第93話 女の子に服を選んでもらうのは楽しい
鈴に連れられて、洋服店がたくさんあるビルへと入店した。一階のお店を見渡すと、この階は財布などの小物がメインだということがわかる。
2人でエスカレーターの傍までやってきて、案内図を見ながら、どの階に行くか話し合った。
「んー、インタビュー用ってことは、あんまり派手なのは良く無いわよね?」
「そういうものか?」
「そりゃそうでしょ。清潔感があって、しっかりしてる雰囲気が出てればいいんじゃない? てことで、無難なのはジャケットじゃないかしら?」
「ふむふむ?」
「てことで、6階に行くわよ~」
「あいあい」
鈴に言われるがまま、エスカレーターに乗って6階まで上がる。そして、適当にフォーマルな雰囲気のお店を見つけて、服を物色しはじめた。
「ん~、あんたの顔だと濃いめの色がいいかしらね~?」
鈴が2枚のジャケットを手に取り、オレの身体に合わせる。グレーと紺色だ。
「そういうもんなのか?」
「ま、好みもあるけどね。ちょっとコレ待って」
「あいあい」
ジャケット2枚を受け取って胸に当てる。
鈴は少し離れて、「うーん」と唸っていた。
「ま、普通ね」
「さいですか」
「なによ? 興味なさそうね? せっかく選んであげてるんだけど?」
「あん?」
まぁ、実際、服選びに興味はないのだが……
『陸人くん? 〈感謝してる〉ですよ?』
「……えーっと、オレ、服とか選んだことなくて……あんま関心がないからさ……感謝してます」
「へー? じゃあ、今日のその服なんなのよ? あんたにしては、まぁまぁオシャレだと思ったんだけど?」
「あ、これは、ゆあちゃんたちが」
『陸人くん! ダメ!』
へ?
「……ゆあたちが? へー? ふーん?」
あ、なんか怒らせてしまったのだろうか? なぜに?
「あたしと出かけるために、ゆあたちがねぇ? ふーん? どういうことなのかしら?」
『〈鈴と出かけるとは言ってないよ〉です』
「おまえと出かけるってのは伝えてないけど、どうかしたか?」
「……へ、へ~……そう? な、なるほどね?そういうことなら、そういうことにしておいてあげるわ」
鈴は言い終わったあと、ぷいっ!っと顔を背けた。そんなコイツは、何故か少し頬を染めていた。マジでなんなんだ。わけがわからん。
「ちょっと! 次行くわよ!」
なんかいつも通りプンプンし出した鈴の後を追い、次の店に連れて行かれる。
その後、何店舗かハシゴして、結局、細い線が入ったネイビーのジャケットにグレーのシャツ、白のパンツを選んでもらい、それを購入することにした。あとは、ついでということで革靴も選んでもらう。なかなかにキマってる服装だ。我ながら。服には興味がないが、鈴が「似合っている」と言ってくれたときは素直に嬉しくて、鏡に映る自分の姿を見てテンションが上がったものだ。
ちなみに、買い物のお金はダンジョン攻略で得た賞金を使わせて持っている。賞金の残高は、お父さんと桜先生に管理してもらってるので、今いくら残ってるのか知らないが、余裕で億は残ってるはずである。
オレの買い物が思ったより早く終わったので、桜先生のアドバイスに従い、最上階のレストランでお茶をすることになった。
正面の鈴が、チューチューとジュースを吸っているのを眺める。
「……何見てんのよ?」
「いや、別に。暇だから」
「はぁ? 暇ってどういうことよ?」
『陸人くん? そこは〈服選んでくれてありがとう〉でしょ? あと、暇なんて二度と言わないでください』
ぐぬっ……難しい……
「……えっと、服さ、選んでくれてありがとな」
「別にいいけど……そういう約束だったし……」
また、ジュースをチューチュー飲み出した。どうやら許されたらしい。
『時間もあるので、次は鈴さんの服を見に行きましょうか。たしか、隣接する東棟が女性物のはずです』
マジすか……と心の中で思う。オレに鈴のファッションに口を出せというのか? 難易度が高すぎる……
『陸人くんが鈴さんの服を無理に選ぶ必要はありません。鈴さんが気に入ったものを試着するように促して、似合っていると褒めておけばいいんです』
ふむ。さっきオレがして貰ったことを真似するわけだ。なるほど。それくらいならできる気がする。
『では、飲み物を飲み終わったあたりで、〈せっかくだし、おまえの服も見ていこうぜ〉って誘ってください』
ラジャーです。
「ねぇ、今更なんだけど」
「なんだ?」
「インタビューって、制服で受けないわけ? この前は制服だったじゃない」
「へ? あー……それはあれだ。学校の外とか、テレビ局とかに呼ばれるかもしれないじゃん?」
「でも、防衛大附属の生徒ってことなら、制服で行くものじゃないかしら?」
「たしかに?」
「はい? あんた、何も考えずに買い物に来たわけ?」
「い、いや? 考えた結果、勘違いしたってことでは?」
「アホね」
「なんだこのチビ」
「は? ぶっ殺されたいの?」
「やってみろ」
『はぁ……陸人くん、ステイ』
ワン。
『鈴さんにチビはダメです。フォローしてください。〈おまえは小さいところも可愛いな〉はいどうぞ』
そんなん言えるか!
「……」
睨み合うオレたち。
『陸人くん? はぁ……〈ごめん。それくらいしか欠点がないから言い返せなくて、気に障ったなら謝る〉これならどうですか?』
「ちっ! わたしこれ飲んだら帰るわ!」
鈴のやつがオレから目を離し、乱暴に飲み物を手に取った。飲むペースを上げて、あっという間に飲み干し、立ち上がろうとする。
「あっ!」
「なによ!」
「えっと……待ってくれよ……チビって言ったこと、ごめん……おまえって、それくらいしか欠点がないから……つい、そんなイジり方しちゃってさ……でも、別に背が小さくても、くぁいぃと思う……」
焦ってさっきのアドバイスと混ざった言葉を述べてしまう。あれ? オレ、今なんて?
「……え? ……は? なんて? もう一回言ってくれるかしら?」
「なんも言ってねぇよ!」
「なにキレてんのよ!」
頬を染めた鈴に襟を掴まれる。そこに、
「あのー……お客様、他のお客様のご迷惑になりますので……」
と気まずそうな店員さんがやってきた。
「あ、すみません」
「すみませんでした!」
2人して着席し、大人しくなる。めっちゃ気まずい。オレ、かわいいとかなんとか言ったよな……
「とにかくごめん……」
「もういいわよ……」
「……あ、あのさ! よ、よかったら! せっかくだし、この後、おまえの服も見てこーぜ! 東棟に、たしか女の子の服あるだろ!?」
「……別にいいけど……あんたが選ぶとか言わないわよね?」
「まさか。オレは、おまえが選んでるのを見てるからさ」
「そんなの、つまんないわよ?」
たしかに!
『たしかにな、とか言わないでね?』
ぐぬっ。
『〈つまらなくないよ。選んでるの見たい〉です』
「エランデルノ、ミテタイ」
「なんでよ?」
「なんとなく?」
「……ヘンタイ」
「ぐぬっ……」
なんでだよ!と思ったが口をつぐむ。
『よく我慢しましたね。その調子です。では、頑張って退屈そうにしないようにして、鈴さんに付き合ってあげてくださいね?』
オレは、あいあいさー、と心の中で呟いてから、残りのジュースを飲み干した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます