姉の為に

 ミリャナに元気が弟認定された次の日。森の裏の草原にて、エルフ達のと遊びながら、憂さ晴らしをしていた。


「うぇ~い!ドロップターン!」


 元気は空飛ぶボードで、宙返りターンをギュワン!とキメる。


「おぉ!元気は上手だな!ミールは下手くそなのにな!」


 フェルミナが、オニギリを食べながらミールを馬鹿にする。


「うるせぇ。乳牛エルフ。俺は普通の人間なの!お前みたいに、遊んでばっかりいるんじゃないの!オニギリを黙って食ってろ!」


「ミール貴様……。後で覚えてろよ!ひねり潰してやる……がその前にオニギリを食うがな……。私はお前より。オニギリを優先するのだ!悔しいだろ?ハハハハハ!」


 フェルミナが、ミールに向かってオニギリをふりふりする。そして食べる。


「あっそ。じゃあ僕は逃げるとするよ。昼から用事があるし」


「む!用事とは、何だ!また、孤児院に行くのか?おい!私と遊ぶ約束だろ!?」


 口いっぱいに頬張った、米粒を飛ばしながら。フェルミナがミールに怒鳴る。


「毎日。遊んでるだろまったく……。じゃ、僕は行くから。元気はまだいるんだろ?」


「あぁ~。もう少しいる~」


「じゃ。フェルミナを見張っててくれ~。じゃあな~!」


 ミールはそう言うと、空飛ぶボードで草原を囲む山を越えて、町の方へと飛び去って行った。


「ミールのヤツめ!まったく!遊ぶ約束したのに、やぶりおって!」


 フェルミナがぷりぷりしながら、オニギリを食べる。


「約束って、約1000年前のだろ?ミールって何人もいたのか?……よっと。いただきます」


 元気もフェルミナの横に座って、オニギリを食べ始める。草原に集まった他のエルフ達のもお昼ご飯中だ。


「いや、ミールは1人だ。生まれ変わるんだ。会える時もあるし。会えない時もある。生まれ変わる場所は、世界中バラバラだからな……。死んだら探すのに苦労するぞ」


 何気なしに言うが……フェルミナはそうやって1000年もの間、生きて来たのだ。


「大切な約束なんだな……」


「あぁ!友達との約束は守らんとな!なのにアイツはまったく!本当にまったくだ!」


「まぁ。今回は会えて良かったな。フェルミナ」


「うん!よかった!フフフ……。死ぬまでつきまとってやる!覚悟しろ!ミールめ!私から逃げた罰だ!」


 オニギリを食べながら、ニヤリとするフェルミナ。どうやら本気らしい。


 元気は、心の中でミールに合掌しておいた。


 午後からは、元気VSエルフ達のチャンバラゴッコである。


 エルフ達が正義の味方設定で、元気が魔王だ。


「グハハハハ!弱き者どもよ!来るがいい!相手になってやろう!」


「行くぞ魔王!」


 少年少女が多いエルフ達には、遊びでも設定が大事なのだ。


「だっははははは!弱い!弱すぎるぞ!そんな事では、フェルミナみたいにお馬鹿になってしまうぞ~!だっははははは!」


「クッソ~!魔王め卑劣な事を言いやがって……」


 ……この様に。弟認定された事に対しての、憤りを解消しながら遊んでいる時に。事件は起きた。


「あ、あれは……。ドラゴンか?」


 草原の上空に、突如として巨大な黒いドラゴンが出現し、平原に降り立たった。


 エルフ達の目がキラキラしている。


「カッコイイ!」「すげ~!」「強そ~」「ドラゴン退治だ!」「やるぞ~」「私の本気を見せてあげるわ!」「早く行こ!」


「ぐおぉぉぉぉおぉぉぉおおお!!!」


 フェルミナを視認するとドラゴンが咆哮する。


「げ、黒竜め……。とうとう居場所がバレたか……」


「こ、黒竜ってあの、インチキ伝説の?」


「インチキって、まぁ。そうなんだが……。まさか、ここに来るとは……」


