08:敵襲
「状況を報告しろ!」
鐘が止んだと同時に、僕らの後ろにあった伝声管に向かってジークが叫ぶ。
『四時の方向から、中型艇の
「相手からの信号はあるか」
『こちらから送ってはいるが、返事がない。おそらくフランコフの奴らだ』
フランコフって……、さっきのエルフ狩りの奴らだよな?
「リッツとシュードは?」
『ああ、さっき船に乗り込んだのを確認した』
「そういうことなら、フランコフの奴らで間違いないな」
僕の身柄の取り引きは円満だったはず。
それがどうして、僕らを追ってきているのか。
そのままジークの言葉を待っていると、
「想定よりだいぶ早いじゃないか」
と言って、愉快そうにケラケラ笑い出した。
察するに、ジークは奴らに何かをしたのだろう。
笑い続けるジークを訝しげに見ていると、彼女は肩をすくめた。
「おいおい、レイン。団長に向かってなんだその目は」
……ちょっと、鎌をかけてみるか。
「僕の事を高い買い物だった、みたいなこと言ってなかったっけ」
「まあまあ、敵を騙すにはまず味方からって言うだろう? あのぐらいの金なら払っても良かったんだが、あいつらに渡るのは癪でな」
バシバシと僕の肩を叩き、ジークはさらに声を上げて笑った。
ハメられた……。
つまり、あの渡した金は偽物だったか渡した後に盗んだのだろう。
今までの会話から察するに、後者とみていいか。
ジークはひとしきり笑った後、スッと表情を引き締めた。
「お前ら、敵襲だ。これから離陸し、交戦体制に入る。準備のち各自点子!」
ジークのかけ声一つで、団員達が一斉に動き出す。
気づけば隣に居たルーシーもおらず、慌ただしく動いている団員の邪魔にならないよう僕はその場に突っ立っていた。
特にジークから細かい指示は出ていないのだが、自分のすべきことに心得があるのだろう。ある者は武器を取り、別の者は船内に向かって駆け出していた。
その動きはバラバラなようでいて、統率が取れている。それも、老若男女のみならず人種、種族が異なっている者たちがめまぐるしく動いている。
そんな異世界情緒漂う様子を眺めていると、地鳴りがして船が大きく揺れた。
そういえばジークが離陸すると言っていたっけか。
彼らの邪魔をしないよう、ゆっくりと船の
「凄い……」
この飛行船は現実の飛行船と異なり、巨大な船の形をしている。
そんな巨体な異形が、滑走もなしに軽々と宙に浮かび上がっていた。
「ウチの船が珍しいのはわかるが、離着陸の時はそこから離れろ。団長命令だ」
ジークに腕を引っ張られ、縁から引き剥がされる。
そのまま僕はジークに引っ張られ続け、開けた場所へと連れて行かれた。
「コイツを持て」
「これは?」
ジークから渡されたのは、鞘に収まった長剣だった。
「自分の身は自分で守って貰わねぇと。一番恨まれているのはお前さんだからな」
「あー……」
困った。
何かあったらこれで戦えということなのだろう。が、無理だと言いたい。
「問題だったか? その鍛え方からして、レインは剣を使ってると思ったんだがな」
ジークの見立ては正しい。正しいのだが、それは半分正解といったところだ。
今のレインは僕であり、剣なんて握った試しがない。
「えーっと、剣の使い方も忘れちゃって……」
完全に困ったときの免罪符になっているな。
「剣は知識じゃなく技能だ。考えながら剣を振るってる奴は三流だぞ。レインは一人で十一人も
「そうなんだろうけど、自分がどの程度かわからないから自信が無くて」
言っていることは嘘ではない。
「仕方ないな。今回だけは俺様のそばに居ろ」
「わかった」
端から見れば年下の女の子に守ってもらっている絵面だが、仕方ない。
ジークは団長を務めているだけあって、腕はかなり立つ。
「だが、念のためそいつは持っておけ。いいな」
万が一の時があったら、この剣を使って戦えということだろう。
そうならないことを祈りたいが、いかんせん僕が漫画で描いていない場面なので、何が起こるのかわからない。
初めて触れる剣は、自分の命を預けている事もあって、ずしりと重く感じられた。
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