異世界召喚
元気のニューイヤジャンプが終わると、大きなお城の中に立っていた。
時間も季節も、ガラリと変わり。俺もラノベの様な主人公になれるかも!と歓喜した。
元気はお城の中を見終わると、今度は周りの人達を見る。そして少し不安になった。
目の前には王冠を被った。おじさん。
その隣には袋を持った。おじさん。
周りには鎧を着た。おじさん。
両隣には、筋肉質な髭おじさんと、ローブを被ったひょろおじさん。が立っている。
周りにはおじさんしかいなかった。
パジャマ姿で元気がきょどっていると、いきなり王冠をかぶったおじさん(王様)が喋り始めた。
「良く来た異世界の勇者よ。一度しか言わぬので、しっかり聞くように……」
「あ、はい……」
「チッ。返事もいらん。……ここは、『ラスト』という世界で、この国はルニマルニア中央王国。お前はそこへ召喚された勇者だ。今、この国は魔族との戦いで劣勢である。なので勇者よ魔王を倒してこい。以上だ」
「あ、あの、異世界召喚特典などはあるんでしょうか?ビックリするような能力とか、膨大な魔力とか?」
「チッ。自分で調べろ……」
王様の説明が終わると元気は金貨の入った袋と魔石を渡された。
「あ、あの、この石何ですか?」
「魔石じゃ」
「魔石って?」
「チッ。隣のに聞け……」
「あ、あの~こう言うのって最初、お持てなしとかあるんじゃ……?」
「はぁ?チッ!クソが」
追い出される前に昼食は食べさせて貰えたが、城に泊まることは出来きなかった。
そして。パジャマ姿のまま知らないおじさん達と、眠らずの行軍が始まった。
「あの……。俺、元気っていいます。これからよろしくお願いします」
元気は旅の仲間に挨拶しておこうと思い、
二人に挨拶したが、ひょろおじさんには舌打ちされ、髭おじさんには睨まれて以来。必要な時以外で話しかける事は無かった。
町を二つ三つ回る頃には金貨は無くなり、野宿するようになった。
靴と剣を買いに行った武具屋で、城で貰った魔石を町で鑑定して貰った所。それは転送の魔石だった。
魔石を売って、服を買おうと思ったが辞めておいた。金欠の原因はおじさん達の夜遊びで、残ったお金を全部、巻き上げられそうだったからだ。飲み代に使われてしまう予感しかしなかった。
男三人、困難で。寡黙で。過酷な。サバイバル旅である。そんな旅は困難を極めた。
異世界特典は、驚異的な身体能力と回復力だった。
ドン!と。殴れば、敵が飛び!
バン!と。蹴飛ばしゃ、敵が散る!
ビュン!と。走れば、風を切り!
ダン!と。飛べば、鳥が驚く!
気分はまさにスーパーヒーロー。
元気はすぐにその力を使いこなし、森にはびこる猪や鹿っぽいモンスターを、ばったばったとなぎ倒し……飢えをしのいだ。
寝泊まりは、大きな森の木の下だ。
パジャマとパンツにも所々穴が開き。森の夜はちょっと寒い。履き続けた革の靴もちょっと臭う。本当は洞窟の中が良いのだが、洞窟にはゴブリンがいる。ゴブリンは弱いのだが、とにかく臭い。
一ヶ月洗ってない犬小屋と汚い公衆トイレの臭いが混ざった様な、とてもマイルドな香りをまとい、集団で襲ってくるのだ。
そして髪の毛や体毛がはえているので、そこにノミやシラミが大量発生している。顔は鬼みたいだが、姿は猿に近かった。
討伐しても、匂いや虫が洞窟内に残る。なので現代っ子な元気には洞窟暮らしは難しかった。
夜は寒くて風邪を引きそうだったが、臭いのは、自分の靴と足だけ。自作の葉っぱのベッドもチクチクはするが、馴れれば快適だった。
そして。異世界特典の回復力は凄く、元気は一度も病気にならなかった。
バッタ、芋虫、トカゲなどを食べても、雨水、泥水を飲んだりしても、お腹を壊さず。毎日、名前通り元気だった。
その後も、魔族大陸へ渡る為の船賃が無いまま、元気達は大陸中の森を彷徨っていた。
