約束の続き

 まったく領主の城になんて行くわけ無いじゃないか。ミールはそう思いながら孤児院へ向かう。


 領主は叔父らしいが会った事も無い人に気を遣うのが嫌なのと、何だか怒られそうなのとでミールは、孤児院へミリャナの代わりに手伝いに行く。と言って逃げて来たのだ。


「こんちゃ!手伝いに来ました~!」


「あぁ、いらっしゃい。ミリャナさんの代わりに手伝いに来てくれた方ですね。マザーから聞いています」


「よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 朝の洗濯をしていたシスターへ声をかけたら、それはミールの幼馴染みのアルトだった。


「あの、お名前を伺っても?」


「あ、あぁ、ラースといいます」


「ラースさんですね。私はアルトといいますよろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


「ハハッ2回挨拶しちゃいましたね」


「そうですね、ははは」


「気さくそうな方で良かったです。では、どうしましょう?」


「洗濯物、手伝うよ」


「ありがとうございます!では、よろしくお願いします」


 アルトご挨拶を交わすとミールは仕事を手伝い始める。アルトはミールに気付いていない様に見え、ミールは安心した様な寂しい様な感じがした。


 暫く二人で洗濯をしていると他のシスターと交代しアルトは礼拝堂へ向かう。

 お祈りの時間らしい。


「アルトは可愛いだろう?でも手を出しちゃあいけないよ!あの娘にはずっと待っている人がいるんだからね!」


 ヘレンと名乗ったシスターはミールへ釘を刺すと洗濯を始める。


 10人分あるので結構な量だ。


 洗濯物を洗い終わり。干している途中でアルトが帰ってくる。そしてアルトと交代しヘレンは子供の朝食の準備に向かった。


「ラースさんはどうして孤児院の手伝いに?」


「えっと、昔ミリャナさんにお世話になりまして、そのお礼で」


「なるほど~、ハハッ優しいですもんねお姉さん!」


「そうですね!優しいんですよね!綺麗だし!」


「ハハッ、ラースさんはミリャナさんが好きなんですね~。わかります」


 ミールはいつも通りミリャナを褒めてしまう

 危なかった~とミールは内心焦る。


「アルトさんは何故孤児院で働いてるんですか?」


「私は孤児なので行くところが無いんですよ~」


 そういってアルトはハハッと笑顔で答える。


「ほら、わたし前歯がないでしょ?だからお嫁さんにも行けないんです~」


 アルトはニカッと笑ってミールに前歯を見せた。赤毛のお下げ髪が容姿を幼く見せる。


「どうしたんですか、前歯?」


「乙女にグイグイ聞きますね~。まぁ隠す程の事でも無いんですけどね。昔、凄く仲良くしていたお友達と悪いことしちゃいまして……。あ!私これでもやんちゃだったんですよ?ハハッ。お貴族様の学校に忍び込んで盗みをやっちゃったんです。それで後々捕まっちゃいまして、黙ってたら兵隊さんに殴られちゃいました。

 盗んだ物が出てこなかったので証拠不十分で解放されましたが、前歯がこの通りです。

 ラースさんは悪いことしちゃ駄目ですよ?」


 ハハッと笑いながらアルトは顔の前で人差し指を立てミールに注意する


「しないよ悪いことなんて、それで友達はどうなったんだい?」


「ハハッお友達はですね~無事でしたよ。無事でした……。元気に暮らしてるみたいです。さぁ!急がないと食事に間に合いませんよ?最近は神さまが施しを持ってきてくれるので、ご飯が美味しいんです!

