神様
孤児院を訪問してから、数週間がたった……。
あの日から元気は、孤児院に行っては、お土産を置いて逃げ帰る。という日々を過ごしている。
最初は、ミリャナにバレるかな?と思ったが、孤児院の話は、ミリャナの口からはあまり出てこない。
最近、なんとなく幸せそうなので、それで良い。しかし、そう思う反面でちょっと褒めて欲しいな~。とも思う。元気なのだった。
そして元気は現在。ミリャナに耳かきをして貰っていた。
「そう言えば今ね、町で面白い噂があってね、神様が現れたんだって」
「神様?国を破壊したり、天罰与えたりするあの神様?」
「元ちゃん、何か神様に恨みがあるの?
まぁ、一部間違ってはいないけど良い神様の話よ」
「ふ~ん、どんな神様が現れた……のぉう!」
耳の奥をコリコリされて、元気の足がピーンと伸びる。
最近、絨毯を惹いたので、何処でも耳かきをする事が出来る。
「子供達に食べ物を恵んだり、物資を恵んだりしてくれるの」
「へ、へぇ~……良い神様だね」
「フフフ……そうなの凄く良い神様なの、どんな方なのかしら?子供達も元気になって嬉しいわ、もし会ったら好きになっちゃうかも」
実は、それ、俺です!そう言おうとしたが、言い留める事に何とか成功した。
「ふ、ふ~んそっか~、でも神様だから怖いかもよ?」
「そんなこと無いわよ、きっとかっこ良くて、優しくて、甘えん坊な神様だと思うわ」
「甘えん坊な神様か……。何を甘えているのか……まったく、けしからん」
「フフフ……。そう言えば、元ちゃん、町に時々来てるんだってね?門番のグレイ叔父様が言ってたわよ?」
「あ、あぁ、うん。家の中にずっと居るのも運動不足になるからさ、散歩がてらにね!ははは……。あ、そうだ、自転車の調子はどう?ちゃんと乗れてる?」
「うん、凄く助かるわ、町まで直ぐついちゃうんだから、ビックリ!」
「そっか助かってるなら、良かった……」
ビビって逃げて帰ってます。とは言えない元気だった。
耳かきをして貰いながら、膝枕のふわふわ感に幸せを感じ。ミリャナの話しを子守歌代わりにして、元気は寝落ちしてしまった。
朝、目が覚めたら、ミリャナが運んでくれた様でベッドの上だった。
「失敗失敗。今度はちゃんと、運んで貰う所まで、起きておかなければいけないな」
「お前さ、最近甘えが酷くないか?」
「え?そう?」
ミールのお小言が、小鳥のようにさえずる。
「そう?じゃないよ!羨ましいやら羨ましいやら羨ましいやらぞ?」
「んなこと言っても、ミリャを残して死んだお前が悪い!」
もう2人はブラックジョークが言える仲である。ぐぬぬ。とうなるミールを横目に、町へ行く準備をする。今日は孤児院への配給の日だ。
「今日は、孤児院の配給の日か。お前も飽きないねぇ」
「いや、飽きないねぇ。って、飽きて辞めたらあの子達死んじゃうだろ」
「はぁ、お前がクソ野郎だったら良かったのに」
「なんだよそれ?」
「クソ野郎だったら、姉さんに甘えた瞬間呪い殺そうとおもってさ」
「やめろよ、そういうこと言うの」
冗談だよ。と笑い、ミールは屋根裏へ帰っていった。
いくら異世界人がチート持ちだと言っても、呪いや病気が平気なのか解らない以上、驚異である。
最近、空を飛べるようになったので、姿を消して町の入り口付近まで飛んでいく。魔力があれば何でもありなのだ。
門番のグレイへ通行証を見せて、町に入り孤児院へ向かうが、最近困った事に、子供達が元気になったお陰で、孤児院に近づくのが困難なのだった。
孤児院の広場では、男の子達が走り回り、シスター達が忙しそうにしている。
孤児院の中では、女の子達がベッドメイクや掃除をしている。ベッドや布団を魔力で入れ替えてから、神様の贈り物だから。と丁寧に手入れをしてくれていた。
「さてと、んじゃ行こうかな」
身体を透明にして、孤児院の台所の裏口から入り込み。テーブルの上に食料を置く。
パンやジャム、ハム卵等である。贅沢を覚えてしまっては、孤児院から出たときに苦労しそうなので、調味料等は置かない。後は、石鹸や蝋燭を置いて終了だ。
「あ、そうだ」
台所をでて廊下を進み。シスター達の部屋に入り、ベッドの上に、黒のパンツや紫のパンツ。そして、日用品を置いておく。白はミリャナ専用だ。
靴は前回、全員分配給した。
元気製下着は、シスター達に大人気だ。
