第98話 新メンバーと調教担当

 ムーニャが栞先輩に負け、ヒエラルキーが最下位になったことで、オレたちの溜飲はだいぶ下がった。さんざん、鈴や師匠に失礼なことを言ったやつを打ち負かしてスッキリしたというのが本音だ。

 まぁ、だからといって、ムーニャのことを虐げたり、コキ使ったりする気なんかはない。単純に、一泡吹かせてやったぜ、というだけの話だ。


 ムーニャのやつは、そんなオレたちの気持ちなんてつゆ知らず、師匠と桜先生の間に座り、師匠と話している。


「ねぇねぇ、イッシン、ムーニャの腕前どうだった?」


「おまえは油断しすぎだ。勝てる戦をそれで落としてる。自分でもわかってんだろ」


「そうだね。でも、相手の本気を見てから倒したいと思っちゃう。ムーニャの悪い癖」


「ダンジョンでは絶対やるなよ」


「はぁーい。あ、そうだ。今日からイッシンの家に泊めて」


「は? なんでだよ?」


「お金ない」


「……親に金送ってもらえよ」


「パパ、もうあげないって、イッシンに面倒見てもらえって」


「なんでだ……」


「……イッシンが泊めてくれないなら、ムーニャ、ホームレス。その辺のオジサンに援助してもらうしかない……」


「バカが。わかった。うちにこい」


「わぁーい」


 そんな感じだ。

 ん? あいつ、師匠の家に寝泊まりする気か? むむむ……


「というか、人間相手に結構な威力で雷撃出したわね? ムーニャのやつ、しばらく動けなかったし」


「そうですね。ちょっと腹が立ってしまって。反省してます」


 オレたちはというと、4人で円になって、さっきの戦いについて話し合っていた。


「でもでも、やっぱり栞ちゃんが手に入れたスキルすごかったね! 神器の力を引き出せるんだもん!」


「鳴神流の娘としては、刀で戦ってないので複雑な気持ちですが……はい、そうですね。ますます、この薙刀を手放せなくなってしまいました」


 栞先輩が手に入れたスキルは、《神器の使い手》というスキルだ。もちろん、池袋駅ダンジョンのボスを討伐した時に得たスキルである。


 《神器の使い手》を発動すると、ダンジョンから持ち帰った神器の本来の力を使えるようになる、とのことで、もともと持っていた薙刀の場合は、刃先から雷撃を出すことができるようになる。


「人間相手なら、ほぼ初見殺しですよね。打ち合って、電撃で硬直させたら勝ち確ですもん」


「ええ、そうですね。これも陸人くんがボスを引き留めてくれたから取得できた力です。ありがとうございます」


 ニッコリと微笑まれる。いつも通りの優しくて安心する笑顔だった。


「へへ、そんなそんな。栞先輩がトドメを刺してくれたからですよ~」


「……なにデレデレしてるの?」

「……なにデレデレしてんのよ?」


「は、はぁ? 別にしてねーし……」


「デレデレしてた。あと、初見殺しズルい。シオリはズルいやつ」


 いつの間にか、オレの後ろにムーニャが立っていた。


「なんだこいつ。一生失礼だな。栞先輩に謝れ」


「ムーニャも仲間に入れて欲しい」


「……まぁいいけど」


 腰を上げ、隣を開けると、ムーニャがそこに腰掛けてきた。5人で円を作る形になる。


「ムーニャも今日から仲間。よろしくね。仲良くして」


「あ、あー……うん……まぁ……よろしく……」


 〈仲良くして〉と言われ、正直、なんだコイツとは思う。さんざん、ひどい態度だったクセに。ま、でも、ちゃんと謝ってくれたしな。切り替えていこう。


「ゆあは、的場柚愛だよ! よろしくね! ムーニャ、さん?」


「よろしく。ムーニャでいい。ムーニャもユアって呼ぶ」


「じゃあ、ムーニャちゃん!」


「わたしは双葉鈴、鈴でいいわ」


「知ってる。スズは実は優しい子。この前はごめんなさい」


 ペコリとムーニャが頭を下げた。


「もういいわよ。別に気にしてないし。はい、栞、次どーぞ」


「私は鳴神栞です。鳴神流の一人娘で、父が引退した後は、鳴神流の師範になります。お見知り置きを」


 栞先輩の自己紹介はどこか圧を含んでいた。自分の立場をしっかりと理解させたい、というのが伝わってくる。


「師範? ムーニャより刀使えないのに?」


「……はい?」


 再び、栞先輩の頭に怒りマークが浮かぶ。全く笑っていない笑顔を浮かべて、ムーニャのことを見つめていた。


「おまえ、そのデリカシーのない発言どうにかならないのか? 栞先輩にも謝れよ。栞先輩がなにより大切にしてる流派のことだぞ?」


「そうなの? そっか。ムーニャ、他人の気持ちよくわからないから。ごめんなさい」


 オレが指摘したら、素直に頭を下げてくれた。


「リーダーには従うってわけね」

 と鈴。


「そう。ムーニャは約束守れる子」


「でしたら、ヒエラルキー最下位として、私の言うことも聞いてくだいね?」


 ニッコリと栞先輩が微笑む。


「……シオリ、コワイ……」


「おまえ以外には怖かったことなんてないけどな。で、最後にオレは咲守陸人、改めてよろしく」


「よろしく、まぁまぁ強いリクト。仕方がないから言うこと聞いてあげる。なんでも言うといい」


「なんだコイツ。じゃあ、とりあえず5人で連携訓練でもしてみるかー」


 オレが立ち上がると仲間たちも立ち上がった。


「いいよ。ムーニャが一番強いって分からせてあげる」


「だから、連携訓練だっつの。栞先輩、こいつのこと頼めますか?」


「いいですよ。厳しく躾けてあげます」


「コワイ……」


 そして、5人になったオレたちパーティは、初めての連携訓練をはじめた。

 訓練中も、ムーニャのやつが、あーだこーだと失礼なことを言っていたが、しばらくすると、栞先輩が釘を刺すと頭を下げる、という構図が出来上がった。ムーニャのやつは、すっかり栞先輩の電撃で調教されたらしい。

 

 なにはともあれ、ムーニャという強力な戦力を迎えることができたオレたちは、また一段と強くなったのであった。




=====================

【あとがき】

本作を読んでいただきありがとうございます♪

「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、あらすじの下にあるレビューから「★で称える」をいただけると助かります!


「もう一歩!」なら★

「頑張れ!」なら★★★


ブクマもいただけると泣いて喜びます!

なにとぞよろしくお願い致しますm(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る