出会い

「あれ?……俺……助かったのかな?」


 目が覚めた元気は、戦いで穴が開いた腹部をさすってみる。すると、えぐれていたお腹の傷が塞がっていた。 


 「異世界召喚の力って、傷にも効くのか……よかった。ってか……ここ、どこだろ?」


 木製の薄暗い小部屋。閉まったカーテンからは、日の光が零れ、タンスの上には一輪の黄色い花が飾ってあった。


「はぁ……まだ少しクラクラする……もう少し眠ろ……」


 元気が布団に潜ると、部屋の外から足音が響いてきた。


 裏切りおじ達の顔が浮かび、元気の心臓が一気に悲鳴を上げる。元気はとりあえず寝たふりをして、何かあったら全力で攻撃出来る様に身構えた。


 そして部屋のドアが開き、足音が元気の横まで迫って来る。心臓が破裂しそうで息が苦しい。……ドクンドクンと耳元で鼓動が爆ぜる中で……。心地よい感触が元気のおでこを襲った。


「あら、もう熱が下がってるわね。よかった」


 優しい声のする方を、薄目で確認してみると薄手の黄色いワンピースを着た。18~20歳位の、おっとり顔の美人なお姉さんが、元気をのぞき込んでいた。


 もう少し寝たふりをしようか?取りあえず抱きついてみようか?と迷っていた時、キュルル~ン。っと元気のお腹が鳴った。


 みるみる内に元気の顔が赤面していく。それを聞いたお姉さんが、元気の頭を撫でながら、優しく微笑む。


「フフ……。お腹すいたのね?……ご飯の用意をしとくから、気が向いたら起きてきなさいね」


「……はい」


 目を閉じたまま答える元気。恥ずかしさで目が開けられない。


「フフフ……よろしい!」


 彼女はそう言って、元気の頭をポンポンと優しくたたくと。嬉しそうに部屋を出ていった。


 お姉さんの足音が遠のくと、元気は起き上がる。そしてベッドから出て、ある事に気がついた。


 「あれ?……服が上下着せ替えてある……。まさか……」


 青い半袖のシャツに、緑の膝丈半ズボン。そして……パンツまでも履き替えさせてあった。


「やば……。クソ恥ずかしい……。でも、お礼を言わなきゃ……」


 元気は恥ずかしさで逃げたかったが、お姉さんにならいいや!と開き直り。お姉さんの所へ向かった。


寝室を出ると短い廊下で、正面が物置。右手に進むと直ぐにリビングだった。


「おはようございます」


「おはよう!」


 彼女はリビング奥の台所に立ち、ちょっとだけ振りむき挨拶を返してくれた。


 元気はその何気ない仕草と、振り向きざまに見せた笑顔の可憐さにドキッとしてしまう。


 部屋の中央には長テーブルと、それを挟んで長い腰掛け椅子があり。テーブルの真ん中には黄色い花が一輪だけ飾ってある。


 元気はテーブルに座り、部屋を見渡す。木造の建物で古い感じはするが、掃除は行き届いていて綺麗だった。


「傷の様子はどう?」


 部屋を見渡していると、料理を作りながら彼女が話しかけてきた。


「はい!お陰様で治りました!」


 元気は声が少しうわずってしまう。


「あなた、3日も眠ってたのよ?もう起きないんじゃないかと思って、とっても心配したんだから」


「そんなに眠っていたんですね……あの、助けて頂いて、ありがとうございました」


「いいえ~、どういたしまして、元気になって良かったわ!フフフ……」


 それ以降、何を話して良いのか解らずに元気は黙ってしまった。


「私はミリャナ、君のお名前は?」


「あ、俺、元気と言います。」


「そう、良い名前ね、これからよろしくね」


「此方こそ、よろしくお願いします」


 受け答えが定例分だった。


 彼女のリードを頼らなければ会話もできない自分にヘコむ。ため息をついてしまいそうな気分で彼女の後ろ姿を元気は眺めた。


 出るところは出ていて、しまっているところはしまっている。ロングでクリーム色の髪がとても綺麗で、スタイルが凄く良い後ろ姿まで美人だ。身長が低めな自分が恨めしい。