ミリャナのパンツを見た。シスター達が、うらやましがって、欲しがっていた。と言っていたのだ。
どこの世界でも、女性はお洒落が好きなのだ。
「まったく。どんな状況で、下着の見せ合いなんてしたのだろうか?今度、混ぜて欲しいな……」
「誰か、居るのですか?」
「うぉ!?」
扉の前に。初老のシスターが立っていた。
姿は見えなくても、声は聞こえるので、その声を聞いたシスターが、何かを確信した様だった。
「神様、そこにいらっしゃるのですね!あぁ、何と言うことでしょう、生きている間に出会えるだなんて」
そういうとシスターは、膝から崩れ落ちて涙を流し始めた。
「貴方様が恵みを下さったお陰で、子供も私たちも救われました!本当にありがとうございます!」
祈りのポーズだろうか?土下座状態で、何度も、両手を上げたり、地面につけたりを、結構な早さで何度も繰り返している。見ていてキツそうなので、やめて頂きたい。と元気は思った。
「あ、りぎゃふぃおふぉうございましゅ~、げっは……。あいがとう……ごじぇいまっしゅ~……ありがとう……げっは……」
元気は、無言で見ていたが。1分過ぎた辺りから初老のシスターが、死にそうになっている。
扉の前でやられているので、元気は出るに出られない。
「汝、名を何ともうす」
死んでしまうかもしれない。と恐怖を感じた元気は、某将軍のような話しかたでシスターへと話しかけた。
シスターの動きが止まったのはいいが、今度は、目が飛び出るんじゃないか?と思うほど目を見開いて、無言で硬直した。
いちいち不安になる反応だった。
「あの……シスターさん。そこにいられると出れないので、どいて貰っていい?」
「は!も、申し訳ありません神様!とんだご無礼を!」
「汝、子供達を愛しなさい、ではさらばだ」
「ははっ~!」
ノリの良いシスターだ。と思いながら、部屋を後にする。神様じゃないよ。と言おうと思ったが、シスター達の寝室に入り込んでいたので辞めておいた。
変態より、神様方が、マシだったからだ。
廊下をでて、暫く歩くと礼拝堂に出る。礼拝堂を横切って進むと子供の寝るところがあってその先が食堂で、その奥に台所だ。
今度は夜に来ようかな。と礼拝堂を歩いている所で、何者かに声を掛けられた。
「待て、そこの少年よ」
「はい!?」
この世界で透明化は、それほど意味が無いのかもしれない。と思い。振り返ると……そこには天使がいた。
「お前が今、噂になっている神か?」
「いえ、違います」
美しい。としか言いようがない、純白の衣をまとった金髪の女の人が、鋭い目つきで語りかけて来た。背中には、白い羽根が生えている。
「ほう、私に嘘をつくのか」
「あ、いえ、そうでは無くてですね。神様だとか、俺は言ったことはないですし」
「ふむ、勝手に噂が立ったと?」
「そ、その通りでございます」
さっきまでは将軍だったはずなのに、今は罪人の気分だった。
「そうか、私の勘違いかすまなかったな」
「いえいえ、では私めはこれで」
「まぁ。待て。お前、名前は?」
「えっと、元気と言います」
「そうか、私は運命の女神。フェルミナ、お前の行いにより、ここに居る子供達の運命が大きく変わったのだが、お前は何故こんなことをしているのだ?」
「こんなこと?」
「あぁ、食事をあたえ、寝具を整え、未来を与えた。なぜだ?」
「えっと、可哀想だったからですかね?」
「同情か?今死んでおけば、将来苦労することも、苦しむ事もないだろうに、お前の同情心によって救った。と言うのか?」
絶世の美女ではあるが、こいつ嫌いかもしれないと元気は思った。
「そうです……でも、人生、苦労や苦しみだけじゃ無いでしょう?」
「ほう、他に何があると言うのだ?殺し合い奪い合う醜い生き物が、お前達人間だろ?」
「確かに。人間は戦争を繰り返しているし、弱い者虐めが好きだ。だけどそれだけじゃない、良い人間も居る!」
「いい人間……」
「この世界に来るまでは、アンタと同じ考えだった。嬉しいこと、楽しいことなんて苦しみの前の、前菜の様なものだと思ってた。でも今は違う!」
「どう、変わったのだ?」
「人間は、思い合い。人を愛する事が出来る!」
そう言い放った瞬間。体中が熱くなった。
「あっははははは!面白いことを言うじゃないか!そうかそうか!あっはははははは……」