 ぜひラースさんも食べて行って下さいね!」


「うん、ありがとう」


 その後、アルトは質問して欲しくなさそうでミールから少し離れて、洗濯物をする。

 洗濯物干しが終わったので、二人で洗濯物が入っていた桶を洗濯場に戻して、台所へと向かう。そしてヘレンが準備していた食事を隣の食堂へ運び並べた。


 食事を並べ終わると、ヘレンが廊下に向けてハンドベルをチリチリチリンと鳴らす。その音を聞いて子供達が食堂に集まる。

 食事が終わるとベッドシーツの洗濯だ。


 子供達が取り替えたシーツを洗濯場に持ってくるので、シーツをミールとアルトで洗う。アルトはあれからニコニコはしているが無言だ。


 そもそもそんなにニコニコする奴じゃなかったとミールは思った。大体、僕に気づかないって何だよ?ニコニコ他人みたいな笑顔しやがって……。

 ミールはそう思い、何だかイライラしてしまうが、嘘をついているので仕方なかった。


「毎日こんなに大変なんですか?」


「そうですね、毎日こんな感じですよ~?いつもはミリャナさんもいるのでもうちょっと早いんですけどね~ハハッ」


「そりゃ、悪かったね」


「あれ?怒っちゃいました?手伝って貰えるだけで助かりますよ~」


 洗濯物を終えると教会前で子供の見守りだ。


「こらぁ!まて!ガキ共!」


「うるせぇ、悔しかったら捕まえて見やがれ!」


 ミールが子供と追いかけっこをする。


「子供達、元気すぎない?」

 子供を追いかけていたミールだったが、早々にバテてしまい木陰で休んでいたアルトの元に戻る。


「ラースさんは相変わらず体力無いのですね~。そんなことではもてませんよ?」


「うるせぇ……。あぁ~疲れた~!」


「アルト~!」


「子供達が呼んでるので行ってきますね。ラースさんは休んでて下さい」


 そういうと今度はアルトが子供達と遊び始める。どんな体力しているんだ。とアルトと子供達とをミールは木陰で休みながら眺めた。


 暫くするとベルが鳴り皆で昼食だ。

 子供は子供達で小さい子の食事を手伝ったりしながら食事をする。シスター達はそれを見守りながら台所のテーブルで食事をとる。


「アンタ、結婚はしないのかい?」


「え?」


「結婚だよ!結婚!身なりからして良いところの坊ちゃんだろ?」


 ミールが着ている服は元気の服を奪って着ているので、質が良い。ヘレンはミールが良いところのお坊ちゃんと思っているようだ。


「お坊ちゃんでは無いし、結婚の予定も彼女もいませんよ」


「そうなのかい?じゃあ、この娘はどうだい?器量も顔も悪く無いし、面倒見もいいよ?」


 ヘレンがアルトとをミールに勧めする。


「ヘレン?人の心配をする前にまず自分からでしょ?」


「私は良いんだよ、顔も要領も運も悪いからね!さっきはアンタにあんな事言ったけどね、清く正しいお付き合いであれば構わないんだ!どうやらアンタは孤児だからとか、そんなことを言わないみたいだからさ!」


 どうだい?とヘレンはミールに詰め寄る。


「ちょっとヘレン!本当に怒るよ?ごめんなさい!ラースさん!ヘレンはお節介が好きなのよ。悪気があるわけじゃ無いから許してあげてね」


「大丈夫、怒ってないよ」


「ハハッ、ラースさんは優しいんですね。

 大体、前歯が無い孤児の女なんて好きになるわけ無いじゃ無いですか~。せいぜい奴隷か良くて召使いですよ~」


 そう言って自虐しながらアルトは笑う。

 そりゃあそっかとヘレンも笑う。シスタージョークだろうか?笑えないしミールは気に食わなかった。


「前歯なんて無くてもアルトさんは可愛いと思いますよ?元気で笑顔で仕事熱心で、とても良い奥さんになると思います」


 自虐ネタで笑い合う二人が気に入らなかったので、ミールがアルトを褒めると二人の笑いが止まった。成功だ。


「わ、わたし、お祈りに行ってくるね!」

 そういってアルトは残っていたパンとスープを掻き込んで礼拝堂へ行ってしまった。


「アンタ、あんな事いっちゃあいけないよ。孤児のあたし達が奥さんになんて簡単になれる訳無いんだからさ。アンタにとっては優しさかも知れないけど、あたしら孤児にとっては悪口よりもたちが悪いよ。帰ってくるかわからない男を待ち続ける優しい素直な娘なんだ。男にあんな事言われたら夢見ちゃうじゃないか」


「優しさなんかじゃ無いですよ。気に食わなかったから言ったんです」


「はぁ~、アンタ性格悪いねぇ~。まぁ良いけど、責任を取る気が無いなら、あんな事をいっちゃあいけないよ?どうせ、アンタは明日からはもう来ないんだろ?あの娘は明日からもここで生活をするんだから、変な夢を見せないであげておくれ」


