戦闘準備開始
エルフ達が孤児院に行き始めて半年が過ぎた頃。町では、孤児院に美男美女がいると噂になり。町の人間が押し寄せる様になった。
このままでは、子供達が危険かもしれないと言う話になり。急遽、教会の門に兵士が常駐する事となった。
そして森のエルフ達にも、変化が起きていたのだった。
「ちょっと、男達はまだだって言ったでしょう!」
「お前ら女子が、男子は草臭いから水浴びしろ!って言ったのではないか!大体お前らの裸など、裸など……見にゃれておる……」
「きっしょ!鼻血なんか出してんじゃ無いわよ!変態!!!」
電撃魔法が男エルフ達を襲った。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
エルフ達が孤児院に行くことで起きた変化……それは思春期の到来。エルフ達は現在、男女で派閥が分かれ、森は小学校状態なのであった。
「どうしてくれるんだよ、元気!僕のオアシスが無くなったじゃぁないか!」
クッキーをお土産に、エルフの水浴び見学を日課にしていたミールが怒っている。ミリャナのパンツのシワを伸ばしながら、それにに反論する元気。
「お前のじゃないし、裸でウロウロするよりかよほど健全だよ」
「そんな奇麗事を聞きたい訳じゃぁ無いんだよ僕は!まったく!」
「アルトの所にでも行ってこいよ。今日もどうせ暇なんだろ?」
「アルトの名前をだすなよ!何かごねてるのが悪い気がするだろ?」
悪い事なんだけど。と元気は思ったが、言わない。言っても聞かない子なのだ。
夜パンツのシワ伸ばしが終わった元気が、朝パンツのシワ伸ばしを始めながら、ミールに質問する。
「そういや、お前仕事するって言ってなかったか?アルトの為に家を買うって言ってたじゃん」
「ん?あぁ、炎季が終わったら始めるよ、炎季暑いし……あぁ~どっかに家が買えるくらい金貨落ちて無いかな~」
ミールが、元気の出したおやつを食べながら、へへへと笑った。
「落ちてるといいな」
コイツはもう駄目かも知れない。と元気は割と本気目に思った。
ミールの愚痴を聞きながら、洗濯物をタンスにしまっていると、家の前に馬車が止まった。
「じゃ、俺、部屋に戻るわ!」
ミールはおやつを持って、そそくさと屋根裏に戻っていった。
元気はノックがなるのを待って、玄関を開ける。すると、メルディとメルヒオーネが立っていた。
「御機嫌よう、お兄様」
「お久しぶりです。坊ちゃま」
「いらっしゃい、メルディ、メルヒオーネさん、どうぞ中へ」
元気は二人を部屋に案内すると、お茶の準備をして二人をもてなした。
「今日は、どうされたんですか?」
「今日は、お兄様にお願いがあって来たのです。メルヒオーネお手紙をお兄様へ」
「かしこまりました姫様、坊ちゃまこちらを……」
手紙を差しだされ、元気はメルヒオーネから手紙を受け取る。
二人にお茶を勧めると飲み始めたが、メルディのカップを持つ手が小刻みに震えている。本当に何があったんだ?そう思い元気は急いで手紙を読むことにした。
゛拝啓、元気へ
これを読んでいる頃には私はこの世に居ないだろう、私はこれから防衛前線へ向かう事になった。
私が死んだらこの手紙をメルヒオーネから元気に渡すように伝えてある。”
そこまで読んで元気は息を呑む……メルヒオーネを見やるとコクリと頷いた。
メルディは相変わらず小刻みに震えている、よく見ると目元が腫れていた。
゛私が死んだということは、防衛が突破されたのだと思う。私との約束は覚えているだろうか?
ミリャナとポタンのついでに町を護るというものだ。お前の事だから忘れてはおらぬし何ということもなく護ってしまうのだろう
そこで相談なのだが、お主に城と領地を譲ろうと思う。領主の交代契約書等は既にメルヒオーネに準備をさせて、城の金庫に保管してある。後はお前がサインすればお前が領主になる手はずになっている。
ミリャナを領主婦人に迎えて、ポタンを連れて三人で城へ引っ越し、領地を運営しながら楽しく暮らすのも良いのでは無いか?
