弟
領主の屋敷へミリャナを迎えに行った後、元気とミールはミリャナにビックリするくらい怒られた。
「お城の屋根を壊して、奥様を気絶させてメルディ様をビックリさせて一体何を考えているの!貴方たちは!挙げ句の果てにおじ様に怪我をさせるなんて!信じられないわ!」
「い、いやだってミールが、ミリャナが攫われたとか言いながら帰って来てさ!」
「何だよ、僕のせいにするなよ!屋根を壊したのは元気だろ?僕は姉さんの居場所を教えただけだ!」
「大体何だよあれ!江波とかどうやって作ったんだよ!?」
「エルフ達に手伝って貰ったんだ!良い出来だろ?僕じゃ動かすの10分が限界だけどね」
「なるほどなぁ、俺も何かロボット作ろうかな?」
「お!良いね、森を抜けた先に平原があるから作ったらそこで遊ぼうぜ!」
「お!良いな!リアルスパロボ!面白そうだな!」
「貴方たちは!何の話しをしているの!?反省なさい!!!」
「ご、御免なさい!」
元気とミールはミリャナに全力で謝った。
「とりあえず、後日謝罪に行くから二人ともそのつもりでいてちょうだいね!」
「はい!」
元気とミールは背筋を伸ばししっかりと返事をする。
ミリャナは怒り疲れたようで、椅子に座り大きな溜息をつくと顔を覆い泣き出してしまった。
「ミリャ!本当にごめん!ちゃんと謝りに行くから!泣かないで!」
「おい!元気!姉さんを泣かすなよ!」
「お前!?何俺のせいだけにしようとしてるんだよ!」
「僕、迎えに行っただけだし屋根を壊したのは元気だろ?」
「ぐぬぬ」
元気は言い返したかったがその通りだったので何も言えなかった。
「御免なさいね、溜息と一緒に気が抜けちゃった……ミールお帰りなさい、帰って来てくれて本当に嬉しいわ……本当に……」
そういうとミリャナはまた泣き出してしまった。
「おい、お前のせいじゃないかミール」
「ね、姉さん、泣かないでよ……やっと話しが出来るんだからさ」
ミールがミリャナに駆け寄り慰め始める。
「俺はご飯の準備をするから、二人で話しでもしてなよ……おいで~ポタンママの為にご飯を一緒に用意しようね~」
元気はそういうとポタンをミリャナから受け取り食事の準備を始める……ポタンはぐずる事無く元気に抱っこされている。
まるで空気をよんだようだった。
「ポタンは偉いね~」
「あい!」
時々だがポタンは此方の言葉を理解している風に思える……元気はポタンは天才かも知れないとわりかし本気で思い始めていた。
そろそろポタン用の教育教材でも出すかな?と考えながら元気はハンバーグを魔力で出して温める。ミリャナの大好物だ。
最近はダイエットしているらしく食べていなかったが、今日はミリャナの誕生日だ。
今日くらいは良いだろうと元気は思った。
元気はミリャナとミールに気を遣い少し長めに食事の準備を行い出来た料理をテーブルに並べる。
「実は僕死んじゃったんだけどさ元気に体を作って貰ってさ!こうやって姉さんと話しを出来るようになったんだ」
「ミールちょっと待って、何を言っているのか意味がまったく解らないわ」
「後で元気に聞けばいいさ」
テーブルに料理を運んでいるとミールがミリャナに余計な事を言っている。
ミリャナがこっちを複雑な顔で見つめて来るが元気は笑顔を返し食事の準備を続ける。
ミリャナは何かを言いかけたが元気の仕事の邪魔をしないことを選んだようだ。
さてと、これは絶対に必要だな!そう思い元気はホール型のケーキを出しチョコプレートにミリャナお誕生日おめでとうと名前のわからない白いチョコが出るチューブで書く、名前がわからなくてもイメージ出来れば出せるようだ。
テーブルの上にはデミグラスハンバーグ、コンソメスープ、タンドリーチキンにサラダ、フワフワパン、未成年ばかりなので飲み物はいつも通り水だ。
食後にジュースを出すことにする。
「さて、準備完了!食べようか!」
「今日は豪華だな!?僕の復帰祝かい?」
「何言ってんだよお前、ミリャナの誕生日なんだろ?まさか覚えて無いのか?」
「じょ、ジョーダンだよ!も、もちろん覚えてたさ!忘れるわけ無いだろ!」
ミールほど解りやすい奴も居ないだろうなと元気は思った。
「良いのよ元ちゃん、ミールが帰ってきて最高の誕生になったわ」
「ね、姉さん!」
ミールが喜んでいるのが鼻につくが元気は今日は良いだろうと思い席につく、そして頂ますをしようとした時、ドンと家に何かがぶつかった音がした。
「きゃっ!なに?」
ミリャナが驚いていると、フェルミナがドアから入ってくる。
「おぉ、今日は晩ご飯が豪勢だな!なんだ私の復帰祝いかなんかか?」
満面に笑みでミールと同じようなことを言いながらミリャナの隣に座り料理に目を輝かせている。
「喜んでいるところ、悪いけど今日はミリャナの誕生日なんだフェルミナの復帰祝じゃない、大体お前ら復帰祝って何だよ?祝われる前に俺に感謝するべきだろ」
「うむ、そうだな嬉しすぎて浮かれすぎていた様だ!元気!私はお前にこの身を捧げても良い程に感謝しているぞ!その、あんな事をした仲になったんだしな……」
ミリャナの横でフェルミナがモジモジしながらとんでもない事を言い始める。
「ばっ!お前は何言ってんだよ!あれは体を作るために仕方なくだな!」
「フフフ冗談だ、しかし何かあったら言ってくれ!全力で我らエルフはお前の力になるぞ!」
