修復

 メルディの部屋でお茶をしていると兵士が元気達を呼びに来た。

 ヴァイド達の話しが終わった様だ。


「現在、領主様方は門前広場へ移動中です、元気様方もそちらへ直接来るようにとの事です」


「ふむ、ご苦労であった」


「はっ!」


 元気が兵士を労うと兵士は踵を返し門前広場へと駆け足で向かっていった。


「フフフお兄様、お父様のマネですの?」


「似てたろ?」


「私は何も見なかったことに致します」


 3人はメルディの部屋から門前広場へ移動する。その際にメルディがメルヒオーネにエスコートを頼むと、またメルヒオーネが泣きそうになっていた。


 門前広場へ到着すると重そうな鎧を装備した騎士団や兵士がずらりと並んでいた。

 大きな門の上にはヴァイド達の姿が見える。


 城から城門まではまだ結構距離がある。

 学校の運動場位の広さがあるのだ。


「メルディ大丈夫?まだ結構あるけど?」


「大丈夫ですわ!私、運動は得意ですの!」

 笑顔で応えるメルディだったが、可愛い額にうっすら汗が滲んでいる。


「おいでメルディ」

 そういって元気はグイッとメルディを持ち上げ抱っこする。


「お、お兄様!?」


「ぼ、坊ちゃま!何を!?」

 元気の行動にメルディとメルヒオーネが焦る。その懐かしい反応が少し懐かしい。


 最近ミリャナはいろんな事に慣れてしまって最近はちょっと塩対応なのだ。拍子抜けしてしまうが、またそれが良いのだ。


「メルヒオーネさんも背中に捕まって、ほら、早く!」


「せ、背中ですか!?」


「うん、全力でしがみついててね」


「か、かしこまりました!」


 そういうと何かを察したメルヒオーネが膝をついて背中に全力でしがみつく。エルフって皆、背が高いんだよなぁと思いながら、ポンっと飛び上がる。


「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 元気の前から、後から悲鳴が上がる。


 そのまま城門まで飛びゆっくりと着地する、急に降りるとメルヒオーネが足を怪我するからだ。


「お、お兄様!!!わたくし始めてお空を飛びましたわ!!!凄いですわ!!!」

 メルディを地面に降ろすと喜んでぴょんぴょん跳ねている。


「も、申し訳ありません坊ちゃま、お手を貸して頂けませんか、こ、腰が抜けてしまい自分では……」

 メルディと反してメルヒオーネは地面に座り込んでいた。


 少し遠くでヴァイド達がこちらを見ている。


 メルヒオーネに手を貸し起こしてからヴァイド達と合流する。


「お待たせしました」


「其方は何をしているのだ?見ていてヒヤヒヤしたぞ」


「もしかして、やったら駄目でした?」


「当たり前だ!魔力が切れて落ちたらどうするのだ?」

 魔力切れを考えていなかった。


「だ、大丈夫ですよ、まだまだあります。」


「そういう問題ではない!メルディがマネをしたらどうするのだ馬鹿者!」


「す、すいません!」

 それも考えていなかった。


「め、メルディ一人でやっちゃ駄目だからね約束だよ?」


「はい!お兄様!」

 メルディは素直で良い子だった。


「まったく、それで、魔力は大丈夫なのか?」


「そちらは、全然大丈夫です!任せて下さい!」


「お前の魔力は、底なしだな」


 ヴァイドは気が抜けると其方からお前呼びになるようだと、どうでも良い事に元気は気づいた。


「げ、元気?か、帰りは、どうするのですか?」


「え?皆と一緒に帰りますけど?」


「そ、そうですか……」

 ヴェルニカが明らかにガッカリしてしまった。


 いつの間にか隣に来ていたミリャナに肘でトントンされる、ウインクだろうかアイコンタクトをしきりにしている。

 が下手で片目を閉じると反対の目が半目になりぷるぷるしている。


 それを繰り返して何かを伝えようと頑張るミリャナそれがまた可愛い……。

 元気はずっと見ていたいと思ったがガッカリした奥方を放っておくほど冷たい人間でもない。


「母上、宜しければ帰りは城までご一緒しませんか?」


「まぁ!本当ですか!是非お願い致します!」


「まぁ!お母様!ずるいですわ!」


「メルディはさっき、お空を飛んだではありませんか!」

 親子喧嘩が始まってしまった。


 珍しくミリャナがおろおろとしている、元気にお願いした自分のせいだ。と思っているのだろう。


 ミリャナの腕をトントンとつつき、任せろという意味で元気はウインクするが元気も下手だった。


「ほらほら、お二人とも喧嘩しないで、空を飛びたいなら、良い方法がありますので楽しみにしておいて下さい」


 それを聞いて、二人の喧嘩が止まり静かになる。


「元気よそんなことを言って大丈夫なのか?」


「大丈夫ですよ、魔力だけはあるので」


「フッそうか……。では、始めよう」


 そういうと、ヴァイドが城門の上にある壇上へ登る。すると門下から敬礼!と大きな声が響き騎士達の敬礼する音が辺りに響いた。


 広場の空気が引き締まりピリッとした静けさが広場を覆う。


「アルカンハイトの誇り高き騎士の諸君、集まってくれた事に感謝する!

