第40話 美人女教師のトラウマ
「とりあえず、ボス部屋まで行きましょう。桜せんせに、あんたとボスとの戦い見てもらいましょうよ」
「うぃー」
オレたちは、VR訓練にて、この前攻略した目白駅ダンジョンを投影してゲートを入ったところで話し合っていた。
「で、では、練習も兼ねて、ルート案内は私が担当します」
緊張した様子の桜先生の声が通信機越しに聞こえてくる。後ろを振り返ると、桜先生が操作しているボール型ロボットがフワフワと浮いていた。
「桜先生、案内、お願いします」
そして、オレたちは桜先生の指示に従ってダンジョンの中を歩き始めた。
「それじゃあ、次は左に曲がってください」
「あれ?ここは右に行った方がいいんじゃ?」
慣れ親しんだダンジョンなので、桜先生の指示に疑問を感じる。右の方が近道だったはずだ。
「モンスターとの遭遇率を計算して、なるべく遭遇しないようにしているので。指示に従ってもらえますか?」
「へぇ?了解しました」
桜先生の指示通りに歩いていくと、たしかにいつもよりモンスターに遭遇しないで進むことができた。しかし、15分くらい歩いたところで1回目のエンカウントに合う。相手はゴーレム3体だ。
「よーし、準備運動にオレが戦ってもいいかー?」
「いいわよ」
「どーぞー」
「……ふぅ……ふぅ……」
2人の了承を得てから走り出す。いつものように双剣を投げつけ、そいつがゴーレムに当たる前にもう1セットを構えて走り出した。
一体目を切り裂き、奥の一体を倒した双剣が戻ってくるのをキャッチして、最後の1匹を倒そうとしたところ、
「ひゅー、ひゅー……はっ、はぅ……」
「ん?誰か何か言って?……桜先生?」
「はぁ!はぁ!……ご!ごめ……わた……し!」
「桜先生!?」
オレは異変を察知して、すぐにVRモードをオフにした。振り返ると、桜先生が苦しそうに下を向き、胸を押さえている。今にも椅子から転げ落ちそうだ。
「桜先生!」
すぐに駆け寄って肩を持った。鈴とゆあちゃんも来てくれる。
「ど!どうしたんですか!?」
「桜せんせ!深呼吸して!」
「桜ちゃん!?」
「ひゅー、ひゅー、ご、ごめ……」
オレはもたれかかってきた桜先生を受け止めて、そのまま支える。地面に座ってお姫様抱っこのようにして、肩を持った。
「ふー……ふー……」
「桜先生!しっかり!鈴!保健室に連絡を!」
「わかった!」
「だ、大丈夫だから……ふっ、ふー……鈴さん、待って……はぁ、はぁ……」
「でも!」
「大丈夫……精神的なものだから……ふー、はは……」
大丈夫というわりに全然よくなりそうにない。すごく苦しそうで真っ青だ。それなのになんでもないように笑う桜先生が痛々しかった。
オレは、不安で仕方がなくて、空いている左手で、桜先生の手をぎゅっと握りしめる。
「あっ……」
その手を見つめる桜先生。すると、少し呼吸が落ち着いてきたように思う。
「ふー、ふー……ありがとうね。陸人くん」
「い、いえ……」
「桜ちゃん、大丈夫なの?」
「ええ……ちょっと、あはは……トラウマになっちゃってるみたいで、ダンジョンが……」
「そんな……言ってくれれば、VR訓練なんてやらなかったのに……」
「あはは、大丈夫かと思ったんだけどね。最近は発作も無かったし。でも、いざモンスターが出てきたら、すごく怖くって……」
「すみません……気づかなくって……」
「ううん。どちらにしろ、オペレーターをやるなら乗り越えないといけないことだし。うん、もう大丈夫。訓練続けましょう」
桜先生がオレの腕から立ち上がろうとする。
「ダメです!」
明らかに無理をしているのがわかった。オレは、肩を握る手に力を込めて起き上がらせないようにする。
「あっ……あはは、陸人くんってば強引だね?」
「無理は、しないでください」
「ありがと……」