「耳かきも、添い寝も、撫で撫でも、膝枕もミリャナの愛情だ!俺の一方的な勘違いでも、俺は幸せを感じてるんだ!」
笑いがピタッとやんだ。真顔で少し引いている感じがする。
「お前にとっては、それが愛情なのか?」
「えっと……その、それだけじゃない!その人の為に何かをしてげたいとか、色々あるじゃんか」
「あやふやだな?」
「そうだけど、愛の形は色々だろ!笑っていいものじゃない!と思います……」
頭に血がのぼって忘れてたが、女神と言っていた気がする。罰を与えるという奴だった。と気づき、敬語を付け足してみる。
「フフフ、言葉使いなど気にするな。どうでも良い」
「あぁ、そう?良かった……で俺って殺されるの?罰とかで?」
「なんだそれは?あぁ、鉄槌の神オウルフェスの事を言っているのか?私はそういう神ではないぞ?運命を作り替えて、お前を消すことは出来るが、殺すことはせん」
どっちにしろ怖かった。
「じゃぁ、帰ってもいい?」
「うむ、そうだなぁ、最後に聞いても良いか?」
「罰とかで、消されないならどうぞ」
「ここの子供達の将来について、どう考える?」
「え?知りませんよ?生きてればそのうち良いことがあるでしょ?ミリャナが愛情を注いでいるんですから、あの子達は幸せだと思います」
「適当だな」
「苦労はするでしょうが、それもまた生きる事じゃないですか?まぁ、苦労なんてしないのが一番良いですが、将来苦労するから死んでいいなんて言えませんし、見逃したくありません」
「そうか、呼び止めてすまなかったな、なかなか面白かったぞ、なんせ誰かと話したのは300年ぶりだったからな、また遊びに来い」
「はい、またそのうちに……」
食堂へ向かっていたはずなのに足がとまる、300年って……。
無言で誰とも話さずに?そんなの……。
「おや?どうした?忘れ物か?」
「これを、どうぞ」
驚いた顔で、しかし嬉しそうな女神へ元気はラノベを渡した。
「本か……?差し出されても、私には触れないのだ……」
「かしこみかしこみ!……触って見てください!」
「な!何と言うことだ!」
ミールに渡す様にすれば、やはり渡せるようだついでに、あんパンと牛乳を置いておいた。
神様への賄賂である。何かあったら助けて貰おう。
「少しは暇が潰せるせるでしょう?それでは、また!」
「あぁ、ありがとう!あぁ、また来い!」
ラノベを大事そうに胸に抱えて、泣きそうな顔をしている女神様を背に、食堂へと向かった。
そこでは、ミリャナとシスター達が、置いておいた食材の仕分けをしている。皆、笑顔で幸せそうだ。
窓の外では、子供達が笑顔で「神様がきたの?神様凄いね~」などと言っている。
神様では無いけど、自己満足の偽善でも、お互い良い気分なのだ。良いだろ。と元気は思い。孤児院をあとにした。
その次の日、ミールの声で元気は起こされた。
「おい!元気!起きろ!大変だ!!!」
「なんだよミール……勝手に部屋に入ってくるなよな~……」
ふぁ~っとあくびをした口が塞がらない……。
「やぁ、元気。遊びに来たのだが、この本の続きは何所だろうか?」
「あぁ、おはようございます。屋根裏にいっぱいありますよ」
「そうか!その、なんだ、見てもいいか?」
「どうぞ」
「おぉ、恩に着る!」
嬉しそうに、フェルミナは屋根裏に向かった。
「お、おい誰だよ!あの美人な人は!」
「運命の女神。フェルミナ様らしいよ?」
「女神さま!?なんで!?ってか神様!?」
「昨日、孤児院で会った……」
「はぁ?だからってなんで家に?」
「何でって遊びに来たんだろ?仲良く遊びなさいね」
「お前馬鹿だろ!!!」
小鳥のさえずりの代わりに、ミールの動揺した声を聞きながら、再度ベッドに潜る。ミールがチュンチュンうるさいので、ベッドの隙間からドーナツとカフェオレを2人分出す。
こんなものでつられると思うなよ!とか、どう対処すれば良いんだよ!とか、聞こえていたが、しばらくすると、声がやんで静かになった。
諦めて、おやつを持っていった様だ。それを確認すると元気は二度寝することにした。
どうしようも出来ない事は、また明日考えれば良い……何処かの誰かが言っていた言葉だが、良い言葉だな。と元気は思ったのだった。
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