 嫁にどうだの言ったのは、ヘレンの方じゃないか。とミールは思ったが黙っておく。

 ヘレンは食事を終えると子供の様子を見に行った。


 子供の食事が終わるまで手持ち無沙汰なミールは、礼拝堂へアルトの様子を見に行くことにした。


 静かな礼拝堂で、アルトは両手を組み膝をついて祭壇に向い、お祈りをしていた。


 ミールは礼拝堂の椅子に座りアルトを見つめる。


 見ないうちに成長したなぁ。とミールは思う。ミールの身体は何故か成長している。が記憶はあの頃のままだ。


 魔石になってた頃の記憶は無いので、今日の様に時々違和感を感じる。何故幽霊姿が成長したミールだったのかは元気にもわからないとのことだった。


「何を祈ってるの?」


「うわ!ビックリしたぁ~。ラースさんいたんですか?」


「今来たところ」


「あまり、驚かさないで下さい。心臓が止まるかと思いましたよ……。さっき話したお友達の為に毎日、お祈りをしているんです」


「神さまに?信じてるの?」


「昔は信じていませんでしたが……。今は信じていますよ?」


「どんな、奴だったのソイツ」


「ミールっていうミリャナさんの弟さんなんですけど、わたしを連れ出しては悪いことをさせて喜ぶゴブリンの様な人でした」


 ミールはゴブリンって何だよ!とツッコもうと思ったが我慢する。


「孤児の私は、毎日ミールと孤児院を抜け出しては遊んでいました。私毎日、楽しかったのですよ?本当に……。なのにミールは私を置いて中央に行ってしまいました……。それから悪い子だった私はまた一人になりました」


 何も言えず、ミールは静かにアルトの話を聞く。


「ある時ミリャナさんが良い子にしていれば神さまが願いを叶えてくれる。というお話しをしてくれました。そして私は思いました。

 私は悪い子だから、産まれてからも一人で、ミールも帰って来ないんだと、なので神さまに良い子にするので、ミールを返して下さいと願いました。ハハッ別に私の物じゃ無いのに子供は面白いですよね。

 それからずっと……。毎日祈ってます」


 偽名を使って、帰ってきたことを隠してしまった事が情けなくて、申し訳なくてミールは居たたまれなくなる。


「あ、あのさ!実は……。」


 ミールがそこまで言うと重ねる様にアルトが話し出す。


「ミールは英雄になる。と言っていたので、もしかしたら王国で手柄を建てて幸せになっているかも知れません。なので私もそろそろ祈るのを辞めようと思います。彼が幸せであれば、私は……」


 そういうとアルトは顔を覆い震えだしてしまった。


「な、泣くなよ!その、俺だよ。

 俺がミールなんだ!帰って来たんだ!アルト!その何か、気恥ずかしくて言えなかったけどさ、本当なんだ!」


「嘘です!皆が連絡が無いミールは死んだんだろう。と言っていました」


「う、嘘じゃないんだって!どうしたら信じてくれるんだよ?」


「本当であれば子供の頃、屋根から落ちた時に出来た傷がお尻にあるはずです。見せられますか?」


「あ、あぁ!ある!あるぞ!ほら!!!

 見ろ!ほら!」

 そういうとミールはアルトにお尻を見せる。


 新しい身体。魔力生命体になったので消えてるかな~?と確認した事がある。

 傷が消えてなくて、何で残ってんだよ!と元気に抗議したら傷は男の勲章。とか訳わからないことを言っていた。が今は元気に感謝だ。


「ぶっはは!もう、無理だ!汚い物見せるなよ!ミール!」


 必死にミールがお尻をアルトに突き出していると、泣いていたはずのアルトがお腹を抱えて笑い始めた。


「お、お前が見せろって言ったんだろ!」


 急いでズボンをはき、アレ?っと思う。


「お前、もしかして気づいてたのか?」


「ん?あぁ、最初から気づいてたぞ。誰だよラースって?」


 そういうとまたアルトは笑い始めた。


「だったら、早く言えよ!」


「やだよ。他人のふりするし、最初は忘れたのか?と思ってたんだけど、グイグイ質問してくるし。コイツ様子見してやがる。と思ったら腹立ってな、色々とヒント出したのに気づかないし」


