第78話 ダンジョンと刀

《荻堂視点》


「任せろ」


 俺は、弟子からSOSを聞いて重たい腰を上げた。何を迷っていたんだ俺は。こんなときに使わないで、何のための力だ。


「荻堂先生どこに!」


「助けに行く」


「でも!先生はもう20歳を超えてます!ゲートで弾かれるはずです!」


「ああ、だから、スキルで向かう」


「スキル……瞬間移動で?」


「ああ」


「でも、そんなことが可能なんですか?」


「試したことはない」


 何故試したことがないのか。やったら、取り返しがつかないことになると、本能が告げていたからだ。


「じゃあ!」


「だが、試す価値はある。小日向、俺が必ず双葉を助ける。もし、俺が死んでも、あいつらに足を止めさせるな。できるな?」


「っ!?……はい!!これを!」


 小日向から、ガスマスクを受け取る。2人分だ。


「あとは任せた」


 そして俺は、目を閉じる。俺の瞬間移動には、距離に応じた使用制限がある。おそらく、ダンジョンのボス部屋まで飛んだら、ほとんどのMPを使い切るだろう。


 つまり片道切符だ。


 それがどうした。


 俺は目を開けて、あのクソと戦った場所を強く念じて、スキルを使った。



 一瞬で、池袋駅ダンジョンのボス部屋までやってくる。8年前、俺のダチがあのヤローに殺された場所だ。だがそこは、俺知っているボス部屋ではなかった。瓦礫が散乱し、炎と煙に包まれている。


 双葉はどこに?……っ!?そういうことか……


 俺は自分の身体に起きた異変にすぐに気づく。しかし、精神を集中して、冷静さを取り戻した。扉の方へ向かうと、双葉が扉にもたれかかって気絶していた。すぐにガスマスクをつけてやると、ピピっとガスマスクが起動して酸素の注入を開始する。


 ガスマスクはもう一つある。俺の分だ。しかし意味はない。俺はそいつを手放し、床に放り投げた。


 双葉のやつを扉から離すために、抱き抱えて、柱を背にして座らせる。

 改めて、扉の方に向き直る。


 咲守と嬢ちゃんが小さい傷しかつけれなかった扉だ。


 そして、8年前、俺が斬れなかった扉だ。


 あの時、薙刀の神器を手渡して、俺のことを外に逃したダチのこと、今でも目に焼きついている。なんであいつは、俺を逃した。なんで俺だけが生き残った。


 あの時は、わからずに刀が折れるまで扉を斬りつけ続けた。


 だから、これはリベンジだ。あのとき掴めなかったものを、取り返しにきた。


 扉の姿を確認する。こいつは、一見、木製のように見える。しかし、そんなものではない。では、鉄か?否、さらに硬い素材だ。


「ふぅぅぅ……」


 息を吐き。腰を沈める。


 刀に手をかける。


 俺がこの8年、どれだけ積み重ねてきたと思ってる。俺に斬れないもんなんてねぇ。


 絶対に斬り開く!!


 腰を捻り、右足を一本前に出し、左足を踏み込む。それらを同時に行って、右手を振り抜いた。


 ……キン。


 刀は左下段から右上段に向かって振り抜かれていた。刃は、健在だ。


 ガコン。重たい音が鳴り、扉があちら側に倒れる。


 扉の向こうに、泣いている弟子たちの顔を見つけた。


 俺は笑っていたと思う。すぐに双葉を抱えて、弟子たちの元へ駆け寄った。

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