第92話 はじめての?デート

 翌日、オレは朝早くから、ゆあちゃんの家に呼び出された。まだ7時とかだ。チャイムを押し、おばちゃんが迎え入れてくれたので、階段をのぼってゆあちゃんの部屋に行くと、そこには桜先生と栞先輩もいた。


「なんで2人が?」


「今日のデートの準備のためです」


「デート? 鈴と出かけるだけだって……」


「女の子と2人っきりで出かけることをデートって言うんですよ?」


「そ、そうなんですか……」


「がるる……最近はゆあだってしてないのに……」


 うちの幼馴染が狂犬になっていた。てか、『ゆあちゃんとデートなんてしたことあったっけ?』と思ったが黙っておく。何故かブチギレられる未来が見えたからだ。


「……りっくん? 最後にゆあとデートしたのいつだったかな?」


 にこっ。


「へあ!?……あぅぁ〜……」


「柚愛さん、それはまた今度にしてください。時間が無いので、さっさと着替えさせちゃいましょう」


「む〜……わかった。今は我慢する。鈴ちゃんもきっと楽しみにしてるし……」


 そして、オレの着せ替えショーが始まった。女性陣がスーツケースいっぱいの衣装を取り出して、これでもないこれでもないと、オレの身体に合わせていく。何着か試着させられて、3人から合格をもらえるまでそれは続いた。


 しばらくして、栞先輩がオレのことを上から下まで見て、頷く。ちなみに、髪の毛は栞先輩がセットしてくれた。


「……うん。いいと思います」

「りっくん、いつもこういう服着て欲しいかも」

「ですね。素敵です。うふふ♪」


「ありがとうございます?」


 オレが着せられているのは、白Tシャツにベージュのカーディガン、首にはネックレス的なものをぶら下げさせられ、下は、黒とグレーの薄いチェック柄のズボンとブーツっぽい黒の靴だった。

