ごみ袋

 電柱の明かりがまたたいていた。その電球におびただしい羽虫が集る。その音が不愉快だった。

 自転車でコンビニエンスストアに向かう途中で、とても嫌なものを見た。明滅する光の下に、黒い何かが横たわっている。濡れた羽根を散らしたそれは、鴉の死骸だった。そのむくろに多くの蠅が引き寄せられているのだ。

 目立った外傷はなかったから、病気か何かで死んだのかもしれない。何にせよ、見ていて気持ちの良いものではなかった。すぐに目を逸らし、ペダルを漕いでその場を通り過ぎようとした

 耳朶じだに無理やり何かを引き伸ばす音が触れた。

 再び目を戻すと、電柱の光が照らす範囲に何かが入ろうとしていた。アスファルトに腐った液体の尾を引いているのは、黒いごみ袋に見えた。ビニールの質感が光沢を帯び、上部に乱雑な結び目がある。ゆっくりと伸縮を繰り返し、そのたびに耳障りな音を立てる。

 最初は野良猫でも紛れこんでいるのかと思った。ただ、一抱えはあるごみ袋を小動物が動かせるとは考えにくい。何より一部が突出しているのではなく、黒い袋全体が蠕動ぜんどうしていた。

 その正体を測りかねて、自転車のサドルにまたがったまま呑気に様子を眺めていた。楕円形に伸びたごみ袋が鴉の死骸の前まで辿り着くと、その黒い輪郭が身震いをした。ビニールが内側から突き上げられ、やがて破れた。その隙間から二本の腕が現われ、虫が集る死体を鷲掴みにした。

 おそらくは頭部であろう部分が大口の形に歪み、腐肉に食らいついた。粘ついた咀嚼そしゃく音が鼓膜にこびりつく。あっという間にたいらげると、げっぷをした。

 あちらこちらが引き裂かれたごみ袋の中から、てんでばらばらに長い手足が生えた。破れ目の奥から剥き出しの眼球が覗き、こちらを直視した。

 ようやく危機本能が働き、全力で自転車を走らせた。その後ろから、何かが這いつくばって追いかけてくる。聞いたこともない粘着質な足音が、おぞましさに拍車をかけた。

 必死にペダルを漕いでいるにも関わらず、気配を引き離すことができなかった。自転車のライトが夜道を滑る。背中に腐臭が混じった吐息がかかりそうな気がした。

 家までの道中にある、川の土手に差しかかった。急ぐあまりに姿勢を崩し、転倒した。乗り手を残し、自転車が土手の斜面を滑り落ちていく。痛みを感じる時間すら惜しみ、背後を振り返った。暗い夜道には何もいない。

 土手の下で何かがひしゃげる音がした。見下ろせば、未だにタイヤが回ってライトが発光する自転車に黒い物体が取りついている。そのヘッドライトを、長い手が握り潰した。

 あれは光に反応する。そう直感した。叫び声をこらえてその場から静かに離れる。背後では、自転車のフレームが滅茶苦茶に折れ曲がる音が夜空に鳴り響いていた。

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