「オレ……オレなんて言えばいいか……オレが桜先生を守ります。だから、安心して。深呼吸してください」
「うん……すぅーはぁー……すぅーはぁー……ありがと、だいぶ落ち着いたよ?」
「今日の訓練は、もうやめておきましょう」
「ダメだよ。私も皆の役に立ちたい。だから、このトラウマは絶対に乗り越えないといけない。ううん、乗り越えたいの、自分のためにも」
「でも……」
「なら、まずはモンスターとの戦闘なしのモードにするのはどうかしら?」
「鈴ちゃん?それはどういう?」
「トラウマってのは、徐々に慣らしていくものなのよ。まずは簡単なことから、徐々にね」
「なるほど。でもさ、今こんなに苦しそうなのに……今日はやめておいた方がよくないか?」
「陸人くん、ありがと。でも、大丈夫。皆には悪いんだけど、少し1人で訓練させてもらえるかな?鈴ちゃんの言った通り、まずは1人でダンジョンを歩き回ってみるね」
「いえ、1人はよくないと思うわ。陸人」
「わかってる。桜先生、オレがそばについてます」
「いいの?でも……」
「大丈夫です。オレの訓練は家でもできます。桜先生に恩返しさせてください」
「そんな……恩返しなんて……私なんてなんにも……」
「そんなことありません!桜先生は政府とのやり取りも!鈴のスキルのことだって色々力になってくれてるじゃないですか!」
「私、役に立ててるのかな……ほんとにいいの?甘えても」
「もちろんです!桜先生はオレたちの大切な仲間なんですから!頼ってくださいよ!」
「陸人くん……やっぱり、陸人くんは私の王子様だね。すごく優しくって、すごくかっこいい」
「へ?あー、えっと……」
「桜ちゃん?ゆあも手、握ってあげよっか?」
「結構です」
「んふふ……」
「あはは〜……お気遣いどうも」
「ふん!元気みたいだし!りっくんが近くにいたらすぐ治るんじゃない!鈴ちゃん!ゆあたちは訓練再開するよ!」
「はいはい。ま、あんたにしては大人の対応なんじゃない?成長したわね」
「どういう意味!鈴ちゃんのイジワル!」
ぷんぷんしているゆあちゃんと、やれやれといった感じの鈴が離れていく。またVR装置のところまで行って訓練を再開した。
オレは桜先生を椅子に座り直させて、すぐ横に寄り添って手を握った。
「大きい手……」
「そ、そうですか?」
「うん。それにあったかい……よし!がんばるぞ!」
「絶対に無理はしないでくださいね?キツかったら、すぐにやめましょう」
「ありがと、優しいね。もし、キツくなったら……抱きしめてくれる?」
うるうると、懇願される。
「だ、抱きしめ?」
「だめ、かな……」
「い、いえ!オレにできることならなんでもします!」
「あ、ありがと……」
「いえ……」
2人して、もじもじしながら下を向く。
それから、桜先生のVR訓練が再開した。カメラモードにして、自分は動かずにダンジョンの中を歩き回っているだけにしているのだが、それでもやっぱり苦しそうだ。オレも同じ画面を見るようにしているのだが、角を曲がるときとかは特に緊張しているように見えた。
オレの手を握る右手に力が入っている。でも、それでもなんとか頑張ってくれた。時折り休憩して、「大丈夫、オレがそばについています」そう言い続けた。
そして、1時間ほどの訓練が終わる。
桜先生を職員室まで送っていき、「大丈夫だよ」と微笑んでくれたので、オレは教室に戻ることにした。
廊下を歩いていると、頭の中にアナウンスのようなものが流れる。
『小日向桜の好感度がカンストしました。好感度ボーナスとして1ポイント、カンストボーナスとして10ポイントが付与されます。現在、26ポイントが割り振り可能です』
「……なぜ?」
オレは、廊下で立ち止まり、呆然と、そう口にした。
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