第73話 城を目指して

 城下町に入ったオレたちは、オレと栞先輩を先頭にして前進していた。オレが左側で、栞先輩が右、その後ろにゆあちゃん、さらに後ろに鈴、の布陣だ。


 舗装されていない土の上を歩いていくと、すぐに左右の建物の中から物音が聞こえてくる。バタバタ、ガタガタと慌ただしく、人の気配を感じさせた。


「みんな!くるぞ!」


 そして、正面4軒の家の引き戸がピシャン!と開け放たれた。中から、農具を持った農民のような男たちが現れる。服装は短パン半袖の着物、服の中の身体は真っ黒で顔も黒く染まっていた。農民の衣装を着た黒子という様相だ。


「ゆあちゃんは矢を温存!オレと栞先輩で叩く!」


「了解!」


「行きます!」


 オレと栞先輩が同時に走り出す。オレはクワを構えている農民黒子、栞先輩はツルハシの農民黒子の相手だ。同時に打ち合う。いや、打ち合いにすらならなかった。オレたちは、武器もろともそいつらの身体を引き裂く。


「このまま奥も行きます!」


「わかりました!」


 2人して走って、残りの2体も切り裂いた。


「余裕って感じね」


「お疲れ様!2人とも!」


 戦いを終えたオレたちの元に鈴とゆあちゃんが近づいてくる。


「ま、余裕だな」


「ですね」


 オレと栞先輩は笑顔で答える。


『おまえら、このエリアは雑魚しか確認されてないからって油断すんな』


「了解です!」


 師匠に喝を入れられたので、気を引き締めてから、城を目掛けて進むことにした。


 引き続き城下町を歩いていくと、似たり寄ったりの農民黒子が何体も現れた。大体2体から5体くらいがひとまとまりになって襲ってきたが、余裕で倒せるので張り合いはない。


 ゆあちゃんの矢やグランシールドは温存するとして、鈴は準備体操がしたいと言って戦いに参加した。ワイヤー銃で屋根にのぼり、屋根の上から農民黒子を蹂躙するクソガキ。無表情で降りてきて、「準備運動おわり。あとは任せるわ」と勝手なことを言って、元の配置に戻って行った。


「なんだあいつ」


「まぁまぁ、もともとこのエリアは私たちの担当でしたし」


「まぁ、そうなんですけどね。まぁいいや、行きましょう」


「はい」


 ということで、オレたちは余裕で城の正門まで辿り着いた。


 正門には、丈夫そうな木製の門が屋根瓦に囲われて建っていた。今はまだ閉まっている。


 警戒しながら近づくと、聞いていた通り、門が勝手に開き出した。ギィ……と重い音をたてて開く門。歓迎されているようで、でもどこか不気味な雰囲気を醸し出している。このあとに起こることを知っているから、そう感じるのかもしれない。


「ゆあちゃん、準備して」


「うん!もうしてる!」


 回答を聞いてから門をくぐる。門の先は、運動場のような、だだっ広い空間で、その奥に堀があるのが見えた。堀には水が張られていて、城の周りを囲うように作られている。


 城に近づこうとすると、すぐに馬の蹄の音が聞こえてきた。パカラ!パカラ!音の感じからして2頭だろうか。


 堀にかけられた橋の向こうから、騎馬に乗った弓兵が現れる。緑色の甲冑を胴体と腰に装備し、頭には烏帽子、片手には弓を握っていた。鎧の中は真っ黒で、さっきの農民黒子と同じ身体に見える。これも情報通りだ。


「ゆあちゃん、いけそう?」


「うん。大丈夫」


「飛んできた矢はオレたちが弾くから、ゆあちゃんは的に集中して」


「よろしくね」


 ゆあちゃんがアーチェリーを構えて深呼吸する。


 弓黒子の方も、オレたちの周りを走りながら弓を構えていた。パシュ!矢の音。オレはそれを双剣の腹で叩き落とした。反対側で、栞先輩も同じように薙刀で矢をはたく。


 パシュ!パシュ!オレたちの近くから鋭い風切り音が鳴る。ゆあちゃんが素早く2本の矢を放っていた。

 2本の矢は弓黒子の頭に見事命中。弓黒子が消えてから、乗っていた騎馬も遅れて光になって消えていった。


「あんたの弓もずいぶん上達したわね」


「へっへー!鬼教官のおかげだね!」


『おい。油断すんな。特に的場。おまえはいつでもグランシールドを張れるように心構えしとけ』


 また、通信デバイスから鬼教官が喝を入れてきた。


「ひゃい!油断しません!してません!」


 ゆあちゃんがわかりやすくビビる。


『そこにいると無限に騎兵が湧いてくる。さっさと城に入れ』


「了解です!」


 オレたちはアドバイス通り城に繋がる橋に向かって走り出した。


 橋の手前でまた騎兵が2体やってきたので、ゆあちゃんに正面から射抜いてもらい、そのまま、城へと踏み入る。

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