その2 ホワイトホールにしてブラックホールの新しい天体


 小学校か、中学校くらいの頃に、日本SFのまあ”草分け”と言われている、星新一さんのショートショートを初めて読んだ。


 「ようこそ地球さん」という、最初期の作品を集めた文庫本で、「これがSFのショートショートというものか!」と、ご多分に漏れず一種の衝撃を受けたような感じで、いっぺんにファンになった。


 だから、あまりにも斬新な、novelすぎる小説ノベルに思えたのです。形式も内容も、語り口その他、田舎の子供にはおしゃれすぎるモダンなものに思えた。


 核戦争で地球が滅ぶ、なんていう描写がさらっと出てきたり、ロボットやら宇宙人も日常茶飯。未来に飛んだり過去に飛んだり、縦横無尽、自由自在。


 で、今は自分もSFぽいショートショートが多いが、やはり童貞を破られた?星新一さんの影響は大きいかもです。


 それまでは、日本の近代小説とかしか読んだことがなくて、泥臭い心理描写、情景描写を積み重ねていくのが小説という先入観念、固定観念があったが、「こういう風にアイデアの骨組みをそのまま放り出すような書き方があったのか…しかもずっと面白いし深い…」と、目からうろこが落ちた。


 1001篇ほどの星さんのショートショートはまあ、同工異曲でだんだんマンネリになっている感じもなくなくて、「発明後のパターン」という短編で、筒井さんがチョロッと嗤っていたりもする。


 が、寓話というのか、物事の本質を短い小話で鋭く抉り出す?そういう小気味よさ?不思議な洞察力は、他の作家の追随を許さない感じあります。


 例えば、「おーい。でてこーい」は、公害問題を予見した作品と言われるらしいが、本人はまったく無意識だったらしい。「声の網」はネット社会の先駆けとも言われるが、もう40年以上前の作品。「こびと」という作品には社会的ないじめやスケープゴートを欲しがる大衆の残虐さが活写されている。これも予言的だ。


 本質を見抜く感性、センスの鋭敏さ、透徹した理知ゆえに、結果的に予言的な作品となる。「なんだかどこかがおかしい」とか、社会や人間というものに付随、瀰漫する漠然とした矛盾や問題点、不安、成員が共通に抱いているそういうものを眼光鋭く見抜いて、掬いだして、エスプリやら奇想に富んだ物語に仕上げる…その手際は見事で、唯一無二の職人技…星さんのショートショートは、SFという現代文芸の最先端のジャンルの可能性とか美点、そういうものを典型的に結実させていて、当時に社会現象になるほどにブームになったのもむべなるかな。


 数多ある彼の作品中で、ボクが好きなのは、「マイ国家」かな?普通のSFではなくて、少し怖い不条理演劇風の、残酷譚?なのですが、リアルで、いかにも荒唐無稽なのに、いかにも真に迫っていて、そういううらはらな不思議なtasteが、異彩を放っていて、いまだに印象深いです。


 星さんの著作もいろいろ多岐にわたっていて、「進化したサルたち」とか、「気まぐれ暦」とかのエッセイ集も小説を凌ぐくらいに面白い。ボクは、エッセイ集のほうをむしろ熟読玩味したほうです。


 近年に最相葉月さんの、詳しい評伝が刊行されて、晩年のがん闘病とかいろいろと星さんの生涯についての周辺のこまごまとしたトリヴィアを知りましたが、やはり、「天馬空を行く」星さんといえどもエッセイや人を食ったストーリーのひょうひょうとした仮面のようには物事は苦労無しに運んだわけではなくて?現実にはずいぶん苦労も多かったんだなあ、と思った。


 しかし、そういう辛酸舐め子の、厳しい現実があったからこそ、ああいうユートピアのような、地獄のような?しかしややこしい人間関係だけは捨象されているheavenlyな作品群、星新一ワールド、が完成されていったのかと思います。

 

 禍福は糾える縄の如し。

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