「空を飛ぶ」
「ほら、うちの手ぇ握って、立ちんさい」
「も、もう飛び降りるのか……?」
断崖絶壁が目の前に迫って、僕の胸中では焦りや躊躇いが急激に膨らんでいった。
「
あと一歩踏み出せば、真っ逆さまという場所で、
「これで、いつでも飛び降りれるけん……
「足元が真っ暗やねぇ……空飛んどるみたい。ふふ、なんだか楽しゅうなってきたのぅ」
僕も真似して腰を降ろした。
両足の先には断崖絶壁、びゅびゅうと夜風が吹き上がる。
「……すげぇ……高ぇ……さすがに震えるなぁ……」
僕は心底身震いしていた。
下を見下ろせば、崖の下端は闇に消えている。
「ふははっ。今から一緒に死ぬっちゅうんに、何を今更怖がっとんの?」
「あーぁ、懐かしいのぉ。もう6年も前になるんか。
……うちはあの日から、
寂しそうな声が、夜風に流されて消えていく。
「……あのさ」
僕は思い切って、口を開いた。
「……
思い切って尋ねた。変わり果ててしまった
あの頃の君は、悩みとは無縁みたいな無邪気さで、何もかも笑い飛ばしていた女の子だったじゃないか。
「…………」
「…………ごめん、うち、
……知られとうないけぇ……
俯いて表情を隠しながら、泣きそうな声を絞り出している
「……そうか……辛かったんだな……
死ぬほど苦しかったんだよな、分かるよ……」
それだけは、理解できた。
僕は震える
「う”ん……」
少しでも
「……う”ん、う”ん……うえ”ぇぇえぇぇぇぇんっっ……うぇぇぇぇぇぇぇっ……」
やがてすぐに、僕の目からも、涙が溢れて止まらなくなった。
「僕も……僕もずっと、
また
今まで死なないでいてくれてありがとう、
お互いがぐちゃぐちゃに泣きながら、僕たちは確かに触れ合っていて、互いの体温を感じあっていた。
「……うち、もう何もわからんよ…… 今日はここで、本気で死ぬって決めてきたけんやけどなぁ……」
弱々しく、
「僕は……やっぱり生きたいよ。
僕は、
僕は
僕にとっては
僕は
「……ほら、一緒に引き返そうよ。
……それから山を降りるんだ。
これからのことは、これからゆっくり決めれば良い」
そのときだった。
「え?」
ガラリ、と、
足を踏み外し、崖の向こうへと傾いていく
「危ない!」
僕は咄嗟に飛び出した。
グンと互いの身体が振られて、
しかし、その反動で、僕の身体は崖の向こうへとまっしぐらだった。
(あぁ、良かった。
最後に
これは僕の傲慢だけど、
名残惜しく思いつつも、
僕の腕は、今度は
「だめっ!!」
必死に両手を伸ばしあって、互いの身体を手繰り寄せる。
重力が加速して、一瞬の浮遊感に包まれて。
心地良くて、恐ろしい。
目の前には千夏の顔があった。
互いのおでことおでこがゴツンとぶつかり、涙がパチンと弾け飛ぶ。
天と地がひっくり返る直前。
最後の刹那。
僕と
………………
…………
……
……………。
目を覚ますと、白いタイルの天井があった。
頭の中でぐわんぐわんと幻聴が鳴る。
いったい何が……ここは、どこだ……?
「……ぁ……? が……」
声を出してみたものの、喉がしびれるように痛い。
うめき声を漏らすことしか出来なかった。身体が重い、動かせない。
「……え?
素っ頓狂な女の子の声がして、視界に茶髪の女の子の顔が飛び込んできた。
「……誰……?」
知り合いにこんな可愛い女の子いたっけ、
と、記憶を思い出そうとしたときだった。
自殺しようとしていたこと、あの夜に
「うちは
「
僕は掠れた声で必死に叫んだ。
あの夜、あれからどうなった、ここは病院か?
生きてるのか、僕は、
なら、
「
……
「……え……?」
……そうか、やはり、そうなのか……
何故、どうして、僕だけ生き残って…
目の前の彼女は今、
「……うちは先生と
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます