ハーフエルフ

 元気がヴェルニカの抱擁を堪能していると、メルヒオーネと一緒にミリャナが戻って来た。


「げ、元ちゃん!?奥様?何をなされているのですか!?」


「おや、これはこれは」


「あら、おかえりなさいミリャナ。私は元気の母になると決めたのです」


「は、母ですか?」


「そうです、母です!」


「はぁ、ヴェルニカももう良いだろう席に戻りなさい」


「そうですわね。元気、何かあったら言いなさいね。この母が何とかしてあげますから」


 元気に頼もしい事を告げながら、ヴェルニカが席に戻ると、ミリャナが席に戻り謝罪する。


「先ほどは私の勘違いでの無礼。どうかお許しください。申し訳ありませんでした」


「構わん、此方も配慮不足であった。今後男ノリは男だけの時にすることにしよう。なぁ元気」


「そ、そうですね」


 ニヤリとするヴァイドの内心が見えないが、男だけって事は個人で呼び出されるのだろうか?と思い少し不安になる。

 学校の先生に呼び出されるイメージだ。


「ミリャ、こっち向いて」


 そういうとこっちを向いたミリャナの目元にヒールかける。


「ありがとう、元ちゃん」


 何度かしてあげてるのでミリャナは驚かない。


「其方はそんなことにも魔力を使うのか?」


「叔父上、そんな事とは失礼な!ミリャナの綺麗な顔が!可愛いお目々が!真っ赤なのですよ!?この領地のいえ、この世界の一大事ではありませんか!」


 ヴァイドは男ノリを求めているようなので元気は少し学校の先輩とのノリを試してみる。


「ふむ、そうだな、私としたことが失言だった元気よ!よくやった!世界の民は其方を賞賛するであろう!」


「はは~!」


 元気はヴァイドにお辞儀をし二人で笑う。

 えぇ~何これ面白い!のってきてくれた上に言い回しが格好いいんだが。元気の琴線に凄く触れ元気はヴァイドと話すのが楽しみになる。


「二人ともそんな意地悪しないで下さい!」


 そういうとミリャナはプイッとそっぽを向

 く。


「フフッ本当にミリャナは可愛くなったな。私は嬉しいぞ」


「ヴァイド?成人の女性に対して可愛いは失礼ではありませんこと?」


「そうだな、確かにそうだなすまない美しくなって嬉しいぞミリャナ」


「えぇ、本当に美しくなられて、メルヒオーネも嬉しく思います」


 メルヒオーネもノってきた。


「ほ、本当にや、やめてください、は、恥ずかしいです!」


 ミリャナ顔が真っ赤になっている。


「お姉様は本当は可愛らしいお方なのですね!わたくし今までここにお一人で来られた時のお姿しか拝見したこと無かったので、新鮮で嬉しいですわ!とても好きになりましたわ!」


 そろそろ怒りそうなので辞めようかと思っていたが、メルディが追い打ちをかけた。


「ママは美人で可愛くて優しいですのよ、メルディ様」


「羨ましいですわ。お母様は勉強しなさいっていつも怒りますのよ?とても怖いのです」


 ヴェルニカに飛び火した。


「メルディ?そのお話しはいまする事かしら~?」


「は!申し訳ありません!こ、怖いですが、お母様がわたくしは大好きです。本当ですのよ!」


 ヴェルニカから凄い圧が放たれメルディが一生懸命弁明する。

 その姿を見てミリャナがフフッと笑ったのを皮切りにその場の空気が和み、皆が笑った。


 メルヒオーネが給仕を終えミリャナの斜め後ろに立つ。そしてこれからの予定の話しが始まる。


「これから、防壁の再生を行うのだが、次回からは元気は一人で来ても大丈夫だ」


「次回?」


「ん?防壁の再生が1日で終わるわけなかろう?」


「いや、あれくらいので良ければ1日で終わりますけど?」


「あ、あれくらいだと!?」


 ガタッとヴァイドが勢いよく立ち上がった。

 元気は何か言ったかと不安になる。


「す、すまん、取り乱してしまった……本当に出来るのか?」


「え、えぇ、問題無いかと思います」


「お、お前は本当に今すぐ常識を覚えないと大変なことになるぞ……」


 一人称がお前になってしまったが元気は気にしない。其方よりも親しい感じがするのでむしろウェルカムである。


「大変なことになるのは嫌なので、善処します」


「善処ではなく必ずどうにかしろ、まったく」


「比較対象がいないからわからないんですよね、自分がどれ位なんだろうとか」


「しかも無自覚か、お前が無欲な男で良かったとつくづく思う……防壁の再生が余裕なのであれば、お前一人で中央を壊滅出来るだろうな。神の力もあるのであれば、戦争も終わらせられるかもしれん。だが興味はないのであろう?」