「あれ、相当怒ってないか?お前……ちょっとケンカ売っただけなんだろ?」


「…………。その……。実は……お腹が減ってな……ケンカ売ったついでに、タマゴを食べたのだ。美味かったぞ?」


「馬鹿!ついででドラゴンのタマゴを食べるヤツがあるか!」


「ハハハハハ!腹が減っていたのだ!そして。うむ。あれだな!その……これは、ピンチだな!アレには……勝てる気がせん!」


 大きな胸を、ぶるるんと揺らし。胸を反らすフェルミナ。


「行くぜ!野郎共!」


「お~!」


「あ、お前ら!」


 エルフ達がドラゴンに向かって駆け出す。


 しかし。アリと象程の体格差だ。攻撃が効くはずも無かった。


「危ない!!」


 元気が叫ぶが、時遅し。


「うわぁああああ!!!」


 エルフ達に気付いたドラゴンが一回転。尻尾でエルフ達をなぎ払う。

 すると尻尾に当たったエルフ達は即死……次々に魔石に変わって行く。

 当たらなかったエルフ達も、風圧により何処かにふき飛んで行った。


「お、お前ら!ゆ!許さんぞ!」


 フェルミナが仲間の死に激怒し、ドラゴンに突っ込む。


「フェルミナ!待て!作戦を立てないと!あぁ!もう!くそ!何でコイツらは突っ込むんだ!」


 止めようとしたが……。間に合わず。


 ドラゴンの硬い表皮に攻撃が弾かれたフェルミナが、ドラゴンの追撃により吹き飛ばされ、ズドン!っと元気の元まで戻って来た。


「ぐあっ……」


 フェルミナが、ゴボっと血を吐く。


「フェルミナ!?大丈夫か!?今、ヒールを……」


 フェルミナの口から鼻から。ドロドロと溢れる血流に、元気は焦る。


「も、もう……。間に合わん……。すまんな元気……。今まで、たのし……かったぞ……。ミールに……。よろしく……。それと……。ミリャナとポタンにも……。そう言えば……。私は、オニギリよりも……本当は……サンドイッチが食べたいのだが……。どうにかならないだろうか?」


「何が間に合わないんだよ!?喋りまくってんじゃねぇか!馬鹿!ヒール!」


「フフフ……。ではな、達者で……な」


 フェルミナがフッ元気に微笑みかける。


「フェルミナ!?」


 フェルミナがフッと魔石に変わってしまった。


「う、嘘だろ!フェ……フェルミナ……」


 元気が。フェルミナの魔石を抱く。そして……。フェルミナとの思い出が、走馬燈の様に脳裏を駆けめぐる。


「……いいヤツだった!勝手に来て、居着いて!毎日。朝昼晩飯……おやつの催促!リクエストまで……。その挙げ句……。俺に羽を押し付けて。エルフ達の面倒を押し付けて。ミールと夜中に騒いで、安眠妨害!家のドアを壊したり。森を陥没させたり。パンツを無くしたり……。美人で、おっぱいがデカイって事以外は、元気が取り柄って事位しか無い。……面倒なヤツだったけど……。優しくていいヤツだったんだ!」


 ろくな思い出が無かった。


「あのドラゴン!!!許さん!!!」


 元気が怒り。神モードへと変身する。するとそれに気付いたドラゴンが、口から光線を元気に向けて放った。


「そんなもの!効くか!」


 元気が。それを拳で跳ね返す。ドゴーン!と。爆音と共にドラゴンにヒット。


「ぐおぉぉぉぉおぉぉぉおおおおおお!!!」


 ドラゴンの黒い鱗が周辺に飛び散った。


「覚悟しろ!ドラゴン!」


 元気が、魔法剣を出し。それに魔力を溜める。すると居合いの構えをする元気の周りの地面が、ゴゴゴゴゴゴゴゴ……と振動し……ゴボン!っと陥没した。


 ドラゴンがそれに気付き。光線を放つ……。けたたましい爆音と衝撃が走り。元気に光線が直撃する。が……しかし。「効かないねぇ……」……元気の周りの地面がえぐれただけで、元気は無傷だった。


