06. レインボー

 プレーヤーは僕、ジーク、カインズ、リッツ、モーテルの五名。

 ジークはというと、とんでもなく弱かった。


 こちらが強いハンドで強めに賭けても、少しの勝機があればついてくるし、大きく負けるとセオリーから外れた手札で参加してきたりしていた。


 そんな無茶な戦い方をしていれば、負けが込むのも納得だ。

 そうして二時間ぐらい過ぎたところで、ジークは僕に対して今まで負けた分を取り返すかのように大金を賭けてきた。


「あっはっはっはっはっは。レイズに乗っかっちまったなーレインさんよ。こちとら手札と増援を合わせて十二と十一のスリーツーだぁ! どうだ参ったか」


 脳内麻薬でハイになっているのか、ジークは鼻高々に僕を煽りだした。

 ジークが開いた手は緑と黒の十二、それと黒の十一。


 増援には赤の七、赤の十一、青の十二が並んでいる。ジークの手はポーカーでいうところのフルハウスに相当する役だった。

 ジークには悪いが、こちらの手札はそれよりも強い役ができている。


「ごめん、団長。こっちは七の四枚レインボーだ」

「はあああぁぁぁああ!?」


 ジークがテーブルに身を乗り出し、目を白黒させながら僕の手札をのぞき込む。


「お……おま……おま……」


 ジークは唇をわなわなと震えさせ、狼狽えた様子で僕を見た。


「おい! なんで最初の増援で七が開かれたのに、賭けずにチェックしたんだ! レインボーだぞ? 負けない手でどうしてチェックしたんだ!」


 同じ言葉を二度繰り返している。

 チェックしたことが、よほど気に食わなかったらしい。


「そうすれば、団長の方から打ち込んでくれるかなぁと」


 実際、その通りになった。

 二枚の増援が開かれた最初のフェーズでチェックをすると、十一がペアになったからか、ジークは高めのベットを繰り出してきた。


 完全に狙い通りの展開。

 そのときの僕はレイズをせずに、大人しくコールで受けた。

 そうして迎えた、次のフェーズ。


 増援の三枚目のカードとエネミーが開かれ、ジークのベットに三倍近いレイズを仕掛けると、ジークはさらに三倍の額でリレイズを返してきた。

 結果、ポットの額は二万に膨れ、かなりの大金になってしまった。


「小細工をしやがってえぇえええええ!」


 ジークはそう言うが、ただのスロープレイで細工は一切していない。


「ま、まだだ。残りのエネミーが緑ならレインはトリップスに落ちる」

「緑が揃ったら、団長はただのダブルペアになるけど……」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……」


 ジークの手に絡んでいない赤がエネミーに開かれていたら、まだ望みはあっただろう。


「こりゃあ、どう転んでも団長の負けだねぇ」


 膨れ上がったポットの動向を静かに見守っていたリッツがぽつりと言った。


「どうしてスリーツーで降りなきゃいけないんだよ!」


 そういうゲームだから仕方ないが、何を言っても嫌味にしかならないので黙っておく。


「あーもう、やめだやめだ」


 ジークがガタンと音を鳴らして席を立つ。


「団長室に戻る!」

「あ、団長!」


 テーブルにはジークのお金が残っている。

 ジークは僕の呼び止めを無視して、不機嫌そうに食堂を出て行ってしまった。


「いつも通りだ、レイン。気にすんなさ」

 リッツが苦笑しながら、僕の肩をたたく。

「しっかし、レインボーが揃うか」

 僕の前に置かれた三枚の七を見て、リッツが感嘆したように言った。


「ただのビギナーズラックですよ」

「それにしては、なかなか手強く感じたけどなあ」

「じゃな。なかなか手強かったわい」


 リッツの言葉にカインズが同意する。

 それについては、ポーカーの経験がそこそこあったからこそだ。


「この残ったお金、団長に渡してきます」

「今はへそを曲げてるって。やめとけやめとけ」


 リッツは手をひらひらさせて、呆れたように言った。

 これからジークに僕のことを打ち明けないといけないというのに、それでは困る。


「いや、行ってきます」


 ジークが忘れていったお金は封筒に入れ、自分のお金はポケットに仕舞い込んだ。


「そこまで言うなら止めないけどさ」

 リッツが他のメンバーに目配せする。

「今日のところはこれで解散かな。また参加してよ」

「ええ、是非に」


 僕は他のメンバーに軽く挨拶を済ませ、急いでジークを追いかけた。

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