番外編

「なんでだよ。このままここに住めばいいだろ」



 これは、私が部屋の修繕が終わって、柊生さんの家を出る話をした時のこと。



「いや、流石に無理ですよね」



 柊生さんとお付き合いすることも腹を括り。

 マネージャーとして事務所に戻ることも決めた。

 その上で、柊生さんはこのまま一緒に同棲を始めればいいのではというのだが……!



「なんでだよ」

「私が、公私混同しそうというか、分けられなくなりそうというか」

「分けられなくなればいいじゃないかよ」



 そう言いながらも、テーブルの上で手を絡めながら、私の手を弄んでくる柊生さんがですね……!



「分けられなくなったらダメじゃないですか!」

「最近気づいたんだよ。ヤマは隙がなさそうで意外とそうでもない時があるから、分けられなくなるくらいがちょうどいいんだって」



 拗ねたようにそういう柊生さんが。

 私の手を弄ぶのがなんというか、いやらしいというか、手つきがだね……!!



 あああ! ダメダメ!

 このまま勢いに飲まれてまた流されそうになる!

 そう思った途端、ぱっと柊生さんに触られている手を引いて、胸元に引き寄せる。



「そこはそれ! ちゃんとしますから! ついでに同棲についてもおいおいちゃんと考えますから!」

「おいおいってなんだよ……」

「おいおいはおいおいです! それに……、私だって、もうちょっとちゃんとした彼氏彼女期間を経てから同棲したいというか……!」



 そうなのだ。

 何と言っても、私と柊生さんが彼氏彼女らしいことをしたのは、せいぜいお友達デートの1回くらい。

 それだって『お友達』という名目でしたのだ。

 せっかくちゃんと交際するなら、突然どどんと同棲じゃなくて、段階を経たい!

 というのは建前で。

 単にまだ逃げ場が欲しいということの程のいい言い訳である。



 しかしどうも、変に言い繕うより、この返答が柊生さんの心の何かに刺さったらしく。



「んまあ、そうだな……。彼氏彼女期間……な」



 と。

 まんざらでもなく照れ出したことによって。



 とりあえず、交際! 即! 同棲! ルートは免れたわけであるが。



 ◇



 これはまた、それから一月半ほど後の話――。



「お……、おかえりなさい……」



 時刻は夜の21時。

 マネージャーの仕事が終わった足でそのまま柊生さんの家に来て。

 用意された柊生さんの大きめスウェットを着てのお出迎えをする。


 いやまあ……、さっきまでそこのリビングでこの格好でノートパソコン叩いて仕事しながら待ってたんだけどさあ……!



「ん……、ただいま、ヤマ……じゃなくて藍」



 出迎えた私を、柊生さんがハグをしながらこめかみにキスしてくる。



 ぐうううううう……!

 わかっちゃいたけど甘いな……!



 さて。

 私がなぜこんなことをしているかというとだ。



 つい先日からまた、マネージャー業に戻り。

 地味かつ堅実な戦闘服に装いを戻した私だったのだが。



 ――そとで可愛い格好ができないなら家ですればいいじゃん――と言う話になり。



 ――じゃあ、俺ヤマにして欲しい格好があるから用意してもいい? という話になり。



 そうして、その流れで仕事終わりの自宅デートをすることになった流れでの現在のこの状況。



 ひぃいいいいいいいい!

 用意されていたのは、明らか柊生さんの普段使いスウェットで、柊生さん臭ハンパないし。

 それに合わせたボトムスは、短め丈のショートパンツで!



 そんな格好で今! 私は!

 柊生さんの膝の中で、対面で抱え込まれているんですけど!

 生足が……!

 あた、あたって……!



「はぁ……。可愛い。癒される」



 そう言いながら、柊生さんが私のことをぎゅっと抱きしめてくる。

 

 

「それならよかったです……」

「ありがとな藍。俺のために、仕事終わったのにわざわざメイクし直してくれたんだろ?」



 言いながら柊生さんが、内心でアワアワとしていた私の頬にそっと触れる。



 はい!

 そうです!

 おっしゃる通り!



 だって、仕事中は超地味地味メイクだから!

 ここにきて、一旦全部綺麗にメイクオフしてリセットして。

 私の持てるメイク力を集結させて可愛く仕上げましたよ!



 いや、可愛いよね……!

 自分の体だけれども、出来上がった仕上がりを見て『ヒロインちゃん可愛い……! 流石ヒロイン……!」と思いましたもの!


 

「うう……、いやだ……、俺、ずっとここで藍といちゃいちゃしていたい……!」



 珍しく、私の肩に頭を乗せていやいやと甘えてくる柊生さん。



「そうしたいのは山々ですけど。私も柊生さんも明日も仕事です」

「うう……」



 そう言いながら、柊生さんは観念したかのようにのそりと立ち上がり、「くやしいけど仕方ない。シャワー浴びながら、今度は藍にどんな格好してもらおうか考えてくるわ」と言うので。



「な、なんでいっつも着せ替えされるの私なんですか……!」



 と理不尽な思いを叫びつつ。



 それでも、恋人のモチベーションを上げるために、結局のところは素直に言うことを聞くんだろうなと自分で思うのであった。




 ちなみにこの日も柊生さんの家にお泊まりし、仲良く一緒のベッドですやすやと眠ったものの、一線を越えると言うことは全くなく。



 あれ……?



 私そんなに魅力ない……?



 という悩みにしばらく悶々と明け暮れる藍なのだったが、一線越える云々の話はまた別のどこかで機会があれば。







 ――――――――

ここまでお読みくださりありがとうございます!

この話はこれにて完結になります!


ちょびちょびと修正と改稿を入れながら・・・

と思っていたのですが、結局は多忙&体調不良でほぼ手入れできずでした・・・


少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。

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イケメンアイドル育成ゲームのマネージャーに転生しました! 遠都衣(とお とい) @v_6

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