「無いですね、戦争なんてしたい奴らで勝手にやってろって感じです」


「はぁ、まぁ良い。その話しはこの前終わったからな……自分の力を知りたいのであれば東のダンジョンに行ってみると良い。中層階から最下層まで未到達だ。人間には突破不可能と言われている。お前の力試しに良いだろう」


「ミリャナのおやすみの時にでも行ってみます。あ!ミリャナあの事話さなきゃ!」


「あ、そうだったわ。元ちゃんと叔父様が意地悪するからすっかり忘れてたわ!」


「い、意地悪だなんて、真実だよ?」


 そういうとミリャナに睨まれた。


「お前達はいちいちイチャつかないと駄目なのか?それで、話しとはなんだ?」


「い、イチャついてません!それでお話しとはですね……」


 ミリャナとポタンがヴァイドと話しを始める。ヴェルニカは興味深そうに聞いているがメルディは暇そうにしていた。


 メルディと目が合うとニコリと笑顔を見せてくれるので元気もニコリと笑顔を返す。

 フフフ可愛い妹だ、顔を手で隠して出してニコリ。ナプキンで隠して出してニコリ。服に隠して出してニコリ。と二人でニコリの応酬を繰り返していると、ヴァイドから声がかかる。


「元気、お前聞いているのか?」


 メルディとメルヒオーネ以外の皆に呆れた顔で見られていた。


「だって、ポタンの方が色々とわかってるし、俺が入ると邪魔かな~って。メルディも暇そうですし」


「ふむ、ポタンの方が詳しいか……それもそうだな。元気はメルディと遊んでいて良いぞ」


 メルディの顔がぱぁと明るくなる。可愛いじゃぁないかと思う反面、ポタンの方がしっかりしているって発言に、速攻納得したヴァイドに元気は少し不満を感じる。


 そう思っていると、メルディがてててててっと駆け寄って来る。


「行きましょう!お兄様!」


 メルディがニッコリニコニコだ。ヴァイドに不満を感じていたが、そんなのは直ぐ消えてしまい元気はヴァイドに感謝する。


「メルヒオーネついて行ってやってくれ、護衛は元気で十分だろうが元気が何するかわからん」


「かしこまりました。旦那様」


 何もしないのに……と思ったが屋根をぶち壊した前科が元気にはあったので何も言わないですおく。


「宜しくお願いします。坊ちゃま、姫様」


「こちらこそ、メルヒオーネさん」


「さぁ、行きましょう!お兄様!」


 あれ?っとメルディに何か小さな違和感を感じたが元気には何かはわからなかった。


 食堂を出てメルディに手を引かれながら歩く。装飾が豪華な学校の廊下を歩いている様だ。教室の代わりに部屋が幾つもある。


「メルディ?何所に行くの?」


「わたくしのお部屋です」


「え?お部屋?」


 童女のお部屋になど招かれた事が無い元気は胸にときめきを感じる。


 しかし流石に良いのだろうか?と元気はメルヒオーネを見る。だがメルヒオーネはニコリと笑顔を返すのみだった。


 部屋に到着するとメルディに感じた違和感がひょっこりと顔を出した。


「メルヒオーネはお茶を準備して持ってきたら、外にいなさいハーフエルフがお部屋に入ったらお部屋が汚れるもの、これは命令よ。わかったかしら?」


「かしこまりました姫様、坊ちゃま、姫様を宜しくお願い致します」


 そうお辞儀をするとメルヒオーネはお茶の準備をしに行った。


 部屋に入ると豪華な天蓋ベッドに、キラキラなドレッサー。絵に描いた様なお貴族様の部屋が元気の目の前に広がる。


「何して遊びましょうか!お兄様!」


 メルディの目はキラキラしているが元気の胸の内はモヤモヤしていた。


「じゃ、お話ししようか」


 そういってベッドに腰掛けメルディを膝の上に載せる。着ているひらひらのいっぱいついたドレスのせいで、座らせ心地が何かふわふわしている。


「メルディはメルヒオーネさんが嫌いなのかい?」


「え?どうして?メルヒオーネは好きですわよ?」


「じゃぁ、どうしてあんな言い方をするの?その、ハーフエルフがどうとか汚らわしいとか?」


 頭を撫で撫でしながら元気が優しく問いかけると、メルディは嬉しそうに答える。


「学校の送り迎えにはいつもメルヒオーネが来るのです。けれど、お友達の皆がハーフエルフは汚らわしいと言うので、そうなのかなぁ?と思いまして。それに小さい頃、寝る前にしてくれたメルヒオーネのお話しが好きで、おねだりしていたのですけれど。それをお友達に話したら、お部屋にハーフエルフを入れるとお部屋が汚れるから駄目とか、ハーフエルフには命令するのが普通だ。と言われましたの。私は領主の娘ですし、変な子にはなれないので、皆の普通を目指しているのです」


