第13話 寝返るな、そこはアウェイだ

「う〜ん、これだけひどいと……、修繕期間1〜2週間はみてもらった方がいいかもしれませんね」

「えっ……」



 管理会社の人に来てもらって、部屋の惨状を見てもらった直後のコメントがこれで。

 実際には、修繕業者に見てもらわないとなんとも言えないが、修繕業者も今日明日とかで来れるかもわからないから、現状は2週間ほど見た方がいいと思うとのことだった。



 ま……、マジかよう……!



 確かに、築年数は結構いってると思ったけど、見た目綺麗なマンションだったから全然予想だにしていなかった。

 1〜2週間もこの状況〜〜〜〜〜!?



「とりあえず、修繕業者との連絡がつきましたら、またご連絡させていただきますね」



 そう言って一旦、管理会社の担当の人とのやりとりは終わったのだったが。



 ■■



「なら、その期間うちにいればいいだろ」



 ですよね〜……。

 柊生さんはそう言うんじゃないかと思いましたよ。ええ。



 その日、柊生さんは夜のラジオ収録を終えて、帰ってきたのが22時前だった。

 食事は軽く済ませたと言うので、作っておいたスープがあるが食べるかと聞くと「食べる」と言うので。

 よそってあげたスープをすする柊生さんに、結局部屋はどうなったんだと尋ねられ、嘘をついてもと正直に話した結果、返ってきた言葉がさっきのそれで。



「でも、迷惑じゃ……」

「ないだろどう考えても。俺がいいって言ってるし」



 うち広いし、と。

 まあ。

 確かにね。

 広いですよ柊生さんちは。

 2LDKだしね……。

 


 ううううううう〜〜〜〜ん!

 まあああああ、柊生さんの家ならセキュリティもしっかりしているし、表のロビーをこれ見よがしにいちゃいちゃ一緒に出入りさえしなければ『滝本柊生、同棲!?』とかすっぱ抜かれることもない。



 おまけに私としても、無駄にホテルやウィークリーを探さずに済むし、一石二鳥ではあるっちゃあるけど……。



 誓ったばっかりなのにー!

 一生一番の親友宣言を!

 ファンを裏切らない宣誓を!



「ヤマが家で待っててくれたら、俺も安心だし、仕事ももっと頑張れるし……」



 そこは私がいなくても頑張れるって言ってくださいよ!

 とマネージャーとしての私は内心で叫ぶが、女子としての私はきっちりキュンとするわけで。



 こうやって人はたらし込まれるのだ、ということをまざまざと実感しながら「じゃあ……、部屋が元通りになる間だけお願いします……」と、柊生さんの提案に屈し……、いや、素直に甘えさせてもらった私だったのだが。



「じゃあ、とりあえず今日はソファ借りていいですか?」

「は?」



 は? と言われても。

 他に寝具がないのだから仕方があるまい。



 と思っていると「……いや、俺がソファで寝る」とか言い出すので!



「何言ってるんですか! 私はまだ明日も休みだし、柊生さん仕事ですよね?」



 仕事がある方がベッドで寝ろ!

 そしてそれ以前にここはあなたの家ですが!

 


「でも……」

「これで私がベッド借りて、明日柊生さんが万全の体調で仕事に行けない方が嫌ですよ!」



 私が強くそう言うと、柊生さんも渋々ながら「……わかった」と了承してくれた。

 全くもう……。







 そうして、それはその夜のこと。

 私がリビングのソファで寝付けずにゴロゴロしていると、寝室からなにやらうなされているような声が聞こえてきて。



 ……柊生さん?



 そろりと起き出し、音を立てないように気をつけながら、少しだけ隙間の空いた寝室のドアをそっと押す。



 中を覗くと、ベッドの上では柊生さんが苦しげな表情でうなされ、身じろぎしながら眠っていた。



 ――そういえば、大きい仕事を抱えてる時に限って、悪夢にうなされたりすることが多いって言ってたもんな。



 昔、まだ『ユナイト!』のマネージャーだった時、柊生さんがみんなと世間話をしていた時に漏れ聞いた話をふと思い出す。


 

 私は、うなされている柊生さんをしばらく見下ろし――。

 はあ、とひとつため息をつきながら、なるべくベッドを軋ませないよう、静かに柊生さんの隣まで移動する。



「……」



 ……よくないよなあ。

 よくはないけど、ほっとけもしないしなあ……。



 そう思いながら、苦しげに寝息を立てる柊生さんの背中にそっと手を伸ばす。

 そうして、起こさないように気をつけながら、しばらくのあいだ優しく背中をさすっていると、だんだんと寝息が静かなものに変わってきて。



 そろそろいいかな?



 そう思った時だった。

 ぐいっと、寝ている柊生さんに腕を引かれ、そのままバランスを崩した私は、どさりとベッドに横向きに倒れる。



「う……」



 そうして、小さくうめき声を上げる寝ぼけた柊生さんに、そのまま抱き込まれてしまった。



 ちょ、ちょっとちょっとちょっとおおおおおおお!



 とりあえず抜け……、あ、無理だ。結構力強くやられちゃってるんですけど。

 おいおい! 寝たふりしてんじゃないだろうな!

 と一瞬思ったが、どうやらそうでもないみたいで、そうなると、起こすのもかわいそうだしと、ますます身動きが取れなくなる。



 え〜、あのまま無視した方がよかったの?

 でも流石にそれも酷でしょうよ!

 気づかなければよかったのか? と思うがもはや時すでに遅し。



 しかたない。

 眠りが深くなったタイミングを見計らって、こっそり抜け出そう。



 と思ったのだが。

 まあ案の定、お布団あったかいし寝心地いいしで、私もそのまますやすやと眠ってしまったわけで……。



 結果、翌朝柊生さんに起こされるまで、そのまま結局柊生さんのベッドで眠りこけてしまったのであった。



 そうして、最終的に「俺もヤマが隣で寝てくれた方が眠りが深くなるから助かる」と言う言葉に負けた私は、翌日から柊生さんのベッドで寝ることを余儀なくされたのであった……。



 ええ……、嘘やん……?





 ――――――――――――

 ちなみに、柊生さんの家のベッドはクイーンサイズです!

 二人で寝ても広々。

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