スローライフ

 元気がミリャナの家に住み始めてから1週間が過ぎた。


ミリャナの家は森に面した、木造の庭付き一軒家だ。町からは離れているが、そのおかげで、朝は空気が美味しく静かだった。


 「よし!真っ白!いいぞ!日に日に上達してる!」


 ミリャナのカボチャパンツをパーンと広げると、元気はくんくんして匂いを確かめる。


 「う~ん。もうちょっとかな?」


 今度はスーンっと、おおきく息を吸い込む。


 「なんか、良い匂いがする気がするけど……。香りが薄くて……わかんないや……洗剤が欲しいな……」


 この世界には、三角パンツはまだ無いようで、ミリャナのパンツは、全部ダボッとしたパンツだった。


 洗濯が終わると今度は、裏の森へ行き水汲み。それが終わると洗濯物がかわくまで、昼寝の時間だ。


 「今日は……。どれにしようかな?これかな?うん。このワンピースがいいな」


 お昼寝の時はミリャナの洋服に包まれて寝るのが、最近のルーティン。しかし、タンスの中に色違いのワンピースしか無いのが、元気は気になった。


 「ミリャナさんは、お洒落に興味がないのかな?あんなに美人で可愛いのに……。その内。俺がいっぱい、色んな服を買ってあげたいなぁ……。フフフ……」


 こんな感じで、ミリャナの事を思いながらの昼寝。元気の至福の時間だ。


 しかし、良く眠れ過ぎてしまうのが難点だった。


 「げ、元ちゃん……。何してるの……?」


 帰宅したミリャナが、自分の洋服に包まって寝ている元気の姿に驚く。


 「あ、お帰りミリャナさん……。もう、こんな時間か……寝過ごしちゃった」


 「それ……。私の服……」


 「あぁ、これ……。なんかさ、家にひとりでいると、さみしいからさ……。ミリャナさんを思いながら寝ようと思って……」


 ミリャナが、元気の発言に困惑してしまう。が……。


 「私を?ん~。……さみしいなら……仕方ないわね……。でも、恥ずかしいから、綺麗なお洋服だけにしてね?」


 「うん!わかった!」


 何故だか受け入れるミリャナだった。

 

 「はい、お待たせ!ご飯出来たよ~」


 「ありがとう元ちゃん。じゃあ……」 


 「「いただきます」」


 食事は美味しいとは言えないが、二人で食べる食事は楽しかった。


 「あの……。ミリャナさん……聞きたいことがあって。その、言いたくなかったら良いんだけど……」


 「そうね~。そのさんづけをやめたら、何でも教えてあげるわ」


 「え、でも……」


 「家族からはミリャって言われてたから、ミリャでいいわよ。フフフ……」


 「じゃあ。ミリャ……。その家族の事なんだけど……」

 

 「やっぱり気になっちゃうわよね……。約束だし、教えちゃおう!フフフ……。まぁ……別に秘密でも、なんでもないんだけどね……」


 「ありがとう……」


 「えっとね。私の家族は魔力持ちだったの。だから、中央国へと徴兵されて……。両親は死んじゃった……。ついていった弟もずっと音信不通なの……。だから、元ちゃんが来てくれて嬉しいわ!……本当に嬉しい」


 暗い空気にならない様に、元気を気遣いニコリとするミリャナ。


 「そっか……役に立ててるなら良かった……」


 ミリャナの気遣いに、心が痛む元気。


 「でもね!弟は生きているわ……。通知が来てないもの……。だから、弟がいつ帰って来ても良いように、この家を守っているの……私は、魔力が少ないから……おいてかれちゃったんだ……あ、ご、ごめんね……。勝手に涙が……」


