異世界移住者募集中!?
@momotasaya
第1話
「異世界移住者募集中。あなたの適正な居場所を提供いたします。 店主」
何の変哲もない、昔からありそうな古びた文具店の店先にある電柱に、手書きで書かれた張り紙が貼られてあるのがたまたま目に入った私は、通り過ぎながら頭の中で呟いた。
「異世界移住…ねぇ。」
失業したての私(湯谷 稀星:ゆのやきほ)は今まさに、引越し先に迷っていた。
3年我慢して我慢して働いた会社に見切りをつけて、昨日付で退社したのだ。
退職願を出した時に上司が見せた歪んだ笑顔。しばらく忘れられそうにない。
家具付きの社宅に住んでいたおかげで、引越し準備は簡単。箪笥の中の服を段ボールとリュックにかたっぱしから詰めるだけで済んだ。
厳格な義父(母の再婚相手)のことだ。仕事をたったの3年で辞めたなどと言って実家に帰れば、何を言われるかは想像がつく。
つまり。私には行く当てがない。
(はぁ。就活…面倒いなぁ)
溜息とともに酷く肩を落としていると、背後から気配を感じた。
「不満だらけですって顔だな。」
「はい?!」
突然、後ろから声が聞こえて振り向くと、そこには無精髭を生やした推定年齢30代後半の男性がタバコを咥えながら文具店のドアにもたれかかっていた。
「えっと…」
「あぁ。俺?俺はこの店の店主。猪狩 元(いかりはじめ)だ。張り紙にある通り、副業もやっている。」
厄介そうなのに絡まれた…と、内心思いつつ、人を無視するスキルが無い私は、話を合わせる様に返事をした。
「異世界移住…不動産関係のお仕事ですか?」
「まあ。簡単に言うとそうだな。見たところ、行く宛に困ってる様だ。どう?異世界移住。」
「あの〜…つまり、現実離れした絶景の田舎暮らし…みたいな事ですか?」
「田舎ね。まあそうとも言うかな?職種はこちらで適正を見て決めさせてもらう。」
あ…ブラック企業の臭いしかしない。
「ま…間に合ってます〜…」
逃げる様に立ち去る私の後ろから、猪狩さんは大声で叫んだ。
「行き先がみつかんなかったらいつでも来いよ!家賃、光熱費無料の家具付き物件完備。3食昼寝付き!待ってるぞ!」
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