「ヒントってなんだよ?」


「初めましての後、ミリャナさんをお前の姉言ってみたり、休憩中相変わらずって言ってみたりしたけど、全然気づかなかったな」


「わかりにくいわ!」


「それよりさ~。あれ、もう一回言ってくれよ?」


「なんだよアレって?」


「ほら、私が良い何になるか、言ってただろ?前歯が無くてもなんちゃらかんちゃらって」


 思い出してミールは恥ずかしくなる。


「う、うるせぇ!もう忘れた!大体あんなネガティブな事言うお前が悪いんだろ馬鹿!」


「はぁ!馬鹿ってなんだよ、ビビりゴブリンめ!悔い改めろ!」


 そういうとアルトがミールに勢いよく飛びかかる。ミールが身構えていると、飛びかかって来たアルトにミールは……ぎゅっと抱きしめられた。


「お帰りミール。生きてて……良かった」


「うん、ただいまアルト」

 生きては無いんだけどね!と言って茶化そうとミールは思ったが、自分の為に泣いてくれているアルトを思うと言えなかった。


「ミール、家は?」


「家?」


「昔約束してくれた家だよ!もしかして忘れたのか!?」


 さっきまで泣いていたのにもう怒っている。ニコニコは無くなってしまったが、ミールはこっちの方が良いと思った。


「わ、忘れてないよ!でも僕はゴブリンだからなぁ。もう少し待ってくれると助かるな」


「忘れてないなら、良い」

 アルトがそう言った所で礼拝堂まで子供達の声が響いてきた。


「食事が終わったみたいだ。おっし、仕事だ仕事だ!」


 そういってアルトはミールから離れて伸びをする。


「期待しないで待ってる!」

 そういってアルトはニカッと笑い。子供達の所へかけていった。


 手伝いを終えて家に帰るとミールの好きなカレーの匂いがした。ミリャナと元気とポタンがおかえりと挨拶をしてくれる。


「ただいま」


 ミールはそういうと手を洗い席に座る。座った瞬間に涙が溢れて来た。


「ミール!どうしたの!?」


 ミリャナがミールの心配する。


「ミール!どうした?また何かしたのか!?」


 元気は違う方向で心配する。


「早めに言った方が怒られる度合いは少ないよ?泣くくらいなら言った方が良いよ?自分も気が楽になるし」


 ポタンは何かした事を前提に慰めてくる。


「元気もポタンも何で僕が何かした前提なんだよ!?失礼だろ!!今日、孤児院で昔の、生きてた時の友達に会ってさ。帰って来たら気が抜けたんだ……と思う」


「そうか、何かごめん。前科がありすぎて……でも、よかったな」


「なんか、ごめんなさい……会えてよかったね」


 少しイラッとしたが、元気がいう通り前科がありすぎてミールは何も言えなかった。


「あぁ~今日も腹が減ったぞ~!」

 そう言いながらフェルミナが入ってくる。


「何だミール?泣いているではないか。はっはーん。さてはお主また何かやって叱られたんだな?自業自得だ!悔い改めろ!」


 そういってミールに向かってビシッと指を指すフェルミナ。


「うるせぇ!クソエルフ!大体何でお前は毎日来るんだよ!エルフはエルフらしく森で草でも食ってろ!」


「か~!貴様!エルフは森の民だが草は食わんぞ!侮辱しおって!許さん!表にでろ!」


 いつも通りフェルミナとミールの喧嘩が始まり、ミリャナに二人が怒られて食事が始まった。


 食事が終わるとミールはすぐに屋根裏へ戻のだが、今日は部屋に戻る前にミールは元気にある頼み事をした。


 最初は何だろうと元気は警戒していたが最終的には快く承諾してくれた。


 その願いを聞いてミリャナが涙ぐんでいるのを見て、ミールは気恥ずかしくなり逃げるように部屋に戻った。


 次の日、ミールが手伝いじゃなく遊びに孤児院を訪れると、アルトが嬉しそうに駆け寄ってきた。


「おい!見てくれよミール!奇跡が起きたんだ!」


 そういってニカッとはを出して笑って見せる。


「どうしたんだ?歯に挟まったもやしでも取れたのか?」


「ちげぇよ馬鹿!もやしってなんだよ?前歯だよ!前歯が生えてきたんだ!」


「おぉ、凄いじゃないか」


「なんだ?驚かないのか?歯が生えたんだぞ?」


「いや、驚いたさ!良かったなアルト!」


「あぁ!嬉しい!」