 笑顔のまま涙を拭うミリャナに元気は、いても立ってもいられなくなる。


 「ご、ごめん!ミリャ……俺が聞いたから……そ、そうだ!これ見て!ほら!」


 元気はひょっとこ踊りを踊った。


 「ぷっ……。何それ?アハハハ……。おかしい動きしないで……フフフ……フフ……。あ~、面白かった!……ありがとう……元ちゃん」


 「どういたしまして……じゃぁ!次は俺の話をするよ……」


 元気はミリャナに自分の生い立ちを話す。面白可笑しく話したつもりだったが、結果失敗だった。 


 「ひ、酷いわそんなの……。ブルマが何かは解らないけど、皆を笑わせる為にした事なんでしょ?あんまりだわ……」


 ミリャナが元気の話をきいて、また泣き出してしまった。


 「ミリャ……。泣かないで……。ほ、ほら!もう一度!ほら!」


 元気がまた、ひょっとこ踊りをする。元気は、この時。自分の為に泣いてくれるミリャナを見て、救われた気がした。


 「もう!ぷっフフフ……。そ、それ……。やめてちょうだい……」


 「なきやんだ?」


 「うん、うん。あ~。面白いわ……フフフ……」


 楽しそうに笑ってくれるミリャナを見て、嬉しくて泣きそうになった元気だった。


 こんな事をしながら、二人は毎日楽しく平和に暮らした。


 しかし、お昼寝にもあきてきた元気は、ある日。ミリャナにお願いをしてみることにした。


 「ミリャ。実はお願いがあって」


 「なぁに?お姉さんに言ってみなさい!フフフ……。でも何かしら?お耳掃除は昨日したでしょ?」


 「うん、それは、毎日して欲しいけど……。今日は、その……本が欲しくて……」


 「ほ、本……!」


 ミリャナが、元気まで驚く程にビックリする。また、ミリャナの心の地雷を踏んだかもしれないと、元気はドキドキしてしまう。


 「いや、昼間、ひまで……」


 「そっか……。ごめんね……元ちゃん。その……。私のお給金じゃ本は高くて……買ってあげられ無いの……。ごめんね……」


 「あぁ!ミリャ!いいんだ!泣かないで!大丈夫だから!」


 「でも、私にもっとお金があれば……元ちゃんに買ってあげれたのに……。私のせいで元ちゃんが……毎日……」


 ミリャナは自分の事ではあまり泣かないが、元気の事では良く泣くのだった。


 「ち、違うんだ。俺の世界の本は、誰でも買える安い物だったんだ!だから、気にしないで!ほ、ほら!ほれほれ~」


 元気がひょっとこ踊りをする。これをすると必ずミリャナが笑うのだ。


 「わ、わかったから!泣き止んだ……。だからそれ……やめて……ぷくくくく……おなかいたい……フフフ……」


 「ハハハッ。そうだ!今度はお金の事教えてよ!」


 「うん……。お金は無いけど、それなら出来るわ!……元ちゃん……本当にごめんね……」


 「いいよ。ご飯に、住む所があるだけでも、助かるし……。ミリャといると、楽しいよ」


 「フフフ……。私も……。ありがとう……。元ちゃん」


 「でも、ミリャって涙もろ過ぎない?」


 「うん……。今までひとりだったから、なんか、泣いちゃうの……。ダメだってわかってるんだけど……」


 「そうなのか……。フフフ……今度泣いたらもっと面白い事するからね」


 「なにそれ?フフフ……お腹が痛くて死んじゃうかも」


 「それは、困るな……ハハハッ」


 何でもない毎日……。それが元気は楽しかった。そして、自分の為に泣いてくれるミリャナが元気はどんどん好きになっていった。


 「ただいま~」


 「お帰りミリャナ~。今、ご飯並べるから待っててね!」


 「うん、ありがとう!なんか、良い匂い……」


 「今日はさ、森で鳥を捕まえたからさ!鶏肉のスープなんだ!」


 「え!元ちゃん凄いわ!」


 「エヘヘ~、もっと褒めて~」


 「フフフ……。嬉しくて私、泣いちゃう。え~ん……嬉しいよう~」


 「まったく……泣き虫だな、ミリャは……」


 『え~、泣き真似~!可愛すぎるよ~ミリャ~……。フフフ。今日は必殺技があるのだ!えい!』


 「ひえっ!?」


 元気がミリャナの耳をペロリとした。


 「うわ。ミリャ。しょっぱくて美味しい!」


 「げ、元ちゃん!何て事するの!汚いでしょ!お馬鹿!」


 耳をペロリとされたミリャナが、耳まで真っ赤にして怒ってしまった。


 「ご、ごめん……。その、泣き真似するミリャが可愛すぎて……つい……」


 「もう!水浴びもしてないのに!私の耳なんてなめて、元ちゃんが病気になったりしたら、どうするの!そ、それに何か、ゾワゾワっとして……。そ、その……。恥ずかしいから、ダメ……」


 「う、うん。もう……………しない」


 顔を赤らめてもじもじするミリャナ。それを見て可愛いな。と元気は思った。


 「元ちゃん。間が長いわよ……まったくもう」


 「ご、ごめんよミリャ」


 「まったく……。もういいわ……。ご飯食べましょう……。もう怒って無いから」


 「うん。ごめんね。ほら!今日はね、森の食べられるキノコもあるんだ!塩味で美味しいんだから」


 「塩味?が、何かわからないけど、たのしみ!それじゃ……」


 「「いただきます!」」


 塩味ってミリャナのお耳の味だよ!と元気は言おうと思ったが、怒られそうなので辞めておいた。


 そして、この日から少しずつ、ミリャナの涙を流す回数が減り。お耳ガードをミリャナが覚えてしまったのだった。


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