 日頃、こんなにオシャレをしたことがないので、本当に似合っているのか全く自信がない。鏡で自分の姿を見るが、見慣れな過ぎて落ち着かなかった。


 そわそわしていると、桜先生がボソリと呟く。


「自分たちでコーディネートしといてなんですが、これから他の女とデートに行くと思うと、ムカつきますね」


「……」

「……」


「す、すみませんでした??」


 3人に睨まれたので謝っておいた。


「はぁ……何を謝ってるのかわかってなさそうですが、もういいです。あとは、これを」


 桜先生から耳の裏に貼り付ける通信デバイスを渡されたので、受け取る。ずいぶんと小型のタイプだ。


「なんですか? これ?」


「今日のデート中、私たちがアドバイスするので、それをつけてて下さい」


「アドバイス?」


「そうです」


「な、なるほど?」


 よくわからないが、従うことにした。大人しく右耳の後ろにデバイスを貼り付ける。


「では、鈴さんとの待ち合わせ場所はココですので、今から向かって下さい」


 桜先生が位置情報をデバイスに送ってきたのでモニターを開いて確認する。ここから電車で40分ほどの場所だ。


「了解しました。じゃあ、行ってきます」


「いってらっしゃい。……ずっと、見てますからね?」


「へ? あ、はい……」


 部屋を出るときに不穏な雰囲気を感じ、振り返る。


「ずっと、見てるよ?りっくん」


「ずっと、見てますよ、ふふ……」


 え……何この人たち、こわい……


 オレは、「あー……はい……」とだけ答えて、ゆあちゃんの家を脱出した。



 家を出て、駅まで歩き、電車に乗る。電車に揺られ、桜先生に言われた通りの駅までやってきた。改札を出て、近くの柱を背に時間を確認する。時刻は9:30だ。


「そういえば、待ち合わせ時間って何時なんだ?」


 独り言を呟くと、ピピっと右耳の後ろから音が鳴った。そして、聞き慣れた人の声が聞こえてくる。


『10:00ですよ』


『あ、桜先生。10時なんですか? ん~、まだ30分もあるじゃないですか……知ってたら、もうちょっとノンビリしたのに……』


『陸人くん? 何言ってるんですか?』


『へ? いや、そのままの意味ですけど?』


『デートなんですから、男性は早めに来ておかないと』


『ふむふむ。その心は?』


『それは……先に待っててくれた方が女性は嬉しいからです。私とのデート、楽しみにしてくれてたのかなーってキュンキュンするんです』


『ふむふむ? そういうものなんですね。なるほど』


 ほほう? 全く知らない知識だ。桜先生のアドバイスに感心しながら少し待っていると、9:45くらいに知ってる顔のやつが姿を現した。

 駅のロータリーでリムジンから降りて、オレのことを見つけると、「ふん!」とか言いながら近づいてくる。なんなんだあいつ。


『陸人くん、まずは鈴さんの服装を自然に褒めてください』


 へ? 急にそんな難しいこと言われても……


「……おはよ。なによ、その顔」


「は? なにがだよ?」


『陸人くん?』


「……あー、うん。おはよ……えーっと……」


「なによ?」


 鈴の姿を確認する。


 今日の鈴は、白い長袖のニットに、カーキのロングスカート、靴は茶色のブーツを履いていた。頭にはベージュのベレー帽をかぶっていて、カバンは靴の色に合わせているようだ。うん。オシャレだと思う。で、どう褒めればいい?


「お、オシャレだな?」


「なんで疑問系なのよ?」


「褒め方がわからなくて……」


「なに? 桜せんせあたりに褒めろとか言われてきたわけ?」


 ぐぬ……すぐにバレた……


「いやべつに……」


「はいはい、そんなのいいわよ」


『陸人くん、マイナス5億点です』


 ぐぬぬっ!?


「あー! えっと! 鈴!」


「はい?」


「いつもの服は、活発な感じでおまえらしいって思ってたけど! 今日みたいな大人っぽい服装も新鮮だな!? うん! いいと思う! 似合ってる! 5億点!」


「は、はぁ〜? なんなのよあんた。キモいんですけど?」


 いつものように悪態をついてきたが、鈴の頬は赤い。必死に褒めてみた甲斐は、一応あったようだ?


「今の褒め言葉どうだった!?」


「本人に聞かないでよ! サイテー! ノンデリ!」


 怒られてしまったが、引き続き頬を染めている鈴。マジでなんなんだこいつ。


『陸人くん、謝りなさい。緊張してて変なこと言ってごめんって』


「えっと、緊張してて、変なこと言ってたらすまん……」


「ふ、ふーん……緊張してるんだ? それで、こんなに早く来たってわけ? わたしより早く来ちゃって、そんなにわたしとのデートが楽しみだったわけ?」


 今度はニヤニヤしてきた。

 こいつ!調子に乗りやがって!


「べつに!」


『陸人くん?〈楽しみにしてた〉』


「……タノシミダッタヨ」


「……む……マジで、あんたどうしたわけ? 熱でもあるんじゃない?」


「アリマヘンケド」


「はぁ……もういいから行きましょ。服選んで欲しいんでしょ?」


 そんな話になってたのか?


『インタビュー用の服を用意したいって話にしておきました』


 なるほど。


「うん。オネガイシマス」


「でも、なんでわたしなわけ? ゆあとか、栞とか桜せんせでもいいじゃない?」


「へ?」


『〈おまえが一番センスがいいからだよ〉です』


「オマエガ、イチバン、センスガ、イイカラダヨ」


「……ふーん? なるほどね? 見どころあるじゃない。陸人のくせに」


「くせにってなんだ、くせにって」


「じゃ、とりあえずあそこね。行くわよ」


「あーい」


 鈴が指をさしてから歩き出したので、後を追って隣に並ぶ。まずは、駅前のファッションビルに向かうらしい。

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