笑えない冗談だったが、感謝の気持ちは有り難く頂いておこうと思う。
「まったく、ミリャに誤解されたらどうするんだよ……まぁ、何かあったら頼むよ」
「おう!任せろ!それと、ミリャナ誕生日おめでとう!」
「あ、ありがとう御座います……それで貴女はどちら様でしょうか?」
「あぁ、そうか!ミリャナに姿を見せるのは始めてだったな!私はエルフのフェルミナだ!運命の女神をやっていたが今は無職だ!改めてよろしく!」
ポカンとしているミリャナとフェルミナは握手を交わす。
「フェルミナの事なんてどうでも良いからさ早く飯にしようぜ!お腹すいたよ!ねぇ!姉さん!」
「ミール貴様は後で覚えていろよ、しかし今日は魔力をいっぱい使ったのでお腹がすいたな!」
「まったく、今日の主役はミリャナなんだから喧嘩せずに今日くらいは大人しくしてろよな?」
二人を睨んで忠告する。
実体があるときに二人に喧嘩をされたら家が潰れかねない。
「わ、解ったよ」
「う、うむ、すまない」
「あい!」
「ポタンは良いんだよ~いつもお利口さんなんだから~、じゃミリャナ!挨拶をよろしく」
「あ、挨拶?」
ポカンとしていたミリャナが驚く今日のミリャナは表情豊かだ。
「あ、ちょっと待て、ミリャナこっちを向け」
そういうとミリャナにフェルミナが癒やしの魔法を掛ける。
すると見る見るうちに泣いて赤くなっていたミリャナの目元が元に戻っていく。
「腫れたままではミリャナの美人な顔が台無しだからな!」
「あ、ありがとう御座います」
「うむ、気にするな!裏庭に間借りしている礼だ!では、ミリャナ!挨拶を頼むお腹がすいた!」
「挨拶と言っても何を言えば良いのかしら?」
「笑えば良いと思うよ」
「え?笑うの?」
「ちょっとミール黙ってろ、何かこれからしたいこととか?目標とか?」
「目標?目標……」
「ご、ごめん無いなら良いんだ、俺が前いたところではやってたからさ、それじゃ!ご飯を食べようか!」
施設での習慣だったので自然と言ってしまったが普通はしないみたいだった。
「まって!あるわ、目標……私は今幸せよ、元ちゃんがいて、ミールが帰ってくれて来て、ポタンが居て、フェルミナさん?とも出会えた……毎日美味しいご飯も温かいお風呂もある本当に幸せなの、だからこの幸せを私に何が出来るかは解らないけど町の子供達にも分けてあげたいと思う……ます」
言っていて恥ずかしくなったのだろう、ミリャナが赤面している。
「素晴らしいよ、姉さん!流石だ!姉さん!」
「うむ、珍しくミールと同意見だ!教会で見ていたが、あれだけ献身的だったのだから子供達はこれからもミリャナがいれば幸せだろう、素晴らしい目標だ!」
「ポタン~ママは優しいね~、まるでどっかの誰かと違って本当の女神様のようだ」
「あい!」
「ポタンも元気も言ってくれるな、まぁ、もう女神ではないのだ!好きに言うが良い」
「フフフ、フェルミナさんと元ちゃんは仲良しなのね、それじゃご飯を食べましょう、いただきます!」
「いただきます!」
「まい!」
賑やかなミリャナのお誕生日会が始まった。
ミールの体の事や裏の喋る木の事、森のエルフの事やフェルミナの事をミリャナに聞かれ説明しながらの食事だった。
ミリャナは驚いていたが途中から本の物語みたいだと楽しそうに聞いてくれた。
ミールの事が死んだことは残念だけど、ここに居ることに感謝すると気持ちの整理をしたようだった。
屋根裏や地下室の改造、孤児院への神さま活動の事は既に全てバレていた。
おっとりしている様でミリャナは感が鋭いようだ。アレな本は金庫か何かに隠した方が良いかもしれないと元気は思った。
食事の後はケーキだ蝋。燭の火を吹き消して貰い切り分けてみんなで食べる。
「これは、凄く美味しいぞ!毎日私のご飯はこれが良い!」
「別に良いけど、食べ過ぎると凄く太るぞ?」
「む、そうなのか?動きが鈍るのは困るな」
見栄えじゃなく機動面で困ると言っている隣でミリャナピクリと反応する。
少し何か思案している様だったが、何かを決心した様子でまた食べ始めた。
食事が終わるとミールは屋根裏へフェルミナは裏小屋へ戻って行った。
ミリャナとポタンはお風呂タイムだ。
「元ちゃん今日はありがとうね、凄く嬉しかったわ」
「喜んで貰えて良かった」
そう言葉を交わしたあとミリャナはお風呂へ行き、元気は片付けを始める。
異世界でミリャナにであってから元気の日常は充実している元気は幸せだと素直に思うようになっていた。
洗い物が終わり元気は部屋に戻る。
「領主の城の屋根どうしよう、弁償とか言われるかな?めっちゃめちゃミリャナ怒ってたし、シカトするわけにもいかないよなぁ」
魔力で大金を出しても良いが何か頑張って働いているミリャナに申し訳なくて出来ない。
どうしようかと思いながらウトウトしていた時だった、ベッドにモゾモゾっと誰かが潜り込んできた。
確認してみるとミリャナとポタンだった。
「ど、どうしたの?」
久しぶりの事にドギマギしてしまう、ミリャナからお風呂上がりの良い匂いがするから尚更だ。
十五歳と聞いてからベッドでの撫で撫ではなくなっていたのだ。
「何だかドキドキして眠れなくて」
「そ、そう」
ドキドキのお裾分けだろうか?俺も眠れなくなってしまうじゃないか!