 胸くそが悪い話しだと思ったがメルディが素直な良い子で良かったと元気は安心した。


「メルディはポタンの事好きかい?」


「大好きですわ!くれますの!?」


「いや、あげないよ?」


「そうですか……残念です」


 何故貰えると思ったのかは謎だが、シュンとしている姿を見れば好きである事はわかる。


「もしさ、メルディが男の子だっとするじゃん?そしたらポタンと結婚したいと思ったりしない?」


「ぽ、ポタンと結婚!!!わ、わたくし!男の子になりますわ!!!」


「いや、なれないけどね。もしもだよもしも」


「なれないのですか、お兄様はメルディをガッカリさせるのがお上手ですのね」


 またシュンとしてしまった。


 ヴァイドは俺の常識よりメルディの常識をまずしっかりさせるべきだと思う……。


 ここでメルディの耳や足をペロペロしても挨拶だよ?といえば信じてしまいそうだ。

 ミリャナの耳をペロリとしたときは激怒され、両親の教育にいたく関心したものだ。

 このままではメルディの身が危険なのでは?と元気は思った。


「もしポタンとメルディが結婚をして、子供が出来たら可愛いと思わない?」


「そ、そんな事が!どうしましょう!幸せで死んでしまうかも知れませんわ!どうしましょう?お兄様!?」


 メルディが妄想で感極まり、ぷるぷるしている。いちいち落とすのも可哀想なので元気は話しを続けた。


「その子がさ……」


「ポメルですわ」


「何が?」


「子供の名前に決まっているではありませんか」


「あぁ、そう。そのポメルがさ、汚いと言われていたらどうかな?」


「はぁ?ぶち殺しますわよ!そのお方は何所の何方ですの!?騎士団を集結させて今から乗り込みますわ!お兄様!お教え下さいませ!」


「落ち着こうかメルディ。想像のお話しだから」


「そうでした。はぁ、私、男の子に産まれたかったですわ」


 昭和の名曲のワンフレーズみたいなことを言い出すメルディ。


「でも、ポメルはハーフエルフだよ?

 メルディはハーフエルフが汚いと言っているねけど、ポメルも汚いのかな?」


「そ、それは!その……」


 メルディは地頭が良いのだろう。

 元気が伝えたい事がわかって来たようだ。


「今のメルディの態度を見たら、メルヒオーネさんのお母さんは、何て思うんだろうね?」


「ど、どうしましょう!お兄様!わたくし!メルヒオーネのお母様にぶっ殺されますわ!!!」


 メルディが泣きそうになる。


「だ、大丈夫だよ!普通、ぶっ殺すなんて言わないし、しないから。っていうか何所で覚えたの?それ?」


「学校のお友達に教えて貰いましたの」


 涙を堪えながら答えてくれる。

 貴族の学校ってのはろくな奴が通ってないのかもしれない。と元気は思ってしまう。

 しかし、泣いてる美童女ってのも中々レアだな。カメラ持ってくれば良かった。と元気は思いながら話しを再開する。


「だからさ、学校のお友達とか普通とかじゃなくて、メルディとしてメルヒオーネさんと関わるのが良いんじゃないかなと思うんだ」


「わたくしとして……ですか?」


「そう、大体、学校の友達なんて卒業したら連絡も寄こさない嘘つきばかりさ!そんな奴らの普通なんて信じなくていいんだよ?」


 元気の独断と偏見が凄かった。


「確かに、幼稚舎のお友達と会うことはなくなりました」


 メルディは素直だった。


「な、そうだろ?でも、メルヒオーネさんはずっと一緒にいるんだよ?どっちが大切か頭の良いメルディにはわかるんじゃないか?」


「メルヒオーネの方が大事ですわ!どうしましょう!?わたくし今までずっとメルヒオーネに酷いことをしてましたわ!!!」


「大丈夫だよ、メルヒオーネさんはメルディが大好きだからね。謝ったら許してくれるさ」


「ほ、本当?」


「ほ、本当さ!!!」


 瞳をうるうるさせながら見上げてくるメルディにキュンキュンしながら元気は確証がない返事を良い笑顔で行う。


 詐欺師のような事を言いながらメルディの丸め込みが終わると、コンコンっとノックがなった。


「ほら、メルディ、謝っておいで」


 メルディはコクリと頷くと、膝からぴょいっと飛び降りてドアを開けに行く。お膝が寂しいな~っと思いながら元気は成り行きを見守る。扉をメルディが開けたのに少し驚いた様子だったメルヒオーネに、メルディがモジモジしながら何かを伝えた瞬間。

 メルヒオーネが膝から崩れ落ちて泣き始めた。


 メルディが元気とメルヒオーネを交互に見て困っている。ほったらかしも可哀想なので、元気はメルディを助けに行く。

 その後メルディの部屋で3人。ヴァイドからのお呼びがかかるまでお話しをして過ごしたのだった。

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