第68話 恋の宣戦布告
《栞視点》
みんなに陸人くんへの好感度を見られた後、私は柚愛ちゃんたちに連行された。
そして、鈴ちゃんが選んだ高そうなレストランの個室に入り、4人で腰かける。目の前には、柚愛ちゃんと桜先生、隣に鈴ちゃんだ。柚愛ちゃんが『やっと詰められる』と言わんばかりに口を開いた。
「ねぇ!好感度96ってどういうこと!」
「ど、どうと言われましても……」
「まぁまぁ、柚愛さん、落ち着いて?というかうるさいです」
「桜ちゃんだって気になるでしょ!」
「まぁ、そうですね。ところで、鈴さんはなんで来たんですか?陸人くん争奪戦には参加しないんですよね?」
「ええ、参加しないわよ。暇だったから女子会に来ただけよ。あんたたちの恋バナを肴にしてるから、存分にやってちょうだい?」
言いながら、鈴ちゃんは高そうなドリンクをストローで飲みながら私たちのことを見ていた。少しニヤついているようにも見える。
「そうですか。なんか気になる言い方ですが、今はいいでしょう。で、栞さん?」
柚愛ちゃんに続き、桜先生にまでロックオンされてしまったようだ。ちょっと怖い……
「なんですか……桜先生……」
「ずばり、陸人くんのこと、好きなんですか?」
「……」
ズバリすぎる質問に私は口を閉じ、下を向く。
「96もあるんだもん!ゆあの目は誤魔化せないよ!栞ちゃん!」
「柚愛さん、うるさいですよ」
「がるる!」
2人の剣幕を見て、逃げれないことを悟った私は、正直に自分の気持ちを話すことにした。2人も大切な仲間だ。後々揉めるくらいなら、早めに打ち明けておいた方がいいと考えたのだ。
「えっと……陸人くんのことは……異性として意識してます……」
「やっぱり!クラスに入ったときから怪しかったもん!いつの間にか本気になって!なんでよ!なんで、みんな、ゆあからりっくんのこと盗ろうとするの!」
「怒り狂ってて草w」
「鈴ちゃんはゆあの味方でしょ!」
「んー?まぁそうなのかしら?とりあえず、続けて?」
「ふぅ……では、栞さんも陸人くん争奪戦に参戦するということでいいですか?」
「……はい。負けません」
宣戦布告、というやつだろう。私は半年前には明確にしていなかった自分の意思をしっかりと口にする。
「キー!」
「柚愛さん、落ち着きなさい。勝つのは私です」
「はぁ!?勝つのはゆあなんですけど!?あー!もっとキレそう!りっくんはゆあのなんだから!」
「この狂犬は置いておいて、なんでこの半年間で陸人くんのこと、本気になったんですか?そのあたりのこと、詳しく聞きたいです」
暴れている柚愛ちゃんと対照的に、桜先生は冷静だった。冷静すぎて、逆に怖いような気もしますが……
「えっと……真摯に強さを求めている姿が父のようでカッコよくて……それに、1番厳しく指導されてるのに楽しそうで……私は実は結構しんどかったんですけど、しんどそうにしてたら励ましてくれて、ドキドキしたんです……〈一緒にがんばりましょう!〉って笑顔で言ってくれて……ほら、陸人くんって優しいから……」
「そうそう!りっくんって意外とそういうところ気づいてくれるんだよね!……はっ!?でもダメ!あげない!」
「まぁ、栞さんの言うことはわかります。私のときも過去のトラウマから救ってくれましたし。優しいヒーローですよね」
「そうかしら?あいつノンデリだと思うんだけど?」
賛成3の反対1だった。鈴ちゃんは、本当に何しに来たんだろう?
「やっぱり……みんな、陸人くんの優しくて強いところが好きなんですね。あの、2人は陸人くんの好感度、カンストしてるんですよね?」
「え?そ、そそ、それはそうだけど?」
「ええ、なぜそのようなことを?」
2人は頬を染め、恥ずかしそうにする。
「えっと……カンストすると、陸人くんのスキルにボーナスが入るって聞いてて……私も陸人くんの役に立ちたいから……どうしたら、カンストするのかなって……」
「なるほど、たしかにカンストボーナスは大きな力になりますよね。ちょっと恥ずかしいですけど、お話します。私の場合は、トラウマで倒れそうになったときにずっと寄り添ってくれて、支えてくれたぬくもりで、この人しかいないって思ったんです。そしたら、いつの間にかカンストしてました」
「ぬ、ぬくもり……ですか……」
ゴクリと喉が鳴る。私は自分の頬が赤くなっていることを自覚していた。恋バナなんてしたことがなくて、ワクワク、ドキドキする。それにしても、〈ぬくもり〉って一体どんな……
「ゆ、柚愛ちゃんは?」
「ゆ!ゆあのことは秘密!」
「ええ!私教えてほしいです!ほら!陸人くんのためにもなりますし!」
「必死で草w」
「うー……りっくんのため、りっくんのため……ゆあの場合はね……小さい頃からりっくんのことが大好きで、一緒に訓練するようになってからスキンシップを取るようになったらカンストしたよ?」
ゆあちゃんが真っ赤になりながら目を逸らす。私は自分のことのようにドキドキして、どんどん心臓が早くなっていった。
「す、スキンシップって……ど、どんな?」
「手を……」
「手を?」
「繋いだりとか……」
「うん……うん……」
「抱き合ったりとか……」
「だだ!抱き合う!?」
「痴女で草w」
「なんですか?それ?私初耳なんですけど?柚愛さん、あなた陸人くんと一体なにしたんですか?ねぇ?ちょっと」
「うー!はずかしいー!ゆあだけこんなことしちゃってー!えへへー!」
ゆあちゃんは両頬に手を当ててクネクネしている。真っ赤になって、でも、どこか優越感が滲み出していた。
隣にいる桜先生の怒り具合からも、ゆあちゃんがしたことがすごいことなのだと、私でも理解できた。
「て、手を繋いだり、だ、抱き合う……」
ゴクリ……何故か、また、喉がなる。
ブルブル。
「?」
ドキドキしていると左手のエニモが振動してメールの通知を教えてくれる。『誰だろう?』とメールを開くと、今まさに話題に上がっている男の子だった。
『栞先輩!こんばんは!さっきは訓練お疲れ様でした!あのあと、師匠と話したんですが、オレがもっと強くなるために栞先輩の好感度を100にしていただいて、カンストボーナスをもらうべきでは?という話になりました。栞先輩にもっと信頼してもらえればカンストすると思うんですけど、オレ、それ以上はよくわからなくて……一緒に考えてもらえませんか?』
ドキドキ……
渡りに船であった。私も陸人くんと同じで、恋愛にはすごく疎い方だと思う。でも、こんなことを直接聞いてくるあたり、陸人くんは私以上に恋愛のことわかってないんだろう。
なら……私にもチャンスあるかも……
私は、言い争っている柚愛ちゃんと桜先生をチラリと見てから、みんなには相談せずに、こっそりと陸人くんに返信することにした。
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