08:フォーカードと違う道

「ああ、そうだ。レイン」


 船に戻る途中、一人で黙って考え込んでいると、ジークが話しかけてきた。


「レインの所属だが、魔法部隊でいいか?」

「魔法はほとんど素人で……」


 正直に答えると、ジークは怪訝な顔をして立ち止まった。


「シャーテが知らない魔法を使うのにか」

「魔法陣をいくつか覚えているぐらいで、詠唱魔法は覚えてないんだ」


 状況に合った魔法を使うことに期待されても、今の僕は何もできない。


「レインの適性はどんな感じなんだ」


 僕の返答に首をかしげたジークがシャーテに問う。


「んー、マナ量はちょっと少なめかな。才能の限界を見極めるのは難しいけど、マナの巡りは良いようだから、伸びしろはあると思うん……だけど……」


 僕を見つめるシャーテの声が尻すぼみになっていく。


「どうかしたのか?」

「ううん、なんでもない。総合してそれなりってところかな」


 どう見ても意味深な反応をしていたが、何かあるのだろうか。


「それなら、魔法部隊でいいな」

「へ?」


 どうしてそんな結論になるんだ。


「さっき言ったとおり、詠唱魔法は全然なんだけど」

「学べばいいじゃないか。教えられる奴だっているしな」


 さらりと。ジークは軽い口調で言う。


「ルーシーが教えたい」

「それがいい。レインに魔法を教えてやってくれ」


 ジークの意図がわからない。

 呪いだ何だのと舌の根も乾かぬうちに、魔法を他人に学ばせようとはどういう心づもりなのだろうか。


「どうして僕を魔法部隊に?」

「昨日の出来事を思うと、魔法部隊を補強したくてな。シャーテが驚く魔法を使うぐらいだし、少なからず心得はあるんだろう?」


 ないと言いたいところだが、地面に描いたものは何だという話にしかならないので口籠もる。


「嫌なら強制はしないけどな。どうする?」


 どうすると言われてもな。

 特に断る理由もないが……。


 だが、こんな生半可な気持ちで、ルーシーから教えを請うていいのだろうか。

 黙って考える。

 この世界がなんなのかという疑問に対して、フォーカードとの食い違いを探れば、糸口となって見えてくることが多いだろう。


 その中心となるハイドルクは魔法大国だ。

 魔法のことを学んでいけば、その糸口に近づくことができるんじゃなかろうか。


 それに、剣術だって今の僕がまともに扱えるかどうか怪しい。

 それなら、いっそのこと一から学べる魔術師に転向してもいいだろう。


「わかった。やってみるよ」


 僕――レイン自身もまた、フォーカードの話とは異なる道を歩みつつあった。

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