第12話 流れ流されてどうせいと
「えっ」
柊生さんち!?
いやいやいやいや! 何言ってんの!?
「大丈夫ですよ柊生さん! 私、ホテルでも取りますから!」
「三連休の週末のホテルで空いてるとこなんてないだろ」
た、確かに……。
今日は、明日から月曜日までの三連休が始まる金曜の夜だ。
どこも空いていないだろうし、空いていたとて高額で一泊にそんなに払うかどうか悩ましいところしか空いていないことは容易に想像できた。
「それに俺が嫌なんだよ。こんな状況でほっとけないし」
「う、うう……」
そうして二の句の告げなくなった私は、柊生さんの提案をありがたく受け入れ、荷物をまとめて柊生さんのお宅にお邪魔することとなったのだった。
折よくと言うかなんというか、たまたま車で来ていた柊生さんの車の助手席に乗せてもらい、走り出して少しした後。
私は、疲れのせいか――、それとも驚きで忘れかけていたお酒の影響か。
いつのまにか、運転する柊生さんの隣でぐっすりと眠りこけていたのだった。
――そうして。
ピピピピ、ピピピピ、と。
アラームが鳴り響く音が、どこか頭上から聞こえてくる。
「う、う〜〜〜ん……」
思わず、アラームを止めようと腕を伸ばそうとするが――。
なんだか、何かに遮られてうまく手が伸ばせない。
「む……?」
そうして、寝ぼけ眼をあけて今の状況を確認しようとすると。
またか!!!
またしても、見上げると目の前にすやすやと寝息を立てる柊生さんの寝顔があり!
今回もまた、いつのまにか柊生さんに抱きしめられたまま眠っていた私なのであり!
あああああああああ!!!!
ファンの皆様ごめんなさい!!!!
と思いながら、
「柊生さん! 朝です! 起きてください!」
と、アラームが鳴っても起きない柊生さんのほっぺたを、ぺしぺしと叩く。
「うぅ〜〜ん……」
ちょっ……! 柊生さあん!!!!
私が起こそうとすると、うなりながら更に強く抱きしめてくる柊生さんに心の中で叫び散らかしながら、起きろと念を込めて背中をばしばしと叩く。
「柊生さん、寝ぼけてないで起きて起きて!」
仕事でしょ!
「う……、あ……? ヤマ……?」
夢か……? と呟き、再び眠り落ちようとする柊生さんを私は揺り起こす。
「夢じゃないです! 仕事です、し・ご・と!」
嘘でしょ!?
この人いつもよくこんな感じで遅刻しないで来てたな!?
私がゆさゆさと柊生さんの体を揺さぶると、ようやく覚醒しだしたのか、昨夜のことを思い出したのか、ややいつもの柊生さんに戻ってきた様子で私に話しかけてくる。
「ああ……、そっか。昨日ヤマんちが漏水して……」
「それはいいですけど、今日仕事何時からですか? 今朝の6時ですけど」
早朝ロケではないことを祈りつつ、私が柊生さんに尋ねると、「7時に、迎えが来るはずだから……」と答えたので、どうやら遅刻にはならなそうなことに私はほっとする。
「あと5分したら起きるから……。もう少しこうしててもいいか……?」
こうして、というのはつまり、私を抱きしめたままの体制でということで。
「え……、ちょ、柊生さん!」
私が抗議の声をあげても、どうやらもう彼の中で決定事項となってしまったらしく。
私は、5分経ったら絶対起こそうと心に決め、そのまましばらくなすがままにされていたのであった。
◇
あれから。
宣言通り、5分経ったらきっちりと起き出してきた柊生さんが「シャワーを浴びてくる」と言ったので、私はその間に冷蔵庫にあったものを勝手にあさって簡単な朝食を用意した。
「……食べていいのか、これ」
「食べてもらうために作ったんで食べてください」
ご飯と味噌汁。
おかずはだし巻き卵と冷奴くらいしかできなかったが、何もないよりはマシだろう。
「……いただきます」
箸を持った柊生さんが手を合わせてそう言うと、汁椀を手に取りまずは味噌汁を一口啜る。
「……うまい」
「お口にあったならよかったです」
「ああ、ありがとな」
そう言って、朝食をとりながら、柊生さんは私に今日はどうするのかと尋ねてきた。
「とりあえず、一旦家に戻って、片付けしながら管理会社の人を待とうと思います」
「そうか。一緒に行ってやれなくてごめんな」
「いや、柊生さんは仕事してくださいよ」
泊めてもらえただけでも御の字なのに、これ以上仕事にまで支障をきたすわけにはいかないじゃないか!
「はぁ。ご馳走様。うまかった」
そろそろいかないと、と席を立つ柊生さんを、見送るべく私も立ち上がる。
「あ、そうだ」
玄関先でふと思い出したようにそう言い出した柊生さんが、ポケットから何かを取り出し、私に渡してきた。
「これ渡しとく。お前、今日はとりあえず一旦ここに帰ってこいよ」
合鍵持っていかないから、お前がこれで帰ってきてないと俺家入れないからな――と。
ちゃり、と渡された手のひらを見ると、そこには柊生さんの家の鍵(しかもマスターキーだよ!)が乗っかっておりました――。
「えっ、私こんなの受け取れない」
「そうでもしないと、お前そのままどっか他のとこ行く可能性高いだろ。じゃな、また夜に」
そう言うと柊生さんは、私のこめかみあたりのところにちゅ、と軽くキスをし、そのまま家を出ていった。
え……。
ええええええええええええ!?!?
友達のお付き合い……、じゃないでしょこれは!?!?
そう思いながら私は、へたりと玄関の床に腰砕けになって沈み込んだのだった。
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