メルディも、ヴェルニカもお前の事を家族だと思っているようだし、もちろん私もそう思っている。
私の最初で最後の願いだ……ミリャナとポタンを護るついでにメルディとヴェルニカの事も頼む、ヴェルニカもメルディも女だ領主が不在になれば、どこぞの貴族に領主の座ごと奪われるだろう。
そうなれば死んでも死にきれぬ。
なので死にきれず、毎夜、毎晩。お前の夢枕に化けて出て、恨みつらみ、呪いの言葉を永遠に囁かなくても良い様に、ヴェルニカの事、メルディの事、領主の事、よくよく考えて欲しい。
追伸、メルヒオーネはメルディについていくので、セットとして考えるように。そして、ヴェルニカは私の嫁だ。手を出したら呪い殺す。
ヴァイド・アルカンハイト”
相談でも何でも無いし、一方的に凄い事が書かれていた。
「母上は……」
元気は一緒に来ていない、ヴェルニカが心配になった。
「ショックのあまり、寝込んでおります」
メルディがその言葉を聞いて、うつむいてしまう。
自分が死ぬまで、巻き込まない約束を守った事は尊敬に値するけど……約束を守っても、死んだら意味が無いだろ!死ぬ前に相談しろよ!元気はヴァイドの行動に腹が立った。
ヴァイドと付き合った期間は短かったが、元気には初めて出来た信用できる身近な大人だった……元気は、身近な人間の死を感じ、目頭が熱くなる……。
目頭を押さえて元気が涙を抑えていると、メルディが、ガタン!と椅子から立ち上がり口を開いた。
「お兄様!お願い致します!お父様を助けて下さい!」
「え!?助けてって……。生き返らせろって事?」
メルディが何を言っているのか解らず。元気がメルヒオーネを見る。するとメルヒオーネが紅茶を一口すすり、メルディの発言の補足をしてくれた。
「旦那様は今朝。騎士団と戦場へと、向かわれました。なので、防衛前線へつくのは、夕方だと思われます。まだ、死んでおりません」
メルヒオーネが喋り終わると、部屋の中に沈黙が流れた。
「紛らわしいわ!」
元気が手紙と沈黙を勢いよく破る。すると、メルディがそれを見て盛大に泣き出してしまった。
「ご、ごめんなさぁ~い!」
「ご、ゴメンよ。メルディ、メルディに怒ったんじゃ無いんだよ?手紙に凄い身勝手な事が書かれてたから、叔父上に怒ったんだ」
「お、お父様をにですか?……じゃぁ、駄目なんですか?……おこ、怒って……お兄様が……あぁぁあぁ~ん!」
「怒ってるけど、怒って無いから!メ、メルディ!泣きやんで、ね?」
泣き止む気配が無いメルディに、元気があたふたする。それを見ながら、メルヒオーネが紅茶を一口すすると、メルディに話しかけた。
「メルディ様、坊ちゃまに説明しますので、泣き止んで下さいませんか?一刻を争いますので」
「は、はい……」
それを聞いたメルディが、ヒッグヒッグいいながらも必死に泣き止もうとする。元気は、一刻を争うなら、紅茶をすする前に言え!と思った。
「それで、何でこの手紙を持ってきたの?普通に言えば良いだろ?」
「まぁ。保険です」
「保険?」
「現在、防衛前線は人間側が劣勢です。領主が呼び出されるのですから、よほど人出不足なのでしょう。そんな戦場に行けばどうなるか、結果は明白です」
「まぁ……。無事ではすまないでしょうね……」
「はい、なのでお手紙通りの未来が、坊っちゃんを待っています」
そう言うとメルヒオーネが、元気を静かに見据える。元気は、必死に泣き止もうとするメルディをチラリと見ると、メルヒオーネを睨む。
「なるほどね……。嫌なら、動け。って事か……子供まで使って……」
「……卑怯。姑息。悪辣。非道。……私はどう言われても結構。領主一族の為であれば、何でも致します……。事が終わり次第……私を殺していただいてもかまいません」
「メ、メルヒオーネ!何を!?」
メルディが、驚いてメルヒオーネを見る。重い空気が流れる中。屋根小僧が階段を降りてくる足音が聞こえて来た。
「お前ならどうにか出来るんだろ?気になってゲームが出来ない。行くならさっさと行けよな」
ミールがメルヒオーネとメルディに軽く会釈すると、面倒くさそうに階段に座った。
「お前なぁ、そんな事言ったって、どれ位魔族がいるかわかんないんだぞ?魔族の将軍とかって、凄く強いんだからな?」
「まったく……。何でお前は、全部一人でどうにかしようとするんだよ?うちには居るだろ、立派な暇番犬が……」
ミールはそう言いうと。指笛をピュイーっと吹いた。すると、裏庭の小屋からダダダダダ!っと足音が聞こえ。玄関のドアがいきなりバーン!と開いた。
「ミール!貴様ぁ!あれほど辞めろと言ったのに!性懲りも無く吹きおって!耳障りなんだぞ!それ!本当に!……。それで、用事はなんだ?ミール?遊ぶのか?」
フェルミナが怒りながらも、嬉しそうにやって来た。
「……フェルミナ、元気が頼み事があるってさ」
「む?そうか、それならそうと早く言え馬鹿者。それで頼み事とは何だ元気?エロいのは、ミリャナに怒られるので駄目だが、それ以外は何でも聞いてやるぞ?」
そんな事を言うフェルミナは、Tシャツとパンツ一枚で裸足だ。
「エ!エロいのって何だよ!?」
「その、なんだ。み、耳を舐めたいとか、私の足の指の間の匂いをーー」
元気はバン!と机を叩き、ビシッとフェルミナを指さし。勢い良く立ち上がる。
「ーーフェルミナ!出撃準備をしろ!まじょくと戦争だ!」
「なに!戦争か!まじょくとは何かわからんが!ここ最近体がなまっていたのだ!存分に暴れて良いんだろうな!」
モジモジしながら、質問に応えていたフェルミナが、グッと拳を構える。
「あぁ、いいぞ!全力で行こう!」
元気もグッと拳を構え返す。
「おぉ!それは皆も喜ぶぞ!ちょっと、皆に言ってくる!」
そう言うとフェルミナは、嬉しそうに森へと駆けていった。
「坊ちゃん……。足の指がどうとか聞こえましたが、一体どういう遊びを……」
「メルヒオーネさん!メルディが聞いています。そういう話しはまだ早いですよ?」
「こ、子供扱い、ひっく……しないで、ひっく、くださいませっく」
「やだよ~。メルディは永遠に可愛い妹だもの!」
それを聞いてメルディが嬉しそうにへにゃっと笑う。
「なので……。メルヒオーネさん。俺はメルディのお願いを聞きます……。ですが、次。こう言う事をしたら、本気で怒ります……」
「……心得ました。坊ちゃん。そして、心からの感謝と忠誠を捧げます」
そう言うとメルヒオーネが立ち上がり。元気の前でひざまずき、それを見たメルディも急いで元気の前にやって来る。
「メルディは、こっちだな~」
「きゃっ」
メルヒオーネの真似をして、ひざまずこうとするメルディを元気が抱っこした。
「メルディ。お目々が真っ赤じゃないか……。ヒール……。うん。治った」
「凄いですわ!お兄様!お目々が、熱く無くなりました!ありがとう存じます!」
メルディがギュッと元気に抱きつく。はぁ。このまま、うちの子にしてしまおうかな?と元気が思っていたら、ミールに現実に戻された。
「元気、顔が気持ち悪いぞ。じゃ、僕。ゲームするから頑張ってね」
「何だよ、お前は行かないのか?」
「行くわけ無いだろ、一回死んでるんだし、僕はもう良いよ」
「そうか、まぁ、ありがとうな」
「一つ貸しな。……あのな、お前から頼って貰えないと皆、お前を頼れないんだぞ?その子みたいに誰かをまた追い詰めて泣かせてしまう前に、そこら辺覚えとけよ……」
感慨深い事を言って、屋根裏小僧は屋根裏へ戻って行く……そんなミールの後ろ姿を見送りながら元気は思った。
あの屋根裏小僧へは、一体幾つほど貸しを貸しているのだろうか?と。
「良いご兄弟ですな」
「まぁ、手がかかりますが良い奴ですよ」
「あのお方も……ひっく、お兄様なのですか?」
「そうだよミールって言うんだ。ニートがうつるから、近づいてはいけないよメルディ」
「き、気をつけますお兄様……ひっく」
屋根裏からドンと床を叩く音が聞こえた
。
どうやら屋根裏小僧は耳が良いみたいだ。ご立腹な様子なので、後でおやつでも持っていってやろうと元気は思ったのだった。
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