アジャとハナ

「えっとお部屋の掃除をします」


「ふむ、部屋の掃除か造作もない」


 怖そうなローブを着た女の人に掃除を教えるなんて私に出来るのかしら……。

 そう思いながらラジャがハナに掃除のやり方を掃除を教える。


 ラジャは最近、孤児からシスターになった女の子だ。大人しく喋るのが苦手で、外で生きていくのはまだ難しいとマザーが判断した結果だった。


 孤児は13までに里親が決まるか、住み込みの仕事を見つけるかする。

 後は病死か誘拐か外で何かしらの犯罪により死亡かだ。


 最近は元気の配給により食事等が改善されたが、それ以前は孤児院に子供達が残るメリットが何も無かった。


 アルカンハイトでは奴隷制度が禁止されているので、孤児であっても最低限の生活は保証される。


 孤児院に残って空腹で過ごすよりも、住み込みの仕事をすれば空腹で過ごすことも無くなるので、孤児院は常に人出不足だった。


 受け入れ先は、男なら建設業や騎士団、兵士、女は、針子、メイド、ウェイター等、他にも農業等もある。


「これは、こうしたら駄目なのか?」

 ハナが窓を開け風の魔法で部屋のホコリを外へと吹き出す。


「な、何ですか今のは!?」

 アジャはビックリして大きな声を出してしまった。


「魔法でやった方が良いと思ったが駄目だったか?」


「あ、いえ、初めて見たので驚いてしまいました……大きな声を出してすいませんでした」


「いや、驚かせてしまったのなら、悪かったな、すまなかった……それで、駄目なのか?」


「あ、いえ、大丈夫ですが、窓の外に誰もいないか確認してからお願いします」


「わかった。気をつけよう」

 その後、アジャとハナは各室を回り掃除を行った。


 アジャはどうしようかと悩む、掃除はハナの魔法で殆ど済んでしまった。

 ハナが風でホコリを払い、軽く水を撒き二人でモップで床を拭いて終わりだ。


「さて、後は何をすれば良い?」


「殆ど終わっちゃいまして……どうしましょう?」


「ふむ、やはり私の魔法は優秀だな」


「はい、凄いです、羨ましいです」


「そ、そうか?羨ましいか?凄いか?そうか?フフン」


 ハナは羨ましがられる事が初めてで嬉しかった。


 エルフは皆が魔力生命体なので芳醇な魔力を持っている、なので個体で特別扱いされる事は無いからだ。


「気分が良いので、これをやろう!」

 ハナは手のひらの上にクッキーを出す。


 元気の差し入れやミールが水場に遊びに来て出すので、味を覚えてお菓子や簡単な料理はエルフの殆どが出せる様になっている。


「何ですか?これ?」


「クッキーだ!食べてみろ」


 いきなり出てきたけど大丈夫かな?とは思ったが、美味しそうな香りに惹かれてアジャはクッキーを受け取り食べてみる。


「はわぁ~、何ですかこれ~!美味しいですぅ~」


「そうだろう!」

 アジャの口の中に幸せが広がり口の中に残った甘さを噛みしめ、ハナがそれを見つめる。


「もう一個食べるか?」


「え!良いんですか!?」


 アジャが喜ぶ様子を見てハナは心臓がキュンとなる。


「ほら、受け取れ……どうだ?美味しいか?」


「はい、美味しいです!ハナさんは優しいですね!」


「む、そうか?優しいか!そうか、ほれ、まだあるぞ!」

 掃除の終わった部屋のベッドに二人で座りハナはクッキーをアジャに渡す、それを美味しそうにアジャは食べる。それを繰り返していた。


「はぁ。私、最初はどんな人が来るかわからなかったんで怖かったんですけど、ハナさが来てくれて良かったです」


「そ、そうか、私が来て良かったか!」


「はい!でも……残念です。せっかく会えたのにまた暫く会えないなんて……」


 アジャがシュンとした。その時ハナの中で何かが爆発した。


「ひゃっ!は、ハナさん?どうしたんですか?」


「わ、わからんが、こうしなければどうにかなってしまいそうなんだ!どうしたんだ私は!?」


 ハナはアジャを抱きしめていた。


「何か、胸の辺りがキュンとしてモワモワっとするのだ何だこれは?」


 アジャには心辺りがあった。

 ミリャナがギュッとしてくれるとそういう気持ちになるのだ。


「多分、こうすれば治るかも知れません」

 そういうとアジャもハナを抱きしめる。


「はぁ、落ち着いてきた……一体何だったんだ今のは?」


「その、あの、ミリャナさんが言ってたんですが、好きになるとしたくなるって……言ってました」


「そうなのか?じゃぁ、私はアジャを好きになったのか?」


「ど、どうなんでしょう?」


「う~ん、どうなんだろう?」

 二人で悩んでいると二人とも可笑しくなり笑い合った。


 その後は二人でハナの大魔道士の衣装を考えたり、アジャの可愛い衣装を考えたりして遊んだ。


「そろそろ、帰る時間だな」


「そ、そうですか……」

 アジャがシュンとするとさっきの感情がまたハナを襲う。


「わかったぞ!アジャそれだ!その顔をすると駄目だ!」


「顔ですか?」


「そうだ、何か爆発しそうになる。アジャは何でそんな顔をするのだ?」


「何でって、ハナさんが帰っちゃうのは寂しいなって」


「寂しいか?それはどんな感じなのだ?」


「寂しいですか……?えっと何と言ったら良いんでしょう?ハナさんが帰っちゃうと楽しかった時間が終わっちゃうから?かな?」


「なるほど!そうか!それは知っているな、森の皆と遊んだ後一人になると寂しくなる!」


「私も今、寂しいです……」


「そうか、でも、大丈夫だ!私は必ずアジャにまた会いに来るから、寂しいはしなくていい」

 そういうとハナはアジャを抱きしめる。

 ハナもアジャを抱きしめ返す。


「はい、待ってます。」


「あぁ!まってろ!」

 そういうと二人は別れハナは森に帰っていった。


 その日の夜、アジャはハナが出してくれたひらひらな洋服を大事そうに抱きながら眠り、ハナはアジャが考えてくれたおねぇさんぽい服を大事そうに抱きながら眠りについたのだった。

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