「ぐおぉぉぉぉおぉぉぉおおおおおお!!!」


 それを確認したドラゴンが、上空に飛び上がり。元気を見据え、エネルギーを溜め始める……どうやら太陽光のエネルギーを溜めている様だ。


 ドラゴンの体が、太陽の如く輝き始めた。


「フェルミナ……。お前の事……。忘れないから……」


 元気の周りでバチバチっと魔力が爆ぜ、溢れ出した魔力が七色に輝きだす。


 ドラゴンの輝きが止んだ次の瞬間。翼を広げたドラゴンから、巨大な太陽光線が放たれた。


黒龍邪滅十字咆ドラゴ・クロス』ーー『七色極魔光剣オーロラ・ソード


 同時に、元気が一閃!剣技を放った瞬間。空中で、ズドン!とぶつかり。生まれた真空波によって、辺り一帯の雲が一斉に散った。


 ゴゴゴゴゴ!っと光線の衝突が続く……。


「くそ!さすがは伝説のドラゴン……。このままじゃ。押し切れない……。どうなるか解んないけど……。フルパワーだ!」


 元気は、残りの魔力も神力も全て剣に込める……。魔力持ちの人間の魔力枯渇。それは死……。しかし、ここで負ければ同じ事。島ごと消滅する。


「ミリャナのいるこの島は!ミリャナは。俺が命に代えても!守るんだぁぁぁあああああああああああ!!!」


 決死の一撃……。ゴォン…………と一瞬にして。元気の攻撃は、ドラゴンと共に宙へと消え去った。


「はぁ……。はぁ……。あ、これ……。ヤバいかも……ごめん。ミリャ……」


 魔力が尽きた元気は……意識を失った。


『まだ……駄目だよ……』


「え?」


 聞き覚えの無い声で、元気の目が覚める。


「お!元気!起きたか!」


 フェルミナが元気に膝枕している。


「お前!何で……!!!え!?何でお前らも?……そうか……俺は……死んだのか……」


 起き上がり、辺りを見渡すと魔石になったはずのエルフ達が、心配そうに元気を見ていた。


「何を言っているのだ。お前も私達も、生きているぞ?私達エルフは、森の泉でドライアドに触れれば、魔石になっても復活出来るのだぞ?前に教えただろ?馬鹿だな~」


「……聞いてない。言って無い事を、言った風にして、人を馬鹿にするんじゃない……馬鹿。……心配しただろ……馬鹿」


「言って無かったか?ハハハ……。馬鹿と言われると腹が立つが……。元気の言う馬鹿は何か好きだな……フフフ……」


 フェルミナが嬉しそうに微笑む。


「皆。無事で……よかった……。魔力が足りたんだな……。よかった」


 元気は安心したので、再び膝枕を堪能しようと横になった。


「おい!元気!そろそろ夕飯の時間だぞ!今日は腹が減ったからステーキがいいな~。あぁ!でもカツ丼がいいかな~……ぎゃわ!太ももを噛むな!変態め!そういう事をすると子供が!……。あの……。元気がどうしてもと言うなら……。その……私は……」


 急にモジモジし出すフェルミナ。思考の切り替えだけは早かった。


「……お断りだ。お前だけで手いっぱいだ」


「なに!?……しかし……。そうか……。私の面倒は見てくれるのだな!さすがだ!元気!ハハハハハ!」


「はぁ。ポジティブなヤツ……。えい」


「ぎゃあ!だから!それ、やめろ!痛いし、ゾワッとするのだ!」


 嫌がりながらも、少し嬉しそうなフェルミナだった。


 こうして……。いきなりやって来た黒竜を倒した元気は、アルカンハイを人知れず救ったのだった。

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