第21話 拗れ拗らせてエピローグ
「お前……、なんでそんな格好してんだよ」
言うに事欠いて、ようやく念願の再会を果たした最初の一言がそれで。
「えっと、あの……、どちらさまですか……?」
さらには、そんな俺の追求に、さらりとそらっとぼけて逃げようとするものだから。
「とぼけんな。いくらなんでも、メイクと服装ぐらいで誤魔化されると思うなよ」
――繋ぎ止めなければ、と思った。
なんとしても。
でなければ、せっかくまた近づくことができたのに、手のひらからこぼれ落ちてしまう。
そうして、あれやこれやと策を弄した結果、その日なんとか【お友達】からではあるが、付き合うという約束を取り付けることができた。
■■
あれからひと月半。
「私……、柊生さんが、好きです」
ヤマの口から出た、その言葉を聞いた時。
――正直、泣くかと思った。
喉元まで迫り上がってきたものを必死で飲み込もうとする間にまたもヤマが逃げ出そうとしたので、咄嗟にそれを掴んで食い止めたりしていたら、涙も引っ込んでしまったが。
その後、感無量になった俺がヤマを抱きしめていたら、逆にヤマの方が泣き出してしまうというなんやかんやを経ながらも。
ようやく俺たちは、拗らせに拗らせて拗らせた末に、お互いの思いを通じ合わせることができたのだった。
■■
「――つまりこれはもう、男女のお付き合いを始める、ってことでいいんだよな?」
ソファに私を押し倒した柊生さんが、そのまま私のおなかの辺りに抱きついたまま、上目遣いで言質を取ろうとしてくるので。
く……っ!!!!
上目遣いで、ちょっと拗ねた様子で聞いてくるのも絶品かわいいなのだが!!
「い、良いですよ……」
「なんでそんな及び腰なんだよ」
私のおなかでもごもご言う柊生さんが超絶かわいいのはさておき。
「それくらいは許してください……」
私としては、正式にお付き合いをする、と言う決断を下しただけで、清水の舞台から飛び降りるほどの気力を要することだったのだ。
及び腰で答えはしたが、イエスと言っただけ偉いと褒め称えてもらいたい。
そう思っていたら。
「……藍」
柊生さんが、不意打ちで名前呼びしてくるので。
「……なんで突然名前呼びとかするんですかあ……!」
思わずキュンとしてしまったじゃないですかあ……!
「ダメか?」
ぬおおおお……! だから上目遣いできゅるんとした顔をしないでくださいってば……!
「……ふたりっきりの時だったら」
柊生さんの顔面力と可愛さに負けた私は、しぶしぶながらもそう答えて。
そして私がそう答えたのに、柊生さんはふふっと笑いをこぼすと。
「なんか、ふたりだけの秘密みたいでいいな」
と言った。
■■
「「ヤマさん、マネージャー復帰おめでとー!!!!」」
ぱん! ぱぁん! と。
事務所の中で、クラッカーが鳴り響く。
――あれから2ヶ月後。
結局私は、心機一転転職したベンチャー企業を辞め、もとの事務所のマネージャー職へと返り咲いたのだった。
なぜかと言うと。
私の後任で入った新人くんが、たったの3ヶ月で私がこれまでに築き上げてきた事務所と他社との関係値をめっためたにし。
『ユナイト!』の事務所内での運営に暗雲が立ち込めている――、という話を聞いたからで。
実際、職場に返り咲いて、ここ数ヶ月のメールや仕事の形跡を見るだに、それが嘘や冗談ではなく本当だったことがありありとわかった。
急ぎ案件のメールも放置しっぱなしだし、映像や画像のチェックも、雑誌やインタビュー記事の確認も雑。
過去のスケジュールを見ても「こんなスケジュールのぶっ込み方したらタレントがしんどいやん!」という散々なもので。
かくして、せっかく就職させてもらった転職先の会社には平謝りし、「山敷さん、優秀だったから期待していたのになあ」というありがたい言葉を頂きながらも、元サヤに戻ってきたのだった。
こうして今。
事務所の自分のデスクに戻ってきて『ユナイト!』のメンバーの歓迎を受けながら。
少し離れた場所でメンバーに絡まれる私を見つめていた柊生さんとふと目が合い。
にやりと笑みを浮かべたのを目の当たりにして「ふへへ……」となんとも言えない思いを噛み締めながら。
私はまた、彼らをスターダムに上げるために、奮闘する日々へと戻るのだった。
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