第96話 決闘前日

 あのあと、鈴のやつは、ゆあちゃんたちに連行されて、どこかに消えていった。公園に一人残されたオレは、頭をポリポリとかいた後、自宅に戻ってきたわけだが、なんだか落ち着かなくて訓練場にこもっていた。

 裏庭の訓練場でアトムと戦闘訓練を行い、ひとしきり汗を流した後、そういえばと思い《クラス替え》スキルの画面を開いくことにした。


 今日のデート?の目的だった鈴の好感度はどうなったのか、気になったからだ。


 画面を操作し、双葉鈴の座席をタップする。すると、鈴のやつの好感度は無事、カンストしていた。


『んー? やっぱり、お互いの家族のことを話し合って、もっと信頼し合えたからかな?』と考え、プロテインを飲みながら、自分の部屋に戻ることにした。



 翌日、授業が終わって、学校の訓練場に向かうと、ちょうど準備運動が終わった師匠が話しかけてきた。


「よぉ、おまえら、どうだった?」


「どうだったって、なによ?」


「昨日の成果のことだ」


「成果? もしかして……こいつのスキルのこと言ってる?」


 鈴に親指で指を刺される。


「まぁそうだな」


「なにその聞き方、サイテー、この師匠にこの弟子ありって感じね」


「なんだおまえ、好感度カンストしたクセのにいつも通りだな。いや、まぁそれが鈴といえば鈴か」


「なによそれ……」


「お、なら上手くいったってことだな。さっそくステータス割り振るか。決闘は明日だしよ。さっさと慣らし運転しとかねぇと間に合わねぇぞ」


「たしかに! 了解です!」


 オレは、嬉々として《クラス替え》スキルの画面を開く。隣に師匠がやってきて、このステータスがどうだとか、あーだこーだと話し出した。オレは、その話に集中することにした。


 そんなオレたちを遠目に眺める女子たち。


「……ねぇ、あれどう思う? わたしのこと、なんだと思ってるわけ? ボーナスポイントが貰えるレアモンスターだとでも思ってるんじゃない?」


「鈴ちゃんの気持ちはよーくわかる。ゆあだって、似たような感じだったから。ひどいよね!」


「乙女心を弄んでますよね。処した方がいいでしょうか?」


「栞、あんた……ヤンデレとかにならないわよね?」


「え? ヤンデレってなんですか?」


「……まぁいいわ」


「うふふ、なんだかいつも通りに振る舞ってますけど、陸人くんの唇を奪おうとしたこと、忘れてませんからね?」


「そそ!そんなことしてないわよ!」


「あ! そうだ! そのことについて、もう一度、鈴ちゃんを裁判にかけたいと思います! ゆあは有罪だと思います!」


「なんでよ! 無罪を主張するわ!」


「鈴ちゃんがムードに流されやすい子だってことはわかりました。でも、抜け駆けしようとしたことは別です。しっかり、話し合いましょうね。はい、ここに座って?」


「うっ……」


 遠くで、女子たちがワイワイ騒いでいるが、オレは自分のステータスに夢中だった。というか、みんなも師匠の話を聞けばいいのに。おもしろいぞぉ?


「でだ、咲守」


「はい!」


「今の話をまとめると、こんな感じでどうだ?」


―――――――――――――――――――

氏名:咲守陸人(さきもりりくと)

年齢:15歳

性別:男

役職:学級委員

所有スキル:クラス替え

攻撃力:76 ⇒ 77(A- ⇒ A-)

防御力:68(B+)

持久力:102(S-)

素早さ:95 ⇒ 100(A+ ⇒ S-)

見切り:85⇒ 90(A ⇒ A+)

魔力:1(E-)

精神力:92(A)

統率力:476(D)

総合評価:A- ⇒ A-

―――――――――――――――――――


「やっぱり、ムーニャに勝つには、見切りが重要ってことですね?」


「だな、あとは素早さだろう。もうちょいだったからよ。これでムーニャと同等になんだろ」


「ふむふむ」


 師匠の提案は、見切りに5ポイント、素早さに5ポイント、攻撃力に1ポイントだった。

 ちなみに、鈴の好感度がカンストする前にあった3ポイントは、デートの前の時点で素早さに割り振り済みだ。そのステータスで師匠と模擬戦を行い、「これじゃあムーニャに勝てねぇ」と言われたので、桜先生たちがデートに協力してくれた、というのが事の顛末である。


「まずおまえ、俺とムーニャが戦ったとき、ムーニャの動き、ギリギリでしか追えてなかっただろ」


「はい……お恥ずかしながら」


「それは自分があのスピードで動けてないからだ。少しの差だがな」


「なるほど。だから、ムーニャと同程度のスピードを手に入れるために、素早さにポイントを振る、ということですね?」


「ああ、それと見切りについては、池袋駅ダンジョンのときと同じだな」


「熟練の武道家と戦うには必須のステータスですもんね。これを上げたおかげで鎧武者の居合いも止めれましたし」


「ああ、ま、これでやっと勝率7割って感じだな」


「マジすか……あいつ、めっちゃ強いんですね……そういえば、ムーニャってスキルホルダーじゃないですよね?」


「ああ、ダンジョン踏破者ではないから違うはずだ。おまえや双葉のような特殊ケースだった場合、俺は把握してないがな」


「そっか。オレたちみたいなケースもありうるのか……」


 だとしたら、あの強さも納得だ。勝った後に聞いてみるとしよう。


「ま、スキルホルダーじゃなかったとしても、ムーニャのやつはもともと剣の才能がずば抜けていたからな。才能だけで言えば、今まで会った中で頭何個ぶんも頭抜けてやがる」


「なんか悔しいっす……」


「……根性なら、おまえも負けてねーよ。よっと、さっさと割り振って慣らし運転するぞ」


 師匠が言いながら立ち上がった。励ましてくれたのだろうか? よく見ると、少し照れくさそうにしてるので、笑いそうになってしまった。オレは、咳払いして笑うのこを堪え、ステータスポイントの割り振りを完了させた。

 よし! これで準備は整った! あとは身体にステータスを慣らさせて明日の決闘に臨むだけだ!

 そう考えて、剣を握ったのだった。

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