ヘレンとイケメン

「あら!?森の民だっけ?エルフってどんなのかと思ってたらいい男じゃない!!!

 私はヘレン、ミリャナと同じ18よ!アンタ名前は?」


「ヘレン殿初めまして、自分はイケメンといいます。今日はよろしくお願いします」


 イケメンはビシッと額に手を当てて敬礼する。今日は孤児院へ初めて手伝いに来た日だ。


「イケメンって自分で言うのかい?凄い自信だね。まぁ、確かにイケメンだけど……んじゃ、洗濯物から始めるよ!」


「了解しました!」

 イケメンはヘレンに洗い物を教えて貰うが手加減が判らず子供の服を破いてしまった。


「あ~あ~!アンタ、手加減して洗いなさいよ!」


「す、すいません!」


「まったく!ほら次やんな!」


「は、はい!」


 今度はゆっくり、そっと洗うイケメン。


「アンタ!そんなゆっくりじゃ日が暮れちまうだろ!」


「も、申し訳ない!」


「まったく、ほら!こうやって!」


 ヘレンはイケメンの背後から抱きしめる形で力加減を教える。


「わかったかい!?」


「は、はい!わかりました!力加減が難しいですが、出来そうです!」


「そうかい、じゃ早くやるよ、まだまだあるんだ!」


「は、はい!わかりました!」


 イケメンは不思議な感覚を覚えていた。怒られるとドキッとするが、力加減を教えて貰った時は暖かくてドキドキした。


「はぁ、終わったね!ご苦労さん!」


「あの、すいませんでした洋服を破いてしまい」


 問題を起こさない様に気をつけていたのに、服を破いて怒られてしまったことにイケメンは落ち込んでいた。これも森にいると殆ど経験しない感覚だった。


「仕方ないさ、信じられないけどその様子を見ると、本当に初めてだったんだろ?服を洗うとか?森では服とかどうしてるんだい?」


 孤児院の壁にもたれかかり座り込んで落ちむイケメンに、ヘレンが質問する。

 子供達がシーツを持ってくるまで休み時間である。


「基本、皆、着ていません」


「はぁ~、本当かい!?色々大変じゃぁ無いのかい?」


「困った事はありません、エルフは体を見られたところで困らないのですが、人間は困るらしいので今は着ています」


「困る困らないが規準なのかい?」


「えぇ、それ以外に何かあるのですか?」


「そりゃぁアンタ恥ずかしいとか色々あるじゃないか」


「恥ずかしい?ですか、エルフには無い感覚ですね。本とかで読みますが感じたこと無いのでわかりません」


「はぁ~、そんなもんなんだね、いきなり脱いだりしないでおくれよ?」


「しません、人間は裸を見ると困るのでしょう?」


「んん~、まぁ、そうだね……」

 ヘレンは、何で服を着ないといけないんだ?と質問する子供のことを思い出した。

 そしてふと疑問に感じた事を問いかける。


「アンタは好きな人とかいないのかい?」


「好きな人ですか?森の皆好きですが?」


「そうじゃなくて、気になる異性とかさ」


「そういうのはありません、寿命が長いエルフには生殖本能が殆ど無いので、男女の概念が殆ど無いのです」


「はぁ、イケメンなのにもったいないねぇ」


「もったいないですか……すいません」

 ヘレンは落ちこんでしまっているイケメンに溜息をつく。思春期前の大きな子供だと感じた。


 ヘレンは思いつきで、落ちこんでいる孤児院の子供に対するように撫で撫でしながら慰めてみる。


「まだ、始まったばかりだろ?落ちこんでたら仕事になんないぞ?誰でも最初は出来ないんだから、落ちこまなくて良いんだ」


「し、しかし、問題を起こすなと言われていたのに、起こしてしまいました。ヘレンにも迷惑をかけてしまって」


「このあと、頑張れば良いだろう?

 もう、イケメンは手伝ってくれないのかい?」


「い、いえ!お手伝いします!」


「んじゃ!元気だしな!そんなんじゃ出来るもんも出来ないよ!」


「はい!」

 イケメンはヘレンが励ましてくれた事が嬉しく、心がふわりとして元気になる撫で撫でも嬉しいと感じた。

 そしてまた手伝いを頑張ろう!とイケメンは思ったのだった。


 その後もイケメンとヘレンは一緒に行動する。怒られては落ちこんで、励まして貰って褒めて貰ってを一日繰り返した。


「あいた!」


 午後の洗い物が終わり、イケメンが撫で撫でして貰っていた時。ヘレンがそう声を上げ、撫で撫でをやめてしまった。


「ど、どうしましたか?」

 イケメンはヘレンの声に焦る。


「あぁ、ゴメンゴメン。最近洗い物が多くてさ、手が荒れてるんだ。ほら汚いだろ?」


 それを見てイケメンはペロリと傷をなめた。


「な、なな、なにすんだい!」

 ヘレンは驚いて手を引っ込める。


「あ、いえ!すいません。汚いとかいうのでそんなことは無いという意味でして、その、すいません……」


 イケメンはまたヘレンを怒らせてしまった。と思いまた落ちこむ……。


「い、いや、怒ってないから、落ちこまないで、驚いただけだよ。でも次から言葉で言った方が良いかもね」


「はい……あ、そうだ、手を見せてください!」


 ヘレンは少し考えてから手を差し出す。


 イケメンはそっと手を取ると魔法で癒やしを与えていく。


「これで、綺麗になりましたよ」


「これは、魔法かい?凄いねぇ!初めて見たよ」

 褒められたイケメンは嬉しそうに耳をピコピコさせる。ヘレンはそれを見てあぁ、褒めて欲しいんだな。と思い、少し背伸びして撫で撫でするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る