お出かけ

 魔法で、だいたいの物が出せるとわかった元気は、屋根裏でミールと遊ぶ日々を送っていた。


「さて、これから先、どうしようか」


「なにが?」


「いやぁ、最近充実した毎日を送れてるのは、楽しくて良いんだけどさ。このままじゃ、駄目人間になってしまうと思うんだよね」


「毎日楽しいんだし、良いんじゃないの?世界を救うとか、そんなこと考えて無いんでしょ?」


「うーん、裏切られる前は頑張ろうと思ってたけどさ、世界とかはもう良いかな~って」


「ふーん、まぁ、僕。死んじゃってるし、どうでも良いけどね。あ!おい!ハメ技は禁止だろ!」


 不健康ではあるが、毎日楽しくはある。


 その反面。働いているミリャナに申し訳ない気分になる事が、元気は多くなっていた。


「大体、ダメ人間ってなにさ?誰にも迷惑かけてないんだし。姉さんが帰って来る家を守ってるんだし」


「守ると言っても、誰も何も奪いに来ないけどな」


 完全な駄目人間が、となりにに完成していた。


「何かしたいなら。とりあえず、町に行ってみたら?小さな町だから、何も無いけど。まぁ……。やる事を決めないと、何も始まらないよ」


「ん~。そうだな!まともな事言うお前に、ちょっと腹が立つけど……町に行ってみようかな……」


「いってら~」


 元気はジャージから、黒いTシャツとGパンに着替える。そして町へと出かけた。


 町までは、林の細道を通って、真っ直ぐ進めば良い。


 町は、2メートル程の壁で囲まれていて、正面にまわらなければ、入れなかった。


 家から町の入り口まで、1時間かかった。


 「遠いな……。ミリャナは、毎日こんなに歩いてるのか?……どおりで太ももが、ぷりぷりしているわけだ……」


 入り口には、立派な門があり。兵士の詰め所があった。

 

「あ、あのぅ……。ま、町に入りたいんですが……?」


 知らないおじさんと話すのが、久しぶりすぎて、元気はドキドキしてしまう。


「ん?見ない顔だな、流れ者か?」


「えっと……そのような者です」


 40代だろうか兵士のおじさんは厳つい顔つきで、少し怖い。


「まったく、ろくな世の中じゃねぇな。子供がこんな所まで独りで……金はあるのか?住むところは?」


「あ、あの、今は森の近くの人の家に居候させて貰っていて、住むところはあるんですが、お金は……持ってないです」


「森の近く?……ミリャナの所か?」


「あ、はい!」


「ふむ…………。ちょっと、こっちに来い」


「はい」


 元気は、詰め所の奥にある、小部屋に通された。


「担当直入に聞くが……。お前は誰だ?何の目的でこの町へ、ミリャナの所へ来た?」


「え?」


 兵士の目が怒っている様に見える。


「名前は元気と言います。仲間に裏切られて、森で死にかけている所を、ミリャナさんに助けて貰いました!最初は何も、目的は無かったのですが、今はミリャナさんへの恩返しです!」


 魔王討伐や、魔力の事などは伏せて話した。


「仲間に裏切られて?って事は、冒険者か?」


「そ、そのような者です」


「ふむ、ミリャナへの恩返しねぇ……」


 兵士は、アゴに手を当てながらジロジロと、元気を見る。


「まぁ、もう少し成長してから見極めれば良かろう、ほれ、持って行け」


 兵士は、部屋の棚に置いてある箱の中から木札を取り出し、元気に渡す。


「それが、許可証だ。ミリャナに何かしたら、俺がお前を殺すからな。覚えておけよ」


「は、はい!」


 毎日ミリャナに甘えている事が、この人にはバレない様にしなきゃ。と元気は思った。


 そして、詰め所から解放された元気は、町へと入る。


 「ミールは田舎って言ってたけど……」


 入り口から真っ直ぐに、バザーが並んでおり。野菜や肉が売られている。パンや果物屋、武器防具にアクセサリーショップもある。


「立派な町じゃないか」


 裏切りおじ達と冒険をしていた時に、何カ所か町を見たが、大きい部類に入る町並だ。


 広い。中央通りに並ぶ店を見ながら、自然と顔が綻ぶ。目新しい物ばかりだ。


 食物は、大体見たことがある形状だったが、武具、アクセサリー。それを眺める冒険者っぽい人達。肉の焼ける良い匂もする。


 その光景に、元気の心がおどる。


 「ドワーフやエルフや獣人は、居ないのかな?」


 周りをキョロキョロ見渡したが、見当たらない。


 「この世界には、いないのかな?他の町でも……。いや、でもミノスは獣人だったな……。あの人、元気かな……?」


 元気はバザー通りを抜けて、噴水広場に向かう。広場には大きな噴水があり、その向こうには、お城のミニチュアみたいな、大きな建物があった。


 「なんだろあれ……。やっぱりミールも、案内役として、連れて来ればよかった……」


 お城を挟んで、Yの字に道が分かれている。


 右は、お洒落な感じのお店。左は、居住用の建物が並んでいた。


 「ミリャナのいる教会は、左側の路地を抜けるんだったな……」


 うす暗い路地を抜けると教会が見えた。


 元気は、遠目に教会を眺めていたが、物音一つしない。もっと近づいてみよう。と、敷地内へ進んでみる。


 「なんか俺……泥棒みたいだな……」


 窓から中を覗いてみるが、誰も居ない。


 「ここは、子供が寝る部屋か……」


 質素なベッドが、6つほど並んでいる。


 5~6部屋まわった所で、ミリャナの姿を発見した。


 ミリャナを見つけて、嬉しかったが……直ぐにその気持ちは消えてしまった。


 周りの子供達の数にも驚いたが、明らかに栄養が足りていなくて、どの子もガリガリだった。


 ミリャナの周りの子達は、かろうじて座っているが、座れず横たわっている子共も居る。


 戦時中の孤児……。まさにその姿だった。


 その子供達に、ミリャナは優しく微笑み。聖典を読み聞かせている。元気はその光景に暫く目がはなせなかった。


 元気は今まで施設で育って来たが、命の危機など感じた事は無い。


 ミリャナがどれだけ愛情を注いでも、このままでは、命は失われる。子供が大きくなるには、愛情と同じくらい、栄養も必要なのだ。


 弱肉強食という言葉を、小説やアニメや映画でよく聞くが。これは、アニメでも小説でも映画でもない。


 元気はそう思うと、目の前の光景を放っては置けなかった。


 ドンドンドン!と孤児院の扉を叩くと……。元気は全力疾走で、教会をあとにした。


 誰が出てくるか解らず。待っている間にビビってしまったのだ。


 最近、引き籠もっていた弊害である。


「食糧も置いたし!うん。頑張った!良い事した!……帰ろ……」


 次は、そっと置きに行こ。と、思いながら帰宅する元気なのだった。

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