02:気付けば異世界
「……っ!?」
目が覚めるとひどい頭痛に襲われた。
額に手を当てようとするも、なぜか手が動かない。足もだ。
下を見ると、僕は着たことのない服を着せられ、椅子に座らされていた。
しかも、手は後ろで縄のようなもので縛られ、足も椅子の脚と一緒にきつく縛り付けられている。
僕は刺されたはず。それで、どうしてこうなっている?
状況に理解がまったく追いつかない。
「
混乱の最中、急に声を掛けられて、はっとする。
「
顔を上げると、石造りの部屋の中で屈強そうな男が僕のことを睨みつけていた。黒髪だがぱっと見で日本人っぽく見えず、何語を話しているんだ? と思ったが、なぜだろう。
彼が話していることが理解できる。
「
そして、僕がスッと口にした言葉もなぜか、日本語ではなかった。
それに、喉を突いて出た声は、なんだかいつもより少し低い。
「何の話だ? ってそらないだ、ろっ」
勢いよく腹を蹴り飛ばされて、僕は為す術なく椅子と共に横向きに倒れる。
が、何か変だ。
椅子ごと吹っ飛ぶほどの蹴りだったというのに、不思議とそこまで痛くない。
しかし、蹴られる理由がまったくわからないので、僕は足下から男を睨みつけた。
「何だその目は」
睨みつけたのが気に食わなかったのか、今度はボールみたいに顔面を蹴られた。
椅子に括り付けられてるので、仰け反って勢いを殺すことも出来ず、まともに受けてしまった。
さすがにこれは効いた。鼻血も出てるんじゃないかと思う。
「おっと、死なれても困るから、キュールで治る程度にしないとな。ここに一人で乗り込んできた目的や所属を洗いざらい吐いてから死んで貰わねーと」
「今なんて言った?」
この男は確かにキュールと言った。
キュールはフォーカードに出てくる己のマナを使った治癒魔法だ。
いわば僕の造語である。
「お前には全部ゲロってから死んで貰う」
男は顔を顰め、吐き捨てるように言った。
「その前だ」
「あ? キュールで治る程度に痛み付けることか? 楽に逝けなくてビビったか」
僕は鼻で笑った。が、みっともなく鼻血が吹き出た。
イかれてる。
結局、こいつも僕の漫画にケチを付けたいのか。
「そんなに気に食わないのか」
「たりめぇだ。テメェのせいで売り物のエルフを失ったどころか、テメェは俺の部下を十一人も殺したんだぞ」
「…………はい?」
何のことを言ってるんだろう。
作品でセレネを殺したことじゃなく? 十一人?
「今更とぼける気か」
ふざけてるのかと思ったが、青筋を立てるほど怒りを顕わにしているあたり、どうも真面目らしい。この男の言っていることの意味がわからなかったが、自分が置かれている状況も意味不明だ。
人違いで連れ去られた? とも思ったが変だ。
僕は確かに刺されたはず。それがどうしてこんな場所に手足を縛られているのか。
少なくともこうして意識がしっかりしている以上、生きてはいるらしい。
ナイフで腹部を刺されれば重傷だと思うのだが、なんとかなっているのだろうか。
傷の状態が気になるが、いかんせん縛られているので確認することもできない。
それに、僕とこの男の間で交わしている言語は何だ? 明らかに日本語じゃない。
訳のわからぬまま、石畳の上で椅子と一緒に倒れていると、部屋の扉が開いて一人の男が入ってきた。
「兄貴、敷地の外にちっこいエルフと男二人が来やした」
おいおい、こっちもか。
急にコントを始めないでくれ。
「寝ぼけてんのかおめぇ。のこのこウチんとこにエルフが来るかよ」
「いやいや、マジなんですって」
寝ぼけているのはお前らだと言いたいが、なにやら大真面目に盛り上がってる。
「そいつは女か」
「男っぽい格好をしていやしたが、女の子供っす」
「残りの男二人はどんなやつだ」
「残りは人族っす。丸腰じゃなさそうでした」
「こいつみたいに俺らを潰しに来たギルドの奴らかもな。エルフのガキがいるってんなら、仲間連れてそいつを捕らえろ。ガキなら男でも女でも足しにはなる」
「へい」
部下らしい男が去ると、部屋が急に静かになった。
兄貴と呼ばれた男は連絡を待っているのか、僕にかまうことなく沈黙し、僕はといえば相も変わらず椅子にくくりつけられた状態で床に倒れたままだ。
このまま一日経ってしまうんじゃないかと思っていると、男が突然舌打ちをした。
「俺も状況がわかってねぇが、のこのこやってきた奴らに感謝するんだな。といっても、少しばかり寿命が延びただけだがな」
男が僕を
ドゴン、と。
車でもぶつかったかのような音が響き、開いたままの扉から、何かがきりもみ回転しながら転がってきた。
一瞬のことだ。
それが壁にぶつかり、二度目の轟音が鳴り響く。
アッと驚く間もなく、何かが真横を通ったことに気づき、僕は安堵する。
少しでも僕の位置がずれていたら、僕はそれにぶつかっていただろう。
僕の横を掠めて、飛んできた何か。
それは、先ほど目の前の男を兄貴と呼んでいた男だった。
何が起きているのかさっぱりわからず動揺していると、
「おいおい、エルフがどうのって気色悪いぞ。ここの奴らは礼儀がなってないな」
場違いにも、女の子の声が聞こえてきた。
「よお、フランコフ。相変わらずダサい商売に手を染めてるみたいだな」
その声の主を見て、僕は言葉を失った。
僕が驚いた理由。それは目の前に現れた彼女が、空想の話にでてくるような金髪で長い耳をしたエルフの姿だったのもある。が、それ以上に驚いたことは――
「
フォーカードに登場する『ジーク』そのものだったからだ。
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