だが嫌いじゃない……以外とミリャナは意地悪さんなのかも知れないと元気は思った。
「ミールの事本当にありがとうね……他にも孤児院の事とか……食事とかお風呂とか私、元ちゃんに良くして貰ってるばかりで……どう恩返ししたら良いか解らないわ」
「気にしないで良いよ、俺はミリャナに合ってから幸せってのは何かを感じる様になったし、毎日元気なミリャナを見ると安心するんだ、爪切りだって、耳掃除だって、膝枕だってしてくれるし恩返しならして貰ってるよ」
「そんなの、ミールにだってしていたわ……ねぇ、元ちゃんは何で私に優しくするの?」
元気の心臓がドキリとと跳ねる。
こ、これは、もしかしていける空気では無いだろうか?
生まれてこの方彼女無しの喪男!
だが、恋愛小説、ギャルゲー、漫画は読み込んだ!これはいけるんでは無いだろうか?
そう思いゆっくりとミリャナの方へ向く、ゆっくりとであるここで焦って童貞臭を匂わせてはいけない。
「へっ」
向き直るとミリャナに抱かれたポタンと目が合った……というか鼻で笑われた気がした。
舞い上がった気持ちが恥ずかしさに変わる。
「そ、そりゃ、ミリャナは大事な命の恩人だし今は俺は家族だと思ってるし、それに、す、好きだ……し……」
言った!言ったぞ!言ってしまった!
ドキドキが止まらない!
心臓が飛び出しそうだ!
ポタンが下卑た顔でニヤニヤしているのが気になるが、ミリャナの反応の方が気になるところだった。
ってかポタンは既に言語を理解しているだろうとほぼ確信した。
ニヤニヤの仕方が、えぇ~告白しちゃうの?これからどうなるの~?という物だったからだ。
「私も好きよ元ちゃんの事、家族だとも思ってる」
元気は叫び出しそうになる。
これはもう結婚するしか無いだろうか!
そうだ、結婚しよう!
「弟のように大切よ、元ちゃんがいなくなったらミールと同じように悲しくなると思う」
あぁね、そういう事……。
ポタンが笑うのをこらえている。
「まぁ、大切な家族だろ?助け合うのは当たり前じゃないか、優しくするのも当たり前さ!」
ここで好きの種類が違うと説明して。
断られたら泣いてしまいそうなので、ミリャナ家族案にのることにする。
するとポタンが溜息をついたのが聞こえた。
「でも、ミールは迷惑しかかけて来なかったわよ?」
「ミールは別格だよ、あれほどお馬鹿な弟は居ないと思うよ?」
「まぁ、元ちゃんたら、アレでも良いところあるのよ?」
「どんなところ?」
「ほら、あれよ、その……優しい所?」
褒めるところが無い時の答えだった。
「まぁ、おっちょこちょいな所と、早とちりな所と甘えん坊な所を除けば良い奴だ」
言っていて可笑しくなり二人で笑ってしまった。
「話してたら気分が落ち着いたわ、部屋に戻るね」
ベッドからミリャナが出て行き少しガッカリする。
「今日は本当に嬉しかったわ、おやすみ」
そういうと元気のおでこにチュッとミリャナはキスをした。
「お、おやすみ!」
部屋から出て行くミリャナへ挨拶すると元気はベッドに起き上がる。
「ミリャナは俺の心を掻き乱す天才だ……完全に目が覚めてしまったじゃないか」
弟……弟かぁ……赤の他人よりか良いけど、なんかどっかで家族認定されたら恋人になるのは難しいと聞いたきがする……弟かぁ……。
興奮して眠れなくなった元気は、屋根裏に突撃すると、体を得て眠っているミールを叩き起こし遊ぶことにした。
弟認定が判明した腹いせ、もといお祝いにミールとフェルミナには夜中騒いで寝不足にされる気分を暫く味合わせてやろうと思った。
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