第2話

駅の住宅情報掲示板には、所狭しと物件情報が貼り出されている。


先述の通り、昨日までは家具付きの社宅に住んでいた。


つまり、空のアパートを契約すれば、家具を買い揃えなければ生活できないわけで、そんな蓄えを持ち合わせてはいない私は、家具付き物件が無いかと、隅々まで隈なくチェックしていた。


(安くて、家具付きで駅近…なんて無いかなぁ…)


掲示板をしらみ潰しに探していたその時、


べしょっ!


背中に違和感を感じて振り向くと


「あ!すみません!」


通行人の男性が持っていたアイスクリームが、私のカーディガンにべったりと着いた。


「うわぁ。ごめんなさい!クリーニング代払うよ。」


「いえ…お金は…」


「あ?そう?悪いね。」


「え?いや、え?」


軽い…軽すぎやしないか?

お金はいらないとは言った。

(言ってない?)

だからってそのまま立ち去るなんて!

(しかも駆け足で)


真っ白なカーディガンについたチョコレートのアイスクリームは、拭き取ってもしっかりと染みを残した。


「はぁ。」


ため息をついて駅のトイレに向かおうとした瞬間、閉めていたはずのリュックが開いていることに気がついた。


「え!?うそ!ど…泥棒!!!」


体から血の気がひいていく。

慌てて中身をかき回す様に確認すると、

やっぱり…

財布が入っていなーーーい!!!











「それでは、犯人が捕まりましたらご連絡させていただきますね。」

「よろしくお願いします!」


半ベソで最寄りの交番に届出を済ませてガラス戸を開けると、空から降る大粒の雨がアスファルトの地面を黒く塗りつぶしていた。



最悪。




お金もクレカも…そして、今夜寝泊まりする所さえない。


ポケットからスマホを取り出し、誰かに助けてもらおうと通話履歴を開いた瞬間、充電が切れて画面が消えた。


「私が何をしたっていうの!?」


幼い頃に父が亡くなり…母が再婚。

義父は短気で子ども嫌いだった。

毎日機嫌を損ねないように、

顔色を伺う子ども時代を過ごし、

大学卒業してようやく家を出た。


これからは自由な生活ができるんだと、

希望に満ちた気持ちで新社会人となった私に待ち受けていたのは、


御前様が当たり前の毎日。

休日出勤、

サービス残業

連日続いても上司に褒められることも

感謝されることもない。

それどころか、上司の曖昧な指示で1を100理解しなければならず、出来なければ誰かしらが暴言を吐かれ、肉体的にも精神的にも追い込まれた。

それでも無遅刻無欠勤で、人に後ろ指を刺されるような事をしたことも無い。


神様。私がいったい何をしたというのでしょう?!


あぁ…そうじゃない。神なんて、居ないのか。


降りしきる雨を凌ぐ為に駅中デパートのフードコートで無料のお茶を紙カップに注ぎ、ぼんやりとしていると、いよいよ閉店のアナウンスとともに、定番の「ホタルノヒカリ」が流れはじめた。

清掃員のおばさんが厄介そうにこちらをジロジロと見ながらモップを行ったり来たりさせることに耐えられなくなりデパートの外に出ると、いくあてもなく歩き始めた私を、雨が無情にも肩を濡らす。

あんまりだ。最悪。無慈悲。惨めすぎるよ。


「はぁ。どこでもいいから、こんな私を受け入れてくれる所…無いよなぁ…」


いや…

ある!昼間みたあのポスター!


文房具屋の電柱に貼られてあった「異世界移住者募集中。」の張り紙を思い出すと、藁にもすがる思いで、文具店に向かった

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