11:中級魔術を……

 魔法の練習は、絵を描く練習に似ている。

 地道に何度も繰り返し、想いを形にする。二つに共通することだ。


 昔から、何かに打ち込むことは好きだった。僕が漫画家になれたのは、この地道な作業というものを苦に感じなかったからだろう。

 魔法も同じようにコツコツと上達していけばいい。そう思っていたのだが……。


「上手くいきすぎだろ!」


 辺りには球や三角柱といった土塊が無数並んでいる。

 これらは僕が作ったものだ。


 練習を始めて半日。

 強弱を付けるだけでなく、形まで変えることができるまで上達してしまった。


 ルーシーからは魔法はイメージが一番大事だと言っていた。それを思うと、漫画ばかり描き続けてきた僕とは相性がいいのかもしれない。

 ここまでできるなら、劇中にある魔法を試したくなってきた。


 魔法の分類は大きく分けて上級、中級、初級の三つがあり、位が高いほど会得難易度が高い。ルーシーから教わったグランプは劇中に出てこない魔法だが、さらりとできてしまったことから初級魔法だろう。


 いっそのこと初級じゃなくて、試しに中級を使ってみるか。

 問題は何を使うか、だけど。

 中級魔法といえば、劇中で登場した魔法の中で一番種類が多い。故に作者の僕でさえもどんな詠唱呪文だったか忘れているものもあり、それぐらい選択肢が多かった。


「やるなら、格好いい魔法がいいな。地味なのを使っても爽快感がなさそうだし」


 ひとりごちて、紙に描いてきた数々の魔法を思い返していく。

 会得難易度のほかに、魔法は属性でも分類されている。


 火、水、土、風、雷、聖、闇、無の八つ。


 火属性魔法には派手なものが多いが、ここらで使ったら草木に引火して火事になりかねない。雷は魔法陣で使ったし、土はグランプで飽きるほど使った。


 闇の中級魔法は劇中に登場していないので分からないし、残る属性といえば水、風、聖、無の四つだが、聖と無は補助魔法が中心で、風は上級以外ひどく地味だ。


 というわけで、消去法によって使う魔法の属性は決まった。

 水属性の魔法を考えたとき、特に悩むことなく一つの魔法が頭に浮かぶ。


 アイシクルソーン。


 鋭い氷の棘をいくつも生み出す魔法で、レイエラが好んで使った魔法だ。高い殺傷能力を持ちながら、氷の棘を罠や盾として使うこともできるので汎用性も高い。


 どんなタイミングで使うかを描いてきたこともあり、習得すればこの上ない武器になるだろう。それに、魔法の発動にイメージが大切ならば、この魔法は何度も描いてきているので丁度いいはず。


「……よし」


 気合いは十分。マナに意識を向け、記憶にある詠唱呪文をそらんじる。


「柳は緑、花は紅、垂氷の彩は蒼翠より蒼し。アイシクルソーン!」


 少し羞恥心を感じながら唱え終え、術式とマナがつながる感覚を覚えた瞬間。

 バチリ、と。

 視界がフラッシュを焚かれたみたいに閃光し、その直後に目の前が暗くなった。

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