 嬉しそうにしているアルトをみてミールは元気の仕事の速さに感心した。そして迷惑をかけるのをちょっとだけ控えようと思った。


「あ、そうだミールこれ何か知ってるか?起きたら枕元に置いてあったんだ。神さまからの贈り物かな~?ミールも帰ってきたし神さまってやっぱいるんだな~」


 嬉しそうに、嬉しいことをいうアルトが手にしている物を見て、ミールは元気に感心したこと感謝したことを後悔する。


 アルトが持っているのは、ファンシーな四角い袋に、丸い輪っかの形が浮き上がった。

 大人同士がじゃれ合う時に使うアレだった。


 ミールは元気が出した。アレな本でよく見るので良く知っている。


「そ、それは、大切な御守りだろうから大切にしまっておくと良いよ」


「そうか、なんか中がぬるぬるしてるっぽくて触るとふにふにしてるから、気になって触ってたけど大事にしまっとく」


「そうだな、それがいいと思うよ」


 遠くで洗濯物を干しているミリャナがこっちをチラチラ見て微笑ましい笑顔を向けているのに気付き、ミールは急に恥ずかしくなる。


「じゃ、じゃあ帰るわ!」


「え!来たばっかりじゃぁないか!もう帰るのか!?」


 片手にアレを持って、片手でミールの服を引っ張るアルトにミールを自然と意識してしまう。元気め!


「手伝っていけよ?な?そうしろよ?」


「何を手伝えば良いんだ?」


「今は、ミリャナさんとヘレンが洗濯物だから、私達は昼食の準備だな!ほら!行こう!」


 アルトに手を引かれ食堂に向かう。途中でヘレンとミリャナの横を通ると二人が生暖かい目で見てくる。それを無視して食堂へ向かった。


 まったくアルトのやつ嬉しそうにしやがって、昼食の準備をしながらプリンでも出してやろうとミールは思った。


 プリン位はミールの魔力でも出せるしイメージも定着した。時々自分で出して食べている。食堂へついて昼食の準備をしているとアルトがミールに話しかける。


「夢かと思ったんだ」


「何が?」


「お前が帰ってきたのがだよ。眠ったら消えちゃうんじゃ無いかと思って、怖くて、寂しくて眠れなかったんだ。朝が来るのがさ怖くってさ、昨日眠れなかったんだ」


「……」


 ミールは元気がミリャナに色々してあげる気持ちが少しわかった気がした。


 この気持ちが何なのかはわからないが、ミールはアルトを元気付けたいと思った。

 悲しい、寂しい顔をさせたくないとも思った。


「そしたらね、扉が急に開いてさ、誰か入ってきたの。そしてね、この子かな?ってその人が私の唇を指でプルプルプルプルするんだ。くすぐったくて笑いそうになっちゃった」


 アイツは何をしてるんだ。


「そ、それで大丈夫だったのか?」


「うん、その後口が温かくなって、その人が撫で撫でしながら良かったね。って言ってくれたんだ。それで嬉しくなって目を開けて誰かな?と見ようと思ったら。うぉ!って言って走って逃げちゃった。姿は見えなかったんだ」


 本当にアイツは……。


「その後、撫で撫でして貰ったからかな?

 グッスリ眠れたの。ミリャナさんが前に良くしてくれてたからその時みたいに眠れた」


「アルトは撫で撫でされると良く眠れるのか?」


「うん!気持ちが良いよね。撫で撫で!」


「そうか……今度してやろうか?」


「えぇ!本当か?嬉しいなぁ!じゃあ私もミールにしてあげるよ!えい!」


「や、やめろって今じゃないだろ?」


 ミールとアルトがじゃれ合っていると、窓の外でミリャナとヘレンが微笑ましそうに覗いていた。


「ほ、ほら!アルト!仕事しないと!」


「あ、そうだな!子供達のご飯!」

 そういって二人は仕事に戻る。


「その、なんだ、もう言わないから安心しろ」


 二人で食器を並べながら話す。


「何を?」


「英雄になりたいとか、だから何処にも行かないから……夜はゆっくりねるといいよ」


「……」


 アルトの反応が無い……ミールは恥ずかしくなりアルトをそっと見てみる。


 すると頰を赤らめたアルトがゴム入りの袋を口元に当てミールに微笑む……。


「神さまの御守り凄い効果だな!」


 御守りでも何でも無いが、ソレが凄い効果を持っていることをミールは認めざるをえなかった……。

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