その3 巨魁な、果てしなく滔々と流れる深淵
小松左京さんの「日本沈没」は、70年代に大ベストセラーになって、何度か映画化された。この小説が典型的だが、小松さんのSFは視座が雄大で、人類とは?宇宙とは?文明とは?…のような根源的なテーマにじかに斬りこんでいくという、マクロで全体的総合的なイメージ?が中心的なセールスポイントだと思う。
あんまり何でもありなので、「以下、エンサイクロペディアブリタニカに続く、としたらいいね」とか揶揄されたりもしていたくらいに情報量がすごいという印象でした。
あまりいい読者ではなくて、たくさんある大長編は難しいのでななめ読みしかしていないし、膨大な作品群の、ほんの一端にしか触れていないと思う。
が、富士山がないと日本という国がどうもしっくり統一できないとかそんな感じに小松左京さん抜きでは日本SFも、(いや日本という国も?)完全形にならないという、そういう大きな存在だった。
解説でヨイショしているみたいになったがw、「人類の進歩と調和」がテーマの1970年の大阪万博の総合プロデューサーをしていたことに象徴されるように、高度成長期前後の「科学技術の進歩による日本と人類の躍進、バラ色の未来」を皆が信じていた時代の、小松左京はホープ、旗手、そういう存在だったと思う。
文庫本にはだいたい解説があるから、いろんな人の「小松論」を、併せて読んだが、「日常の些末ないざこざを排して、共に理想的な叡智と幸福、コンピュートピアを目指そう、そういう風に熱っぽく語りかけるのは小松左京を置いてない」とか、「彼は思想においてはかなり左翼だが、それでも衆愚を嫌うところがある」とか、いろいろと、世界連邦の理想を掲げて講演活動していたHGウェルズさながらの、左京さんの人柄や思想は、きわめて「意識高い系」で、理想的なオピニオンリーダーというか、良識の持ち主だったんだと思う。
「科学、理知というのは”明るい”ものなんだよ」と、何かの本で「これが一番大事なこと」みたいに大書なされていた。どこまでも前向きで、自由闊達、おおらか、そういうのは関西人ならではの美質と思う。堺屋太一という方にも通じる感じかな?
が、晩年の小松さんは、なんというか不遇というか?わりと陰気に隅っこに追いやられていたような印象もある。テレビで観ていて、「このおじいさんは誰やろ?」と思っていて、「小松左京」と、文字が出たので、「え~様変わりなされたなあ~」とか驚いたこともあった。
最近、遺作だった「虚無回廊」の紹介をしている番組があって、遺作とはいえ「虚無回廊」とはなんて”クライ”タイトル…よほど落ち込んでおられたのか?と、なんか胸が痛くなるような感じがした。
極端な左翼というか、わりと空想的共産主義みたいな思想の理想家肌の人、ルソーとか、トアスモアとか、サルトルとか?は、割と社会から嫌われて、冷遇されていったというような、漠然とした印象があります。
大衆とか一般社会から理解されにくい、そういう大所高所から総括的に合理的に発想をするタイプ?もしかしたら中曽根康弘さんとかもそうだったのかとか思いますが、世の中から嫌われても、小松左京さん、あるいは大江健三郎さんらの、高潔で高邁な理想、日本の良心の体現?全然門外漢ですが、そういう文壇やら論壇やらのなんというかリーダーシップやら監視機能そういうのがどうも最近は流行らん?蔑ろ?すたってきている感じもあります。漠然としすぎてますが。
そういう「大問題」は別としても、小松さんのセンスオヴワンダー溢れる様々な作品にはすごく愛着やら郷愁を覚えるものが多い。
「オフー」には心底驚いたし、「アメリカの壁」ではポリティカルフィクションの醍醐味を知った。
今、SFめいたいろいろな小説を書いていて、ユニークなありうべき自分だけの作品、を追い求め、日々精進していますが、やはり自分の中に、小松さんや愛読したSF作家諸氏、過去の多くの作家のエートスや様々な準拠枠?は脈々と生きていて、ことあるごとに想起して、参考にして、背中を後押ししてもらっているような具合です。
わたしとSFの出会ったころ 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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