町でお金を稼ごうにも、おじさん達の素行が悪く、殆どの町や村で出禁をくらっていたので無理だった。
「どうしましょうかね?」
「はぁ……」 「チッ」
おじさん達が返事をしてくれる位までは、絆が芽生えたな。と元気が思っていた頃。
魔族大陸の、前の、前の、前の大陸で、魔王軍幹部のミノスに出会った。
姿形は赤マントのミノタウルス。使い古され傷がついた白銀の鎧が、ミノスの強さを物語っていた。
動きが素早く、口から光線を吐き。巨大な鎖斧を振り回したり、投げて来たりと魔王軍幹部と納得できる強敵だった。
おじさん達が遠くで見守る中……元気とミノスの戦闘は拮抗していた。
戦い続ける事6時間。
元気が残る力をふりしぼり、剣を構えて渾身の力でミノスへと特攻した。それに合わせてミノスが口を開き。光線を吐く準備をする……。
ミノスとは、おじさん達よりも戦いの中でわかり合えた。
名前はミノス。出身地は魔族大陸のホロウェイで息子が3人娘が4人おり、長男の心臓が悪く、手術するお金が必要で魔王軍へ入り昇進を続け幹部になったらしい。
家族の協力もあって長男は今、魔族大学の先生をやっている。嫁とは幼馴染みで、子供の頃の約束を守り結婚したとのことだった。
プロポーズ言葉は、お前の尻尾と我の尻尾は永遠に繋がっている。お前の作るヨーグルトを一生食べ続けよう……だ。
元気が、斬りかかり「ロマンチストですね」と剣で語ると、ミノスはフフっと笑い斧で剣を弾く、そんな中で……友情が生まれた。
だがしかし……。どんなに惹かれ合っていても相手は倒すべき敵なのだ。
加速しながら特攻する元気が、最後の踏み込みをしたときだった。
元気の足に魔法の鎖が絡みつき、そのせいで元気のバランスが崩れ、そこにミノス光線が直撃。元気の腹半分をえぐり取る。
そして元気は、その場に崩れ落ちた。
「勇者に生きていて貰っては困るお方がいるのだよ。戦争は金になるからな……さぁ、魔族の方!ドドメをどぞ!」
喜び小躍りするひょろおじさん。
「貴様ぁぁぁぁぁ!!!」
ミノスの怒号が辺りに響き、ひょろおじさんの首が飛ぶ。鎖の犯人はひょろおじさんだった。
戦争が終結すると困る。武器防具の商売人と、貴族が結託した。裏切り作戦だった。
それを見ていた髭おじさんが逃げだそうと踵を返すが、ミノスが即座に追い付き、髭おじさんを一刀両断する。
「命をかけて戦った男になんという事を……人間というのは、おろか過ぎる……」
元気にミノスが近寄り。斧を振り上げた。
「苦しまない様、ひと思いにやってやる……。次は魔族に産まれてこい少年よ」
それを聞いて、元気は涙が溢れた。特にこの世に未練は無かったが死にたくは無かった。
「む、むぅ、泣くな少年よ、我だって子供を殺したくはないのだ……。お前は異世界の勇者だと言っていたな?身体能力が凄い。と……噂で聞いたことがある。もしかしたら奇跡が起こるかもしれん」
そういうとミノスが斧を下げる。
「我は魔族ゆえに人間を連れては行けぬ、だから自力で何とかするのだ。そしてまた何処かで相見えよう友よ。幸運を祈る」
そういってミノスは去って行った。
致命傷を負ってしまった元気は、最後の力を振り絞り、転送の魔石を握る。痛みで飛びそうな意識を必死で保ち、魔石を握っている手に力を込め石を砕いた。
すると一瞬で何処かに転移した。
そこは何処かの森のようで、人の気配はしない。救助は望めない様だった。
最後まで運が無かったなぁ。と元気は思う。やっと、何者かになれると思ったのに、何者にもなれなかった。
痛みで薄れて行く意識の中で、次は、幸せな家庭に生まれたいなぁ。と元気は思い目を閉じたのだった。
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