 今日は、アルカンハイトに新たな自警団を立ち上げるリーダーを紹介しようと思う!

 元気よ!前へ!」


「は?」

 ひょうきんな声が出てしまった。

 挨拶なんて聞いていない。


 周りを見ると、ミリャナが不安そうな顔をしている以外は皆ニコリとしている。

 ポタンは欠伸をしていてまるで違う場所にいるようだ。


 ヴァイドを見たら口元がニヤリと釣り上がっている。元気の反応を楽しんでいるのだ。


 ぐぬぬ……!叔父上め、俺がテンパっておろおろするのを期待しているな!

 受けて立とうじゃないか!

 どうなっても知らんからね!と元気は腹を決める。


 魔力で金色のマント、そして身体には黄金の鎧を身につける。

 そして腰には厨二病の心をくすぐる格好いい剣を出す。

 頭にはドラゴンをイメージした兜を装着した。


 ヴァイドを見ると既に顔が青ざめている。

 ニヤリと元気はヴァイドに仕返すと壇上に上がった。


「我が名は、元気!運命の女神フェルミナの化身!である!この度、アルカンハイトへ暫くの間滞在する事となった!

 世話になる礼として其方らに神の祝福を授けてやろう!心して刮目せよ!」


 そういうと元気は剣を抜き空へと突き上げそれらしく剣が光るように、魔力を込める。すると剣が虹色に光り出した。


 門下の騎士が「おぉ……」とざわめき出す。


 ちょっと気持ちよくなってきたのでゴーン、ゴーンと鐘の音を鳴らす。

 声を魔法で鐘の音に変えて拡声し、腹話術の要領で自分で出してるだけだが。

 効果抜群だった。

 その光景に騎士達が次々に膝をついて行く。


「おぉ、神よ……」


「我々に祝福を……」


 と騎士達や兵士達からの声が聞こえて来る。流石に心苦しくなってきたので、これ以上の演出は辞めておく事にした。

 元気は祝福など送れないのだ。


「女神の祝福をここに!!!」

 最後の仕上げだ!と巨大な女神のホログラムを元気の背後に出現させる。


「せ、聖女だ!?」


「やはりそうか!?」


「あ、あれは孤児院の聖女か!?」


 あれ?孤児院の聖女?


 チラリと元気が後を振り返ると、真っ白な翼を広げ白い衣を纏った。

 超巨大なミリャナが両手を広げて微笑んでいた。


 これはヤバイ……。

 元気は急いで防壁を展開させ、巨大なミリャナをフェードアウトさせた。


「せ、聖女については詮索してはならぬぞ!もし守らなければ天罰が下ると心得よ!」


「はは!」

 騎士達や兵士達から良い返事が聞こえてきたので、大丈夫だろうと思うことにした。


「では、さらばだ!」


 そういって壇上から半分降りた所で、元気は言っていない事を思い出し壇上に戻る。


「もちろん、我々自警団についてもだ!

 わかったな!」


「はっ!!!」


 良い返事が聞こえてきたのでこちらも大丈夫だろうと思うことにして、今度こそ本当に壇上から降りた。


 降りると装備した物を全部消す。

 全部ホログラムなので気分はVチューバーだった。配信者の気分になれて面白かった。


「お、お兄様!かっこ良かったですわ!!!」


「そうね、やり過ぎだったけれど、先に挑発したのはヴァイドだから仕方ないわ。お疲れ様元気」


「坊ちゃんは人を束ねる才能があるやも知れませんな。先ほどまでとはまるで別人でした」


 メルディと母上とメルヒオーネは元気を労ってくれた。


「元ちゃん?ちょっと後でお話しがあるわ……。わかっているでしょう?」


「はい」

 ミリャナが先ほどの女神のように微笑んでいる。身震いがするほど美しい……。

 元気が今すぐこの場から逃げ出したいと思うほどだった。


「では、解散!!!!」


 演説が終わったヴァイドが壇上から降りてきて元気を小突く。


「あいて!」


「あいて!ではない!やり過ぎだ。馬鹿者!」


「いや、だって叔父上が煽ってくるから。どうせ俺がおろおろして変なことを言うのを楽しみにしてたんでしょ?」


「む、変なところだけ鋭いではないか」


「俺はやるときはやる男なんです」


「やるときと、やり方が違うがな」


 そういうとヴァイドはミリャナを見て何かを感じ「後はミリャナに任せれば良いな」と不吉な事を言った。


「では、城に戻るぞ」


 そうヴァイドが言ったので、元気は魔力で大きな赤い絨毯を出すと宙に浮かせる。

 ヴェルニカとメルディは目を輝かせ。

 ヴァイドとメルヒオーネは歩いて帰ると言って先に帰った。


 男組は高いところが苦手な様だ。

 もしかしたら自分で飛んで、魔力切れで落ちた事があるのかも知れない。


「私は自分で行くから、ママをしっかり支えてあげて」


「うん、任せろ!」

 ポタンはベビーカー毎宙に浮いて、スイ~っと城へと飛んで行った。

 とんだスーパーベイビーである。


「じゃ、しっかり捕まってくださいね」


「はい!お兄様!」


「わ、わかりましたわ!」


 ヴェルニカとメルディは絨毯に乗り込み絨毯を触ったりしている。

 最後にミリャナが絨毯に乗り込み、元気にしがみつく。ミリャナも高いところが苦手な様だ。


「じゃ、出発!」


 そういうと元気は絨毯を上昇させた。


「わぁ!高い!」とメルディ。


「凄いですわね」とヴェルニカ。


「ひぃ」とミリャナ。

 三者三様の反応がある。

 ミリャナの小さな悲鳴が可愛すぎて元気がぷっと吹き出し笑うと、ミリャナが元気の腕を抓った。


「いたた、ゴメンってミリャ」


「元ちゃん?わたし怒ってるんだけど?」


「えぇ、だって~普段ミリャはひぃ!とか言わないからさ面白くなっちゃって」


「そのことじゃない……。その事もだけど、あの大きな私はなに?凄く恥ずかしかったのよ?」


「あぁ~女神をイメージしたらさ、ミリャが出てきちゃった」


 正直に話したらまた抓られた。

 正直者は馬鹿をみるとはこの事かと元気は思ったが、こんな馬鹿なら何度見ても良いなとも思った。


「痛い痛い!だからゴメンってばぁ、何があってもちゃんと守るから許してミリャ!」


 身体能力は良くても痛覚は普通にあるので地味に痛いし、ミリャナは思ったよりも力が強い。5年間の水汲みや色々で鍛えられているのだ。


 サービスで城の周りの上空を散策しながら、元気がミリャナに抓られていると、後の二人が話しかけてくる。


「お姉様とお兄様は本当に仲良しですのね?」


「そうねぇ、あなた達いつ結婚なさるのかしら?」


 メルディは良いとして、ヴェルニカが大変なことを言い始めた。


「お、奥様!な、何を仰っているのですか!?」


「そ、そうですよ母上!?お、おれ達はそんなんじゃ無いんですよ?ね、ミリャ?」


「そ、そうですよ!奥様!私は家族なんですから仲良しなんです!ね、元ちゃん?」


「はぁ、私も仲の良い弟が欲しいですわ!そうですわ!そうですわね!お母様!わたくし弟が欲しいですわ!」


 今度はメルディがとんでもないことを言い始めた。


「そ、それは、お父様に言いなさいメルディ、わたくし一人ではどうにも出来ないのです」


「そうなのですか?じゃ、帰ったらお父様に聞いてみます!」


 メルディはルンルン気分であるが三人はちょっと気まずい。

 ブラ~ッと空中散歩をしたあと、メルディとヴェルニカを送り届け、城の人達に挨拶をしてから三人は帰宅した。


 帰ってからミリャナに怒られると思ったが、機嫌がなおっていた。今はポタンと遊んでいる。その光景をみて元気はほんわかした気持ちになった。


「元ちゃんどうしたの?」


「ん~?何か毎日こうだといいのになぁって思ってさ」


「フフフ、そうね」


「パパが変なことをしなきゃ大丈夫だよ」


「変な事って何だよ?」


「今日みたいな事」


「ぜ、善処します。さてとご飯の準備しようかな!」


 そういいながら元気が台所に逃げ。

 今日はミールが孤児院で頑張ってるから、ミールが好きなカレーに、ミリャナが好きなハンバーグを添えたハンバーグカレー。

 デザートはポタンが大好きなプリンかなぁ?と考えていると、二人の笑い声が背中越しに聞こえてきたのだった。

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