第74話 城内からボス部屋へ

 城内は、日本の城そのまんまの内装だった。小学生のときに社会科見学で行った城のことを思い出す。木の床に、白い塗り壁、木の梁が見えている天井だ。廊下は狭く、人2人がすれ違うくらいの広さしかない。


「ステージ3ってとこかしら」


「ま、そうなるな。じゃ、ここはよろ」


 オレは丁寧に手のひらを上にして、鈴にお辞儀しながら先を譲った。あれだ、執事っぽいポーズというやつだ。


「なんかムカつくわね」


 言いながら、オレの横を通って前に出るクソガキ。舌打ちでもしそうな顔だ。


「チッ!」


 ホントにしやがった。


「なんだこのまろ眉」


「あんた、何度言ったらわかるわけ?殺すわよ?」


 カチャ。顎に銃口を当てられたので万歳して降参の意思を示す。やれやれだぜ。


「むー……なんか2人って息ピッタリだよね……」


「そうですね。嫉妬しちゃいます。ふふ」


 2人の声を聞いて、オレたちはどちらからともなく距離を取った。


 シミュレーション通り、鈴が先行して廊下を進んでいく。二丁拳銃を構えながら、警戒を怠らない。

 ボスは最上階にいるとのことなので、オレたちは、上階の階段をまずは目指していた。長い廊下は、右側が壁になっていて、左側は引き戸がずらっと並んでいる。城の一番外側を歩いていく。


「前ばっかじゃなくて、引き戸側も警戒しろよ〜」


「うっさい。わかってるわよ」


 とのことだ。今日も実に生意気である。


 少し進んで、角を曲がると、そこに着物姿の侍が2人、待ち構えていた。今まで襲ってきたやつらと同じく、顔と身体は黒塗りだ。侍黒子と名付けよう。


「任せて大丈夫か?」


「もちろんよ!」


 鈴が低く走りながら銃を乱射する。侍黒子たちは致命傷を避けるように刀で光弾を弾いているが、何発もかすっていた。


 鈴と侍黒子2人が接触するほどまで近づく。2本の刃が振り下ろされるが、鈴はそれをするりと身体を横に捻ってかわす。そして、壁を蹴って、殴りざまに光弾を撃ち込んだ。1人目を倒す。


 残りの一体が横なぎに刀を振るう。その刀は鈴の頭を捉えようとするが、ギリギリのところで後ろに身体を倒して避ける。そのままバク転するチビ。敵の刀は、柱に突き刺さっていた。


「うわぁ〜、鈴ちゃんの戦い方って冷や冷やする……大丈夫かな……」


「いや、大丈夫だよ。余裕でしょ」


「そうなの?栞ちゃんはどう思う?」


「ええ。鈴ちゃんにはまだ余裕が感じられます。大丈夫ですよ」


 オレたちが話していると、鈴が最後の一体倒して手招きしてきた。みんなで近づいて労うことにする。


「お疲れ」


「こんなの楽勝よ」


「またまた。代わってやろうか?」


「ボスはあんたと栞がメインなんだから、大人しくしてなさい」


「あいあい」


 まぁ、鈴の言うとおり、これは事前に考えてきた作戦なので言うことを聞くことにした。狭い城内では、小回りが利く鈴に任せて、オレたちは体力を温存することになっているのだ。


 先に進み、もう一体の侍黒子を倒したら階段に辿り着いたのでのぼっていく。城らしい無駄に急な階段だった。


 2階でも特に問題は起きず、鈴が4体の侍黒子を倒して3階へと登った。


 全員が登ったのと同時に3体の侍黒子が正面から突っ込んできた。肩をぶつけ合って、ぎゅうぎゅうになりながら突進してくる。ヤケクソのようにも見える。


「なんなのよ、こいつら」


 鈴が呆れ声を出しながらワイヤー銃を天井に撃ち込み。3体の侍黒子を飛び越えながら頭上を撃ち抜く。その動きで2体を倒し、着地してから接敵、顎に銃口を当ててアッパーでもするように撃ち抜いた。


「パチパチ」


 口で拍手しておく。


「なんなのよ。ムカつ――」


 憎まれ口を言いかけたとき、鈴の真横の引き戸が勢いよく外れ、鈴目掛けて飛んできた。どうやら、部屋側から引き戸が蹴り飛ばされたようだ。


「っ!?」


 鈴は、猫のように身を低くして引き戸を避ける。しかし、それを真上から叩き斬ろうと2体の侍黒子が刀を振り下ろそうとしていた。


 キン!キン!


「代わってやろうか?」


 鈴の頭上から話しかける。オレは双剣で二本の刀を受け止めていた。


「なによ?避けれないとでも思ったわけ?」


「いや、おまえ、銃で受けようとしただろ?壊れるぞ?」


「壊れないわよ!」


 Bang!Bang!憎まれ口を叩きながら胸の中でしゃがんでいるチビが侍黒子の腹に光弾を叩き込んだ。2体とも光の粒となって消えていく。


「邪魔なんだけど?」


「はいはい」


 一歩下がると、ジト目の鈴が立ち上がってきた。オレのことを睨みつける。


「ま、気をつけろよな。それとちゃんと頼ってくれよ」


「なによ……ふんっ!わかってるわよ!」


「ねぇ?栞ちゃん、あれ、ほんとに好感度70ちょっとに見える?」


「んー、見えないような気もしますね?」


『おまえら、もうボス部屋まですぐだ。気合い入れろ』


「はぁーい」


『みんな、本当に気をつけて』


 オレたちは師匠たちの声を聞きながら、4階へと上った。


 4階には侍黒子の姿はなく、立派な扉が一つ、正面にあるだけだった。

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