 ワンピースのお尻部分にパンツのラインが見えないのは、気のせいだろう。と元気が眺めていると。ミリャナがテーブルにパンとスープを並べてくれた。


「では、すいません。いただきます」


「何それ?」


「えっと食べ物になってくれた物と、作ってくれた人への感謝の気持ちを込めた挨拶で、俺の出身地での風習かな?」


「へぇ~、良い風習ね。よし!私もマネしよう。では、いただきます」


 二人でいただきますを終えると、食事が始まる。ラストでは調味料という物が流通していないようで、スープは野菜の煮汁、パンはカチカチ。なのでスープに浸して食べる。


 王国の王宮料理も、見た目は豪華だったが肉は肉の味、魚は魚の味だった。


「ねぇ?元気君はこれからどうするの?」


「あ、呼び捨てで良いです」


「そう?じゃあ~、元気だから、元ちゃん!って呼ぶわね。それで先のことは決まっているのかな?」


「いえ、特には……決まって無いです」


 世界を救うなどということはもう考えていない、これから先の衣食住問題。言われて見れば凄く重要だ。


 近くに町があれば、町で仕事でも探すかな?今度は職探しの旅。サバイバルもアリかなと元気は考える。


「それじゃあしばらく、ここにいても良いわよ」


「え?」


「今、仕事しながらこの家に一人で住んでるんだけど、水汲みや薪割り、掃除をしてくれるお手伝いさんを探していたのよ。私一人じゃ手が回らなくて……」


 「確かにひとりじゃ、大変そうですね」


 「行くところが決まるまでで良いから、お手伝いをお願い出来ないかな?あまりお金は無いけど、ご飯と寝るところは準備するわ」


「ありがとうございます。助かります。恩返しを出来るなら、全然手伝いもするし、護衛もします。だけど……女の人の家に男が寝泊まりするのは、あんまり良くないんじゃないですか?」


「フフフ、子供が出入りしていたところで、なんの心配もいらないわよ」


 普段だったら子供扱いにイラッとして、怒っていただろうが、笑うミリャナが可愛すぎて、怒る気にはなれなかった。


「それで私の提案なんだけど、どうかしら?お互い助かると思うのだけれど?」


 期待に満ちた目で、真っ直ぐミリャナは元気を見つめる。無理だと言える雰囲気ではないし、言う理由も元気には無かった。


「しばらくの間、よろしくお願いします!」


「そう、良かったわ!こちらこそよろしくね」


 天使の様に微笑むミリャナを見て、ここは天国なのでは無いだろうか?と元気は思う。こんな美女と一緒に暮らせるなんて、ご褒美以外のなんでもない。


「さてと、それじゃ私は仕事に行って来るわね。町の教会の孤児院にいるから、何かあったら遠慮無く来てね!」


 「はい」


 「本当は看病してあげたいけど、小さな町の教会だからシスター不足で、中々休めないの。それじゃ、家のこと。よろしくお願いします!」


 困った様に微笑むミリャナもまた、可愛いな~。と自然に元気の頰も緩んで行く。


「わかりました、行ってらっしゃい!」


「フフフ、行ってきます!」


 ミリャナは嬉しそうに仕事に向かった。


 あんなに喜ぶだなんて、ミリャナはよほど家事が苦手なのだろうか?まぁ何が苦手でも、ミリャナなら許しちゃうなぁと元気は思いながら皿洗いを始めた。


 「孤児院か、つくづく縁があるんだなぁ」


 ミリャナは元気を見て孤児達と同じ物を感じ、面倒を見てくれる事にしてくれたのかも知れない。と思った。


「可哀想な子か……」


 そう口にして元気は後悔する。ネガティブに捉えてしまっては駄目だ。理由はどうあれ、明日の心配はしなくて良くなったのだ。

 

 「彼女の優しさに、可愛さに感謝しなければいけない!……ミリャナさん早く帰って来ないかなぁ?もっと、お話がしたいな……何も無いけど……会いに行こうかなぁ?」


 ミリャナが家を出て早々。そんな事を思いながら家事に勤しむ元気だった。

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