから俺も一緒に頼む元気」


「わかりました」


 甘えていいとは言ったが、早速か。と元気は思う。だが二人が未来の話しをしているのを見て安心する。


「ちょっと説明したいから、騎士団の方人を誰か呼んで貰って良い?」


「む?俺じゃ駄目なのか?」


「おっさん細かい医療の説明とか伝えられる自信ある?」


「医療か、無いな。ちょっと呼んでくるから待ってろ」


「あ、待って」

 そういってテントの前の広場へグレイと一緒に行き、広場いっぱいにレーションと水を準備する。これで騎士団は治療に専念出来るはずだ。


「フフ、お前は本当に面白いなぁ元気、本当に領主をやらないか?」


「嫌ですよ、ミリャナと遊びに行くんですから」


「フフフ、そうか」


 領主を勧めてくるヴァイドと少し話した後テントに戻り。テント内の椅子に二人で腰掛ける。


「その、なんだ、ありがとう元気」


「良いですよ。これもミリャナの為……てか自分の為なので、気にしなくて良いです。

 お小遣いも貰いますし、領主なんかしてたらミリャナと遊べないでしょう?

 それに働き者で優しいミリャナが城なんかに行ったら、孤児院だけじゃなくて、島全体の人達の心配するでしょ?」


「それをお主が解決するのだろう?皆が幸せで良いではないか」


「俺の幸せは?」


「フフフ、そうか、私の案にはそれが抜けていたな。お前の幸せはなんだ?」


「ミリャナの平和と幸せです」


「そうか……」


 話しの区切りがついた時、丁度グレイが一人の騎士を連れて戻ってくる。


「待たせたな、コイツは賢いので大丈夫だ」


「騎士団のアルビナです!聖人様!よろしくお願いします!」


 ミリャナと同じ年頃だろうか?女の子の騎士がビシッと敬礼しているだった。

 顔つきは凛々しく黒髪のショートだ。顔右半分に火傷の痕がある。


「聖人様って?なに?」


「あぁ、騎士達から防壁をはったお前は聖人様と呼ばれているんだが、防壁を貼った奴が呼んでると言ったらバレた」


 ガハハと笑うグレイからフェルミナ臭がする……。


「あ、あの、アルビナさん、恥ずかしいから聖人は辞めて欲しいかも、聖人でも何でも無いし」


「良いじゃないか、元気。面白いし」


「叔父上、言葉が崩れていますよ?」


「おぉ、そうだった。お前と居るとつい気が抜けてしまう……では元気、説明を頼む」


 領主の顔に戻ったヴァイドに促され、釈然としないままアルビナにこれからする事の説明をする事にした。

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